39話「情報屋と竜人」


 カッパ型モンストールを討伐したその後も、モンストールや魔物が何体か出現してきて船を見破ってきた。アレンとクィンが主に迎え撃ち、倒していった。

 最初に出てきたカッパみたいなレベルではなかったので、二人で容易に突破できた。

 ただ、1体だけレアな固有技能を持った奴が現れたので、そいつだけは俺が喰らって仕留めた。

 イードの港から出航して約3時間半後、陸が見えてきた。あれがアルマー大陸か。空からその陸地を見ると、「α」の形をしているのだとか。

 俺たちが着いた場所は大陸の南部だ。この大陸にある人族の大国ドラグニア王国は、大陸中央部に位置している。その王国の上部分の陸地もかつて領土としていたのだが、現在はモンストールに支配されている。

 そして俺たちが今いる大陸南部地帯は、魔族である竜人族の領土になっている。

 といっても、船を泊める場所の陸地は人族・魔族共用地となっているため、不法入国にはならない。

 船着き場には人族と竜人族が入り混じっていた。その比率は人族がほとんどだった。竜人族は空を移動するのが主流であるため、海を渡るのが少ないのだそうだ。そもそも彼らの国があるこの大陸からあまり離れないらしい。

 人と竜は国間としては疎遠関係だが個人の間ではそうではないらしい。こうして同じ空間にいるのが証拠だ。

 船着き場だが、ここでは両方の種族間の経済や軍事事情の情報交換する地としても利用されている。


 「ここで少し情報を探ってみるか。イードには無い情報が得られるかもしれないし。もしかしたらいきなり鬼族の情報を持っている奴がいるかもしれないし」


 昼前の時間帯だからフードコートみたいなところが賑わっている。ここに来るまでけっこう戦闘があって二人とも疲れているだろうから、ここで1時間程休憩をとることにした。

 海の幸料理が食べられる店に連れて行き、二人をそこで休ませた。

 その間俺は、食べ歩きしつつ、ドラグニアと竜人族の情報を探りに行く。久々の単独行動だ。


 情報のやり取りをしている場所といえば、酒場あるいはバーが典型的なものだが、この世界でもそこは共通だったようで、人族と竜人族が向かい合って何か話し合っているのがちらほら見られる。内容の大半が、それぞれの領地で採れる旬の食材だの、モンストールの活動についてだの、国が今どんなところに目を向けているだのと、ありふれたものだった。

 こうして見てみると人と竜が疎遠だというのは案外誤解だったのだと思わされる。いや…この大陸にいる人族とだけが親しいのか。他の大陸の人族とだとああはいかないのか。


 盗み聞きしても大した情報が掴めそうにないので、まずはその辺にいる竜人族の男に話しかけてみる。


 「なぁ、竜人族が鬼族の生き残りと遭遇したって話を風の噂で聞いたんだが、詳しい話聞けないか?」


 竜と言っても蜥蜴みたいな奴だ。そいつは俺を見ると意外そうな顔をする。


 「その情報をどこで……?まあいい。今から一週間程前だったか、“序列”を与えられている戦士の同胞が、竜人の管轄内の森で鬼族を数名発見したそうだ」

 

