22話「サント王国兵士団」


 作戦を決めたところで王国を出た俺たちは、ロンソー村というまだエーレの被害に遭っていない村に来た。 

 サント王国周辺にある村は3つあり、うち2つの村は既にエーレの被害に遭っているとの報告があった。よって、必然的にロンソー村で張り込むことに。

 時間はまだ午前中。安宿を借り一休み。

 その間アレンとは何も無かった。無いったら無い。


 そして1時間後、することがなく、この村の人々の生活をただぼ~っと眺めていると、明らかに人目に立つ集団がやってきた。村長らしきおじさんがそいつらに挨拶をして、何やら話している。


 もしかして、あれが王国が出した討伐隊か?だとしたら面倒だなー。俺らでこっそり討伐したかったんだが。ま、これも想定していたことだし。ターゲットが現れたら、あいつらより先に接近しなきゃ。幸いターゲットは普通の冒険者にとってくそ強いらしいから、すぐ討伐されることはないと思うが。


 と、討伐隊に対する対抗心を燃やしていると、その討伐隊の一人がこっちにやって来た。

 ボブカットの黄色い髪の女性兵士だ。腰に剣を差しているところ職業は剣士と見た。服装は俺ら程じゃないがやや軽装だ。動きやすさを重視していることから、近接戦を得意としているな。


 なぜこの女の身なりを分析しているのかというと、アレンが少し警戒態勢に入っているからだ。彼女が気を張るくらいには、そこそこ出来るみたいだ。

 女兵士が俺らの前に立つと、挨拶形式のお辞儀をしてから自己紹介をしてきた。


 「突然失礼します。私は、サント王国直属の兵士団に所属しています、クィン・ローガンといいます。私とあそこに見える兵士の方々とで、エーレを討伐の任務としてこの村に来ました。

 お尋ねしたいのですが、あなた方は幻獣エーレ討伐クエストを受けた冒険者さんですか?」


 やっぱり王国の兵士だ。近くで見ると、美人と呼べるルックスだ。お姉さんな雰囲気もある。が、その佇まいは、一般兵士よりも強いと思わされる。こいつは一流クラスの実力はありそうだ。気になるので、「鑑定」発動。



クィン・ローガン 23才 人族 レベル48 

職業 戦士

体力 1000

攻撃 950

防御 600

魔力 1050

魔防 600

速さ 1000

固有技能 縮地 剣聖 火魔法レベル5 水魔法レベル5 風魔法レベル5   

魔力障壁 



 剣士と魔法の両刀型か。戦士ってかなりの攻撃特化の職業だな。その反面耐久性はイマイチときた。


 ところで魔法レベルだが、レベルが6を超えると、それぞれ属性の名称も変わってくる。火は炎熱に、風は嵐に、土は大地に、水は氷も発生できるようになる等、上位互換の魔法に進化する。で、こいつの魔法レベルは5…あと一歩ってところだ。


 さて、どうやら俺たちが冒険者、しかもエーレを討伐しにきたというところも気付かれているみたいだ。ここは正直に答えるか。


 「ああ、その通りだ。こんな身なりだが、このクエストを受けるに値するだけの実力は俺も彼女も十分にある。今は、そのエーレを釣るために、ここに滞在しているというわけ。次に奴が現れるとしたら、ここだと思ったんでね」

 「どうして、エーレが次にここに現れると?」

 「あ~。それは――」


 その後、クィンと名乗った女兵士との問答がいくつか続き、俺から本題に切り出す。


 「俺たちは、お金目当てで今回のクエストを受けたんだ。冒険者の中では俺たちしか受けてる奴はいねーんだが、お前ら兵団どもが来たってことは、報酬は兵団と山分けすることになるのか?だとするなら、手は出して欲しくねーんだけど」


 お金の部分に少し反応したが、特に言及することなく答える。


 「私たち兵団は、王国にはターゲットを討ったという事実を報告さえすれば良いので、あなた方冒険が欲しがる素材などは全てお譲り致します。ですので、私たちが最終的にターゲットを倒したからといって、そちらの報酬は減りません」

 「へー。それを聞いて安心した。兵団は国から、冒険者はギルドからそれぞれ貰えるということか。山分けしなくていいんだな!」

 「...というより、あなた方2人だけで倒せる程、エーレは甘くないですよ...?」

 「普通の冒険者ならな。ま、俺たちは違うんで。ホントは力を見せたくはないんだけど」

 「そうは言われましても...やはり二人だけというのは...」


 と困っている表情を浮かべるクィンのもとへ残りの兵団が来る。ひときわゴツいスポーツ刈りの男が俺と向かい合って挨拶をする。


 「この兵士たちをまとめているコザという者だ。君たちが村長が言っていた冒険者だね?何やら、ローガン君と話していたようだが…」


 と、ここでクィンが先程の話内容を伝える。それを聞いたコザという兵士は俺に説得するように言う。


 「本来、今回の討伐任務は、我ら兵団だけで遂行する前提で、冒険者の介入はあまり考えていなかったのだが...。冒険者の生死は自己責任となっているが、我らとしては人々を守るのが本職だ。だから、できれば無茶をして命を危険にさらす行為はしないでほしいのだが」

