36話「救世団と鬼族の情報」


 「これで俺のことは全部話した。さっきも言ったが、俺はドラグニアに帰る気は全く無い。今の俺には漠然とだが目標がある……元の世界に帰ることだ」


 食事を終えて一息ついたところで、先程話した内容を簡単にまとめる。今の俺が何の為に旅をしているのかをクィンに教えてやる。


 「コウガさんが元いた世界に帰る……それが今のコウガさんの目標なんですね?」

 「ああ。最初から勝手にこんなところに来させられた上、死んだりもした。正直こんな世界にはうんざりしている。早く元の世界に帰りたいと思ってる」


 俺の言葉にクィンもアレンも俯く。二人ともこの世界でかなり苦労させられているのだろう。主にモンストールが原因で。


 「私は、コウガには残ってほしいと思ってる。仲間たちと一緒に暮らす未来があったらって、思ってる」


 アレンは俺にそんな理想を話してくる。

 

 「でも……コウガの元の世界へ帰りたい意思が強いって分かったから、私はコウガを止めない。協力して元の世界に帰してあげたいと思ってる」

 「そうか。すまねぇな、こればかりは譲れないことだから」


 アレンの肩を撫でてそんな言葉をかける。


 「異世界へ移動する魔法。そんな空想的な魔法など聞いたことがありませんが……異世界召喚というこれもまたあり得ないとされていたことが実現されていますから…。もしかするとあるかもしれませんね、コウガさんが元の世界に帰る方法が」

 「ああ、俺もそう思ってる」

 「ごめんなさい。私はそんなに頭が良い方ではないので、コウガさんに何か手がかりを提供することは出来ないのですが…」

 「気にするな。それを見つける為の旅だからな」


 食後のジュースを飲み干してから、クィンはアレンに目を向ける。


 「アレンさんは、何か目的があるのですか?」

 

 一拍おいて、アレンは静かに答える。


 「私の両親を殺して里を滅ぼしたモンストールを殺すこと、鬼族の仲間たちを集めて里を復興させること、私たちを害した魔族たちを倒すこと……やることはたくさんある」


 そこからアレンの事情も話すことになった。話が終わった時のクィンは、どこか暗い顔をしていた。


 「アレンさんは、復讐の道を進んでいるのですね」

 「うん…そうなる」

 「動機はどうあれ、あなたもモンストールを滅ぼそうとしている。そういう点では共に戦うことが出来ると思っています。

 ただ…他の魔族への復讐というのは……」

 

 何やら「復讐」に思うところがあるらしい。


 「モンストールを殺すだけなら良いのですが、相手が魔族となると……アレンさん、あなたは人殺しをしようと考えているのですか?」

 「………殺すかどうかは、相対してから決める。私たちを襲った魔族たちがもし私を殺そうとするなら、鬼族を滅ぼそうと考えているなら、私も容赦はしないつもり」

 「そう、ですか……」


 少し黙ってから、クィンが私は…と再び口を開く。

 

 「私は…復讐はしないで欲しいと思っています。復讐は悲しくて虚しいだけです…」

 「………」

 「私はかつて、復讐を成し遂げた人がその後どうなってしまったのかを知っている身です。

 その人は心が空っぽになったかのような様子で、光が失ったような状態になってしまいました。一時は幸福感を味わえていたのかもしれません。ですがその後にくるのはきっと……人殺しという罪悪感や虚しさ。その人はそれらに押しつぶされていたのかもしれません」

 「………」」

 「アレンさんには、そんな道を歩んでほしくないと思っています。どうか、人の道を踏み外すようなことは、しないで下さい」

 「ん………魔族は、すぐ殺さないようにする」


 アレンはこくりと頷いて、早まって殺すことはしないとクィンと約束した。

 正直俺は、アレンが復讐の道に走っても良いと思っている。やりたいようにやればいいと思っている。特にモンストールに対しては存分に恨み憎しみをぶつけて殺せばいいと思う。俺も一時期は元クラスメイトどもやドラグニアの王族どもに復讐してやろうかと考えたことがあったから、復讐したいって気持ちは少しは分かるから。


 「ごちそうさま。久しぶりに美味しいものたくさん食べられた」


 アレンはそう言いながら空になった皿を均等に重ねていった。


 「アレン、もう少しここで待っててくれねーか?」

 「?何かあるの?」

 「本当はギルドでするつもりだったんだけど、まあ酒があるところならどこでも同じか」


 そう言いながら、俺は聴力を強化させて、周りの奴らの会話を拾っていく。

 こんな人がたくさん集まる空間でわざわざ食事をしにきた理由は、色んな奴らから色んな情報を掴む為だ。

 クィンが教えてくれたこの世界についてまだ知らないことでもいいし、今の世界の情勢でもいいし。とにかく何か、元の世界へ帰る手がかりになりそうな情報を探してみるというわけだ。人の口からは情報が大量にペラペラ出てくるってな。

 アレンとクィンが瞠目して何か集中している俺を不思議そうに見ている中、しばらく声を拾いまくっていると、こんな会話がとんできた。


 「お前ぇ知ってるか?あいつら……救世団の連中を」

 「ああ、二日程前に、ここでな。何やら任務で来たらしいが……ったく!まー偉そうで非常識なガキともだったよ!

