4話「ハズレ者」


 今後の説明が終わったあとは、外はもう夜になっていた。今日はもう解散...ではなく、俺たちをもてなすための晩餐会が開かれた。

 すっかり警戒と緊張が解けたクラスメイトたちは異世界のグルメに舌鼓を打ち、はしゃいでいた。先生もだいぶ周りと同調し、楽しそうに王族らと談笑していた。男子はお姫さんに、女子は王子や同席している兵士団長や身分高いボンボンどもに群がっていた。

 俺はもちろん端のテーブルで独り飯だ。どの料理も良い食材をつかってるようで、美味かった。


 そんな俺のところに、ミーシャ王女がやって来た。可憐な笑みを浮かべて俺の隣に立って話しかけてきた。


 「お料理はお口に合いましたでしょうか、カイダさん…でしたよね?」

 「ええまぁ…」


 適当に返事をして特にトークをする気がないまま黙っているとお姫さんが再び話しかけてきた。


 「カイダさんは…随分したたかなお人なのですね。さっきの謁見の時にあなただけがお父様にあそこまで意見なさりましたから。

 いきなり見知らぬ地に召喚されて王族の方がたくさんいる中で自分の利について堂々と主張するのは、中々出来ないことですので…凄いと思いました」

 「まぁ…そういうところをなあなあにしてしまうと、タダ働き同然の扱いをさせられそうだと思ったんで。相手が誰だろうと自分の利を保障させるのは必須だ」

 

 そう言うとお姫さんは謁見の時に俺にだけ見せたあの年相応の緩んだ笑みを浮かべる。しかしその笑みは次第に曇っていく。やがて真剣な顔つきに変わる。


 「今回、あなたたちをこの世界に召喚させようという考えを、計画を提案したのは…………

 「……あんたが?」

 「五年程前に…世界の敵であるモンストールの対策に行き詰った時、私は一人書庫に保管されてあった過去の戦争記録を読み漁って、異なる世界から私たちと同じ人間を召喚したという事例があったことを見つけて、そのことを調べてました」


 五年も前からこの世界はモンストールに脅かされていたらしい。


 「かつて人族は百年以上前にも、今と同じく世界を脅かす敵と戦っていたという歴史がありました。その時に私たちが行った同じ召喚を、当時の人族も行っていたそうです。敵を滅ぼす最後の手段として。

 異世界から召喚された人族たちはこの世界の人族を凌駕する力を手にして、それで世界の敵を滅ぼしたと…歴史にはそう記されていました」


 異世界ラノベあるある展開だな。異世界召喚の恩恵でチートな力を手にした俺らと同じ現代人間たちが異世界を救った、と。この世界で百年くらい前にそんなことがあったらしい。


 「モンストールに対抗するには…滅ぼすには、百年前と同じ異世界から召喚した人族の力しかないと考えた私は、お父様たちにそのことを提案しました。結果私の案は受け入れられて、数年の準備を経て…今日カイダさんたちをこの世界に召喚しました」


 俺は今、このお姫さんから物凄い裏話を聞いてしまった。本当に俺たち召喚組がこの世界の人類の切り札ということになる。


 「なんか…凄く重い事実を知った気分だ。というか、今の話俺にだけ話して良いのか?凄く重大なことなんじゃねーのか」

 「……カイダさんには、話しておこうと、何となく思ったんです。こういうことを話してもあまり混乱しない人だと、そう思えたんです…曖昧な理由ですが」


 俺の疑問にお姫さんはよく分からない答えを返した。直感か何かで俺になら話して大丈夫だと判断したというのか。


 「私の勝手な提案でカイダさんたちをこんな危険な世界に呼び出したことは申し訳なく思っています。しかしあなたたちこそが今の私たちにとって最後の希望なんです。

 どうか……私たちに力を貸して頂けないでしょうか」

 

 本当に申し訳ないといった様子でお姫さんは俺に懇願してきた。


 「……あんたらの都合で俺たちを勝手に召喚したことには思うところがあるが、グチグチ言っても何も生まれない。まぁ多少は気張ってこの世界の敵…モンストールとやらを駆除してやるよ。ちゃんと報酬も出るそうだし」


 やれやれと言った様子で俺はお姫さんの頼みを受け入れる。それを聞いたお姫さんは顔を明るくさせてホッとした顔をして礼を言った。


 「ありがとうございます。どうかよろしくお願いします…!」


 こうして晩餐会は過ぎていった。






 「あ…甲斐田君と、王女様…?

