第126話:敗北

 リカルドは敗北した。

 前世の記憶と知識を得てから初めて敗北した。

 だが悔しくはなかった。

 とても心地のよい敗北だった。

 レイラ、ライラ、ローザの三人を妻にした事は間違いではなかった。

 そう思えるうれしい敗北だった。


「分かったよ、こちらから魔族の国に攻め込むのは止めるよ。

 攻め込まれても今回のようにはならないように準備する。

 大山脈沿いには堅固な城砦群を建造しよう。

 魔族が洞窟を掘る音が聞こえないか調べる役職を設けよう。

 三人に魔力を与えて実戦訓練をして、魔族の来襲に備えよう」


 リカルドは政務の合間を縫って三人に魔力を与え魔術を教えた。

 前世の記憶や知識を持つリカルドと違って、三人には具体的なイメージがない。

 どれほど膨大な魔力があろうとイメージがなければ想像力が欠けてしまう。

 魔力と想いがあれば全てを現実にできるこの世界でも、想いが具体的でなければ再現する事など不可能だった。


「そうだね、口で言っただけではイメージするのは難しいね。

 だったら実際にやって見せた方がいいね。

 どうせ見せるのなら子供達にも見せておこう。

 今はまだ魔力を封印しているから、見せても再現などできないからね。

 もし何か不測の事態があって明日明後日に戦わなければいけなくなった時に、見た事がなくて再現できないと危険だからね」


 こんな時に臆病なくらい慎重なリカルドの前世の性格があらわれる。

 リカルドはこんな風に想像力を逞しくしていたのだ。

 自分が撃退した事で、人間世界と領地を接している魔族の国が国力を落とす事になり、強大な魔族の国がその国を併合してしまう事。

 二カ国分の戦闘力を持った魔族の国が、明日にでも聖帝国に攻め込んで来る事。

 その魔族の国を撃退するために子供達まで戦わなければいけなくなってしまう事。


 はっきり言って想像力過多だった。

 事実は小説より奇なりという言葉はあるが、現実にはあり得ない事だった。

 だがそんなあり得ない事を不安に思ってしまう欠点がリカルドにはあるのだ。

 三人の妻はそんなリカルドに苦笑はしたが、反対はしなかった。

 三人の妻は今回の魔族侵攻で人生が大きく変わっている。

 特に元傭兵の二人は実戦の場で多くの戦友を失くしている。

 苦笑はできても反対などとてもできない過酷な現実を体験していた。


「そうですね、慎重の上にも慎重を期した方がいいですね」


 ライラが賛成したので他に二人も直ぐに賛成した。

 そこでリカルドは海に向かって大魔術を放って家族に見せた。

 何度も何度も大魔術を放って家族の頭と心にイメージを焼き付けた。

 彼らが魔術を放つ時にイメージできるように。


 陸上ではなく海上に魔術を放つ理由は単純だった。

 陸上でリカルドが大魔術を放つと悪影響が強すぎるのだ。

 だが人間がいない海上ならどれほど強力な攻撃魔術を放っても大丈夫だった。

 それにリカルドの大魔術に巻き込まれれた海魔や魔魚を回収すれば、高価な素材や食材も手に入るからだった。

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