21話「初クエスト出発」


 俺のちょっと過激な「自己紹介」(=見せしめ)を済ませる。

 次いでこの状況の処分はギルドはどうするのか気になったので、こうなった場合どうなるのかを未だ引き気味の表情の受付嬢に聞いてみたところ、


 「ぼ、冒険者同士でのトラブルは当ギルドでは一切関与致しません。た、たとえ生死に関わったとしても...で、です。ただ…建物内の器物損壊については、壊した本人に賠償を請求することになっています。今回は、その...オウガさんには、酒場のテーブルとガラスの修理代を請求させていただきます………はい」


 とのこと。殺されても自己責任。ギルドが通報することはないのね。


 「壊した分は俺が弁償するよ。けど今は持ち合わせが無くてね。これからクエストに行って、その報酬から払うってことで許してくんない?」

 「は、はい。異存はありません!後日またお越しいただいた時に払っていただければ、と」

 「ん?今日中にでもまた戻ってくるから、そんなに待たなくていいよ?」

 「...へ?あの、お言葉ですが、エーレは、Sランク冒険者が2人いるパーティでも簡単にはうち滅ぼせないくらいの強さで、どれだけ強い冒険者でも、討伐してここに戻るのに2日はかかりますよ?」


 人間の範疇超えていない奴らならその程度だろう。だが、ここにいるのは、ゾンビと最強の鬼。すぐに終えるだろうな。


 「ま、とにかく俺らですぐ討伐して弁償しに戻るんで。それじゃ」

 未だ遠くから俺らを恐怖が混じった目で見ている中、アレンを連れて今度こそギルドを出ようとする。が…


 「あ、あの!」


 今度は受付嬢か。何なんだ一体。鬱陶し気に受付嬢を見る。俺の視線にヒッと息を詰まらせるが、とりなおして俺のプレートを見て、


 「さっきのステータスプレートの表示、やっぱり壊れてはいなかったのでは...?あ、私メラと申します。弁償の件は私の名前を出していただくとすぐ応対できるので!」


 と、さっきのステータスのことを掘り出してきて、さり気に自己紹介もしてきた。


 「さて、何のことやら。んじゃ、今度こそ出ていかせてもらうよ」


 適当にあしらい、困惑するメラさんとやらをよそに、俺たちはギルドを去った。




                  *


 「コウガ、さっきの...」


 ギルドを出て数分。エーレ討伐クエストは俺たちが最初に入ってきた方とは反対側から出る方が近道なので、来た道と反対方向...北口へ歩いている。その道中、アレンがギルドでの騒動のことを話題に。


 「あー、あれ?引いちゃったか?確かに他人からしてみれば、やり過ぎに見えたのかもな。けど、あれも含めての俺なんだ。直すことはすまんができない」


 先手で、ああいう乱暴は止めません宣言をするが、アレンの返事は意外なものだった。


 「それも驚いたけど、気にしてない。コウガにも乱暴なとこあったんだーって知れてよかったから。それより、コウガが、私のこと“仲間”って言ってくれて、嬉しかった。村が滅んで、洞窟でコウガに会うまでの私には仲間なんていなかった。敵ばかりだった。だから、さっきのコウガの言葉、とても嬉しかった!仲間と呼んでくれて」


 と、屈託のない笑顔を向けてそう言った。その可愛さにドキッとした。

 仲間か。さっき、ついそう言っていたっけ。会ってまだ日は浅いが、アレンとは、もう長年親しい友人のように思ってる。だからかな?ごく自然に仲間って言っていた。


 「何かさ、アレンのことすっかり親しい仲になってる気がしてさ。仲間って呼ぶのが当たり前になってたんだ。

 それに...俺も嬉しいんだ。アレンがそんなに嬉しいって言ってくれて。なんか、照れるな、この会話!」


 顔が赤くなり(死んでるので本当に赤くはなってないのだろうが)急に恥ずかしくなり、アレンから顔をそらす。その様子を、アレンは嬉しそうに微笑んで見ていた。


 数分前にギルドで凶行に及んだ人物とは思えない純情少年が、ここにいた。

 つーか、アレンも少し変わった子だ。さっきの一件を見ても、こうして一緒にいてくれるとは。いい意味で、変わった女の子だ。




                   *


 王国の出入り口に着き、門番にクエスト受注証を見せて、いよいよ初クエストへ出発。


 エーレは、拠点をころころ変える移動を頻繁にする幻獣種の魔物だ。戦闘力も危険レベルだが、そもそも遭遇するのが難しい。討伐して帰ってくるのに2日以上はかかるってメラとやらの受付嬢が言ってた意味が分かってきた。これは、下手すりゃ今日中に帰るのは厳しいぞ。


 「そういえば、俺たち以外にもエーレを討伐しに来る奴らがいるって聞いたな。王国の兵団だとか」

 「その人たちと合流して居場所へ案内してもらうっていうのは?」

 「それもアリかなって思ったんだが、肝心のそいつらも居場所が分かっていないっていう場合もあるしなぁ...。それに、サント王国の兵士どもとは、今はあまり遭いたくねーんだわ。俺たちの力は王族関連の人前で軽々しく見せらんないし、俺個人としては以前ちょっとめんどくさいことがあってな」


 とはいえ、無策で適当に住処探しするわけにも行くまい。常時移動する奴とエンカウントするには、マーキング機能を使ってひたすら追跡して、追い詰めて捕獲...っていう流れだが、それは、一度そいつと遭遇しておく必要があるんだよなー。

 マーキング追跡がだめなら、痕跡を辿ってのやり方が主流になってくるのだが...足跡か匂いかだな。んで、今回はどうするかってところだが…。

 しばらく考えた末、このやり方くらいしかないかと思い、その案を言ってみる。


  「張り込みするかぁ。クエスト詳細を見るに、この周辺の村がすでに2つは被害に遭っているらしい。んで、まだ被害に遭っていない村へ行き、エーレが来るのを待つ!...どうかな?」


 そう、張り込みだ。襲われていない村なら、これから奴が来る可能性は高い。


  まぁ、捜し回るのがめんどいんで、楽したいだけなんだが。最後にアレンに意見を伺う。


 「ん、合理的。待ち伏せ作戦も善策。それで行こう!」


 乗ってくれた。よし、張り込み作戦でエーレを狩ろう。




                  *


 サント王国王宮。

 広い謁見部屋にてサント王国の国王が数十人いる兵士たちに任務を課してした。


 「エーレは人族と魔族を敵視していると聞く。見つけ次第すぐに討伐するよう頼む。くれぐれも近隣の村に奴を近づけさせてはならない」


 国王の言葉に全兵士が了解の意を示す。


 「そして…昨日メルバ草原の近くに現れたという正体不明の人族の捜索も引き続き頼む。今回はエーレの討伐に尽力してもらうが、余力があれば捜索の方も進めてくれ。

 目撃したのは…昨日巡回を務めていたお前たちだったな?デロイといったな、お前とその部下たちなら顔が分かるだろう。任せるぞ」

 「仰せの通りに」


 デロイと呼ばれた目つきの鋭い男兵士はそう応える。彼は昨日地底から出てきた皇雅を捕縛しようとした兵士だ。


 「ではこれより我々兵士団はエーレの討伐に向かいます!」


 兵士団長がよく通る声で宣言して、数十人いる兵士たちを率いて王宮を出た。


 「……相手は災害レベルの魔物だ。生きて戻ってくれ、クィン」


 兵士団がいなくなってから国王は一人そう呟いた。

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