 何…話してるんだろ?」


 少し離れたところから皇雅がミーシャと話しているところを高園は気になる様子で見つめていたが、当然皇雅がそれに気づくことはなかった。




                 *


 翌日、王宮にある訓練場に集まり、訓練の教官を務める兵士団長…ブラット・フレイザー(赤い髪の30歳くらいの男、剣を携えているところ剣士っぽい)が、クラス全員にスマホサイズの細長のプレート(男は黒色、女は白色)を配った。全員これは何か?という反応をしていると、ブラットが説明に入る。


 「今皆に配ったプレートは、自分のステータスを数値化してくれる。さらに職業も示してくれるものだ。また、冒険者ギルドで冒険者登録した場合、ランクもこいつに表示される。冒険者ギルドに興味がある奴は、俺にひとこと言ってくれ。俺が国王様に掛け合ってみる」


 やっぱり冒険者ギルドもあるのか。行ってみたいな。


 「そのプレートは今はただのプレートだが、所持者のDNAを裏の小さいポケットに入れると、所持者の情報が全て登録される。DNAについてだが、血液、唾液、その他体液、髪の毛のどれかでいいぞ」


 因みにこのステータスプレートは大昔から存在し、その仕組みは未だ謎らしい。 俺はテキトーに髪の毛を一本抜いて裏ポケットに入れた。すると、プレートが淡く輝き、また妙な文字が浮かび上がった。それも一瞬で、俺の名前と能力値っぽい数値と職業がプレートに表示される。



カイダ コウガ 17才 人族 レベル1

職業 片手剣士 

体力 20

攻撃 20        

防御 20

魔力 20

魔防 20

速さ 20

固有技能 全言語翻訳可能



 ............え?このステータスって、テンプレでは、最弱扱いされるレベルじゃね?

 俺は、呆然と、某モンスターゲームでよく見てたステータス画面を眺めていた。他の生徒にステータスを見て動揺した様子は見られない。しばらく経ってブラットが再び説明に入る。


 「全員ステータス確認できたみたいだから補足説明に入るぞ?レベルは主に戦闘や訓練で上げることができ、人族では3桁超えるとかなりの強者として見られる。世界でも中々いないがな」

 因みにブラットのレベルは現在75だ。


 「能力値だが、これは普段の鍛え方や素質によって大きく変化する。格闘戦術の訓練ばかりやっていると攻撃と防御が、魔法の訓練だと魔力と魔防がレベルが上がった時それぞれ大きく上昇する。防御とは物理攻撃への耐久力、魔防は魔法への耐久力を表すぞ。さらに体力は生命力としても見られ、この数値が0になると死に至る。」


 こういうところも某モンスターゲームと似た仕組みだな。闇雲に鍛えても強くはなれない。自分の素質・職業にあった鍛え方が必要だ。


 「固有技能についてだが、これには先天性と後天性があって、ほとんどの者が後天性の部類に入る。訓練と戦闘をいくつか経験し、レベルをある程度上げると固有技能は発現する。だが稀に、初めから固有技能を発現している者がいる。それが先天性の部類だ。そして彼らは例に漏れず高い能力値とレアな職業を持つ!ましてやお前たちは特別召喚の恩恵がある。何人かは発現しているのかもな」


 なるほど。全員がこの国の会話が普通に理解できてる理由がこれか。「全言語翻訳可能」これのお陰でどの国でも会話に困らない。しかも全員最初から付いているようだ。恩恵の一つか。で、他のは無し。てことは、他の奴らの中にもう発現しているのが...。


 「一般兵の初期ステータスは15が平均値だ。お前達ならその数倍から数十倍はありそうだな。恩恵というのは凄まじいものだ。では、固有技能が発現している者は知らせてくれ!国王様に報告しなければならないからな」


 大方、即戦力になる奴を優遇し、そいつをさらに特別に鍛えさせるためだろう。くそっ!他のプレートを見るまでもない。俺がいちばん低い戦闘力だろう。よりによって、この俺が...マジかよ。