 「心配しなくて大丈夫だ。俺たちは危ないことはするつもりはないし。何なら、俺たちは見ているだけにしようか?素材が手に入れば、文句は無いし」


 アレンの少し驚く様子をよそに、適当に妥協案を出してみる。コザは俺の言葉に少し思案し、やがてそれなら、と首肯する。


 「ま、いざという時は君たちにも戦ってもらうよ。では、村民に避難を促しに行くとするよ」


 そう言って兵士たちを率いて俺のもとを去った。


 「あの方は、私たちをまとめている兵士団団長です。戦闘力の高さは王国内でトップクラスです。あの方がいればきっとエーレに勝てるでしょう」


 クィンはまだ去ろうとはせず、俺にさっきの兵士のことを教えてくれる。


 「あんたは、何で俺らがクエストで来たと思ったんだ?自分が言うのもなんだが、冒険者の服装からして、Gランクの討伐に来た奴とは思えないんじゃないのか?」

 「それは、この村で魔物やモンストールによる被害が全く無いから、冒険者の身なりをした人がいることはまずないんです。だから、あなた方が今回の討伐対象のクエストを受けて来たのでは、と思ったのです」

 「ふーん、そっか。引き止めて悪い。討伐頑張って」

 「...お互いに、ですよね?」


 クィンがくすっと笑ったその時、


 「お前は…!!」


 と男の驚きが混じった声が聞こえてくる。声がした方へ顔を向けると…


 「げ……っ」


 昨日程か、地上へ出たばかりの草原にて絡まれたあの時の兵士たちの一人…リーダー格の男兵士が俺を凝視していた。

 

 「まさか、この村に滞在していたとは…!」

 「…?デロイさん、この方がどうかされたのですか」


 クィンがデロイとかいう兵士に疑問の声をかける。アレンも隣で「?」といった反応を示している。


 「この男こそが、正体不明の人族です…クィン兵士副団長」

 「え…彼が!?」


 あ、クィンって副団長なんだ…ってそれどころじゃないな。


 「…改めて問う。お前は何者だ?場合によってはすぐに拘束することになる」

 「あー……駆け出しの冒険者の、オウガです。これじゃダメか?」

 「昨日は自分が冒険者だとは名乗らなかったが?それはどうしてだ?」

 「それは……昨日までどうも記憶喪失だったみたいで、テメーらから逃げたしばらく後に自分のこと思い出したんだ。」


 嘘である。


 「ふざけているのか…?やはり怪しいなお前。今ここで拘束しておいた方が良いだろうな」


 当然こんな嘘が通じるわけもなく、デロイは怒った様子で手から魔力を発生させる。

 アレンがデロイを睨んで戦闘態勢を取る。


 「ま、待って下さいデロイさん!彼は…オウガさんは別に逃げようとはしていないそうですし。手荒なことはやめましょう?」


 逃げないですよね?と、確認するように俺を見る。


 「まあ、そっちが攻撃とかしないなら、今はここから去る気はねーな。今はエーレ討伐の任務中だろ?それが終わってからテメーらのところに来るからさ、捕まえようなんてこと、しないで欲しいな」

 「……クィン副団長のお情けに免じて、ここでは拘束はしないでおく。我々の任務が終わった後、必ずこちらに来ると約束しろよ?」

 「ああ」


 面倒事になりそうだったらアレン連れて逃げるけどな!

 デロイは俺たちから立ち去って行った。


 「……まさかあなたが報告に上がっていた正体不明の人族だったとは。デロイさんの言う通り、あなたのことについて後ほど詳しく教えてもらいますよ、オウガさん」


 クィンも俺に忠告して、去って行った。


 「……正体不明の人族」

 

 アレンがその肩書(?)を呟いて、可笑しそうに笑った。


 「コウガ、追われてる身だったの?」

 「まあ…途中面倒になって逃げたせいかもな」

 「そうなんだ……それよりもいいの?あの人たちに討伐をやらせて」


 兵士団に討伐をさせて良いのかとアレンは尋ねる。


 「あいつらが倒したところで、報酬が減ることがないし、楽できていいんじゃないか?それに、サント王国の兵力を知るいい機会だしな」


 と答えて、宿に入ってのんびりすることにする。とりあえずは面倒事にならずに済んでよかった。



 30分後、遠くから生物とは思えない甲高い鳴き声が響いてきた。不審に思い、「気配感知」を発動すると、数キロ先からスゴい速さで村に近づく生物が引っかかった。


 「コウガ。来るよ、ここに...」


 アレンも感知したようだ。間違いない。エーレが釣れたみたいだ。彼女に頷き、声のする方へ顔を向ける。

 さぁ、初クエストだ!



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