 早速当たりを引いた。昨日食事場で聞いた情報は本当だったようだな。だが肝心の生死についてまだ聞いていない。気になる単語も出て来たがそれは後で訊こう。


 「その鬼族たちは今どうしているんだ?まさか殺したのか?」

 「生憎だが俺は十日前から国を出ていてね、鬼たちをどうしたまでかは把握していない。

 だが……続きを知っている情報屋に心当たりがある。そいつは今日は……」


 キョロキョロ辺りを見回して、やがて左側のテーブルに目を止める。


 「いたぜ。眼鏡をかけた青い髪の男だ。奴は人族の中でも優秀な情報屋だ。

 しかも奴には竜人族の用心棒がいる。それも序列が与えられている戦士の竜人をだ」


 蜥蜴が見ているテーブルを見ると、確かに青い髪の眼鏡かけた男が、束ねた紙を眺めているな。見た目は三十代か。


 「アルマ―大陸のことなら大体のことを把握しているそうだぜ。人族についても竜人族についても。そいつに聞いてみな」

 「教えてくれてサンキュ。礼金だ」


 蜥蜴に情報料を出して、例の男がいるテーブルへ移動する。近づいたことで例の男の傍には大きな竜人族がいることに気づく。奴が用心棒ってやつか。

 俺が向かってきていることに用心棒の竜が先に気づいて、次に例の男もそれに気づいて俺を見る。


 「僕に何が聞きたいことがあるのか、少年?まずは名前を教えてくれないか?」


 「鑑定」でこいつの名前を調べる。コゴルという名前だ。


 「冒険者のオウガだ」


 するとコゴルは眉をピクッと動かして訝し気に俺を見る。


「オウガ…?昨日イード王国からSランクに昇格した冒険者が出たと聞いている。良くも悪くもその名の冒険者は有名だ。Bランクの冒険者を半殺しにしたとか…」


 もう知られているのか。いやこいつの情報収集能力が凄いのか。蜥蜴が言っていたことは本当らしいな。


 「それよりも君、大人をからかうのなら相手を選んでほしいな。僕はこの大陸ではちょっと有名な情報屋でね。そういった冗談に付き合う趣味はない」


 と、コゴルは俺が嘘をついているガキだと思い鼻で笑いながら言う。

 仕方ないので、冒険者証としても利用できるプレートを男に見せてやる。


 「…まさか本物!?そんな、君が?あり得ない…!いや、プレートを偽造するなど不可能だ。本当にあのSランク冒険者オウガだと言うのか!?」


 その声に、周りの人族や竜人族が俺たちに注目する。あちこちから俺を怪し気に見てくる。鬱陶しい視線だ。この男が焦る様子はそれだけ珍しいってことか。本当に有名人なんだな。


 「ああ、俺がオウガだ。ちなみにあの大剣使いの冒険者を締めたのは、力を証明しろって言われたからその通りにしただけだ。酔ってトラブったわけじゃねーぞ。そこだけ分かっててほしーな」

 「……驚いたな、僕の中ではいちばん話題になっているあのオウガが、こんな少年だったとは……。あまりに何も感じられなかったから冒険者ですらないと思ったね」

 

 やっぱりオーラとか覇気とか感じられないから俺を疑ったのか。まあいい、本題に入ろう。


 「聞きたいことがある。鬼族についてだ。彼らがどうなったのかについて何か知らねーか?」


 俺の言葉を聞いた傍らにいる竜人がピクリと反応してこちらを見る。眼が鋭いから睨んでいるように見える。いや実際に睨んでるのか。

 

 「………その前にいいかい?」

 

 俺の質問にコゴルは答えず、いきなり自分の要件を言おうとする。


 「プレートを見せてもらっておいてなんだが、正直君がSランク冒険者とはまだ納得できない。Sランクの冒険者や魔族の戦士は何度か見たことがあるんだが、君みたいな何も感じられない男は初めてだ。第一、数日前まで全く無名だった者がいきなりSランクに昇格したこと自体疑わしいしね」

 「俺にどうしろと?」

 「証明してくれないか?Sランクの実力を見せてくれれば、君がSランク冒険者のオウガだってことを信じよう」


 昨日のギザ髪冒険者と同じ、面倒くさいことを言いやがる。ついで彼は用心棒の竜人を見やる。


 「知ってると思うがこの人は僕の用心棒でね。Sランクに近いAランクの戦士だ。彼をダウンさせたら、合格としよう」


 こいつの言葉を聞いた周りの奴らが俺を見て馬鹿にするように囃し立てる。あーあ、なんか鬱陶しいことに…。ま、この見た目と死んだことでオーラも覇気もない状態で、俺はSランクだぞーって言ってそれを鵜呑みにする奴はいないか。

 この竜人族、たしかに中々強いな。ま、普通の人にとってはだが。

 それにしても、周りにいる人や竜どもがピーピーとウゼぇな。明らかに俺を雑魚扱いしてやがる。昨日出来なかった野次どもへの制裁を、今日はやってやろうかな。クィンもいないし、遠慮要らないよな!

 よーし、この竜人を捻るついでに、あいつらもやっちゃいますか。


 「表へ出ようか。ここでは迷惑がかかる」


 竜人が厳かにそう喋る。それに従い、酒場から出る。俺たちの後に何人かも出てきて、野次馬観衆ができる。

 遊ぶ気はない。竜人族の戦闘法に興味はあるが、また今度でいい。


 「では、始めようか。加減は要らぬ。その代わり、こちらも加減はしない」


 そう言って、竜人は全身から殺気を出す。その殺気に野次馬どもが反応する。ビビッて尻を着く奴、漏らした奴などなど。俺はというと、全く動じていない。ゾンビ化の影響でそういった感情は抜け落ちている。

 竜人が駆けてくる。爪を立てて俺を切り裂こうとしてくる。ただまっすぐ突っ込んでくるのではなく、魔法攻撃をいつでも躱せるよう、身体をブれさせながら駆けてくる。見たことない走法だ。


 が、今の俺には関係ない。俺の「複眼」と「未来予知」は、全ての動きを見切り予知する。

 冷静に正確に竜人の動きを読んで、奴が突っ込んでくる位置を先読みして、そのタイミング通りに魔法を唱える。


 水魔法“絶対零度ぜったいれいど


 昨日の鬱憤晴らしも込めて放った全てを凍らせる魔法で、一勝負を一瞬で終わらせた。




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