 なんでも、対モンストールの軍勢をつくるために、ドラグニア王国が別の世界から召喚しやがった特別な人族だそうじゃねーかよ」

 「マジかよ…。それよかあいつら、自分らが特別な人間だと思い込んでいるようで、この辺りでかなり威張り散らしていたみたいじゃねーか。俺は実際見たわけじゃねーんだがよう、評判最悪だったみてーだぞ?」

 「ああその通りだ。その時のあいつらは、ここで、女冒険者にナンパしていたんだぜ?その女の連れが諫めに行ったら、あのガキどもここでそいつを殴りまくってよう、テーブルがめちゃくちゃにされたんだぞ。大声で俺は世界を救う勇者なんだぞー、みたいなこと言って大暴れしまくってたぜ。しかもそいつ、酔っていない状態であんなことやりやがった」

 「ガキが大きな力持つと、やんちゃどころじゃ済まなくなるのかねぇ。だが、そいつらの実力は本物らしいな。実際その時の任務で、上位レベルのモンストールを数体倒したとのことだってよ」

 「下位レベルでも苦戦する俺らだ。強さはたしかに本物だ。中身は最悪だそうだが。

 ああ、そいつらの名前だがな?ここにいた時、一人が大声で名乗っていたな。たしか、ユースケだの、ジュンイチ、だの言ってたな」

 「まーすぐに帰ってくれたから良かったけどよ、あんな奴らが対モンストールの、世界を救う組織だって思うと最悪だよな……」


 (ほう………)


 さらに、他のところからも、救世団に関する会話が聞こえた。

 


 「近いうちに、この国に新しい戦力が導入されるらしいぜ。救世団という組織の奴らが派遣されるとのことだ」

 「少し前に任務で来た、対モンストール組織だっけ?人族の希望らしいな、その連中は。そのメンバー一人一人が国の兵士数十人分の強さを持つそうだ」

 「その組織から5~6人程が、人族の大国に派遣されて、モンストールを定期的に倒すという方針だってよ」

 「いよいよ、本格的な戦争期に入るってことか。しばらく荒れそうだな…」


 それから主に、救世団に関する情報を色々聞いた。

 あの連中、任務で一度この国に来てたのか。しかもよりによって性格がゴミクズの大西たちか…。

 何やら随分調子こいてデカい面して暴れたそうだな。ま、どうでもいいか。

 とりあえず、救世団で分かったこと……最近他国に遠征して、モンストールを倒していること。実戦訓練の応用編かな。

 近いうち…具体的には数週間くらいか、人族の大国にメンバーを均等に派遣して、滞在させる。世界の軍事バランスを保ちながらモンストールどもと本格的に戦うとのこと。

 今分かることはこれくらいか。


 「はぁ、別に知りたくもない情報しかなかったな…」

 「コウガさん?さっきからいったい何を?」

 「ちょっと情報収集をやってた。聴覚を集中させて周りの会話内容を拾ってみた」

 「そんなことが出来るのですか…」

 「なんか救世団のメンバーが各大国に数名派遣して戦力を一時的に増強させるんだとか。サントにもあいつらが何人か来ることになるんじゃねーのか」

 「そういえば数日前に国王様からそういった報告を聞きました。彼らの実力は、信用できるのでしょうか?」

 「知らね。どうでもいいし。ただ本性はクズな奴らが多いから気をつけ………………ん?」


  クィンと会話している最中に、救世団とは別の気になる会話が聞こえてきた。集中して会話を拾う。


 「名前は忘れたが、竜人族を用心棒にしている情報屋から聞いた話だ。っつっても情報を買ったのは俺の知り合いの冒険者なんだが」

 「竜人って魔族の中で特に武力が優れていると言われているあの?そんな奴を人族がよく雇えたな」

 「そこについて詳しいことは知らね―けどな。それより俺の知り合いが買った情報だがよ………

 最近竜人族が、

 「鬼族だと?あの魔族はモンストールに滅ぼされたって聞いたが、生き残りがいたのか!?で、鬼族はどうしたんだよ?」

 「あー鬼族がどうなったのかは聞いてねーな。戦ったのか仲間になったのか、後のことは知らねー」

 「んだよ期待させやがって」

 「それより今の情報料として、ここの飯代はお前が払えよ!はっはっはー」

 「あー!汚ねーぞ!お前から話し始めたくせに!」


 「………」


 ほう、鬼族の情報が出てきたか。これはアレンにとっては大収穫と言っていいものじゃねーか。


 「コウガ、今度は何を聞いたの?」

 

 丁度アレンが問いかけてきたので答えてやる。


 「鬼族の情報が出たぞ。少し前に竜人族と遭遇したらしい。竜人族なら鬼族の生き残りについて何か知ってるかもしれない」

 「………!ほんと!?」

 

 アレンは勢いよく俺に迫り、肩をガッと掴んで真偽を問うてきた。


 「あ、ああ本当だ。これでやっと仲間に近づけたんじゃねーか?」

 「うん。だったら、すぐに行かなきゃ!」

 

 アレンはすぐにでも店を出て行こうとしていたので、どうどうと宥め落ち着かせる。

 

 「俺はともかくアレンとクィンは疲れているだろ。焦る気持ちは分かるがまずは自分の体力を回復させてからだ。明日朝になったらすぐに出発する。それで納得してくれねーか?」

 「………ん、そうする。いざって時に力が発揮出来ないと意味無いから」


 言うことを聞いてくれたことに礼を言って、翌日すぐに出発できるよう今日はさっさと宿に入って寝ることにした。


 次の行先は、竜人族の国だ。



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