 「団長!ブラット団長!固有技能ありました!なんか強そうなのが!」

 耳障りで鬱陶しい声がする方へ首をめぐらせると、案の定、大西が。嫌な予感がする俺を横切りブラットが大西のところへ行きステータスプレートを確認する。



オオニシ ユウスケ 18才 人族 レベル1

職業 両手剣士

体力 100

攻撃 100

防御 100

魔力 100

魔防 100

速さ 100

固有技能 全言語翻訳可能 剛剣術 加速 堅牢 



 ほら、やっぱり。バリバリ恵まれた才能だ。


 「ほう、いきなり100か!しかも全能力値!さらに複合技能までついてるではないか!凄い奴が現れたぞ!」

 ブラットが称賛の言葉を並べる、その中に気になる単語が。


 「複合技能...?」

 「おお、説明してなかったな。複合技能とは、2つの技能が組み合わされることで発現する固有技能だ。これは先天性で発現するのはごく稀なんだが、さすが異世界の者だな!頼もしい限りだ!」

 「スゲーな大西!」

 「やったな雄介!レアだってよ!」


 山本と片上が大西を囃し立てる。この二人も、固有技能が発現していたらしく、早くも3人も先天性の人間がいることに。


 「他はいないか?」

 「あ...はい、私が。」

 ブラットの呼びかけに応えたのは高園だ。彼女はブラットの前に立つとステータスプレートを手渡す。



タカゾノ ヨリカ 18才 人族 レベル1

職業 狙撃手

体力 100

攻撃 100

防御 100

魔力 100

魔防 100

速さ 100

固有技能 全言語翻訳可能 感知 鷹の眼 隠密 スナイパー



 彼女もチート級に強い。つーか、固有技能が狙撃手向けばかりだ。職業に向いた技能が発現するものになってくるのか?またもブラットと生徒たちによる称賛の嵐が起きる一方で、顔色が悪い俺に気付いた大西とその取り巻きどもが絡んでくる。


 「甲斐田くーんどうしたー?お前のステータスも団長さんに見せてやれよー。さぞご立派な固有技能をお持ちなんでしょ?」


 嫌味ったらしくウザい口調でキモいにやけ顔を浮かべてそう言う。取り巻きも悪意ある笑顔だ。


 「ウザい話しかけるな。あいにく俺は後天性らしいから固有技能は無い」

 「はっ俺より弱いってことじゃん。まぁせっかくだし、見せろ、よっ!」


 そう言って俺のプレートを強引にひったくった。元いた世界よりパワーが上がってやがる。能力値100は伊達じゃないってことか。俺のステータスを見た大西はしばし眺めて、みんなに聞こえる声量で嘲るように、


 「甲斐田のステータス何だよ、弱すぎ!全部20って、俺の5分の1かよ!ぶはっ!片手剣士とかしょぼっ!どうやって化け物と戦うんだよ!?wwおい誰か、こいつみたいなステータスいるかー!?」


 と、俺を大声でディスりにきた。大西の声に反応したみんなが俺のステータスと比べ、「俺の方が強い」だの、「私まだマシだったんだー良かったー」だの、「甲斐田がこんな雑魚ステとかダセーww」だの、次々俺に嘲笑や侮蔑の視線を浴びせにくる。自分よりも下がいることに安堵する者がいた。さっきまでレアステータスに注目してたというのに、今度は俺の雑魚ステを馬鹿にすることにお熱になりやがってる。


 「こら、人のことを声高に貶すのは止めなさい!」


 と、藤原先生が大西たちを注意し、俺を馬鹿にすることを止めさせた。


 「カイダ君がどうかしたのか?」

 ブラットがこっちに来る。大西は笑いつつ、俺のプレートを彼に見せる。ステータスを見るなりブラットは、顔をしかめ、俺を見てまたプレートに目を向ける。


 「まさか、恩恵を受けていながら一般兵並み程度の初期ステータスがいるとは...。こう言うのもなんだが。まぁ、こういうこともある。今後の訓練頑張れ」


 と当たり障りのないお言葉を残し、元いた場所へ行く。その後、ブラットから、職業に合った訓練のレクチャーをし、それぞれ別の訓練場へ各自移動した。


 そして、いつの間にか、俺はクラスから“ハズレ者”という不名誉な称号を付けられた。


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