第102話:幸福・レイラ王太子妃視点

 リカルド様が三日に一度は訪ねて来てくださいます。

 それが例え愛情ではなく義務であっても、とてもうれしい事です。

 側近達の中には二人の公妾と同じ待遇だと不平を言う者もいます。

 本当に愚かな事です。

 あれほど心から愛されている公妾方と同じ回数訪れてくださっているのです。

 これほど厚遇されているのにです。


「リカルド様、少々遠ざけたい者がおります。

 皇国に帰しても皇国の害になるだけでございます。

 戦場見学として前線に派遣しますので、密かに処分してください」


 非情卑劣な事を口にしている自覚は私にもあります。

 自分の側近をリカルド様に殺してくださいと言っているのです。

 現にリカルド様も少し驚いておられます。

 ですがこれは絶対に必要な事なのです。

 リカルド様と私の子供に、あんな連中の影響を受けさせるわけにはいきません。


「理由を聞かせてもらってもいいかい。

 理由もなく側近を謀殺するというのは、人の上に立つ者のする事ではないからね」


「はい、もちろんでございます。

 私の側近は幼い頃から付けられた者が多いのです。

 そのため卑怯卑劣な行いで処断された者の縁者が数多くおります。

 哀しい事ですが、その者達の性根も腐っております。

 リカルド様と私の子供がそんな者達の影響を受けてしまったら、兄弟相争うような哀しいことになりかねません。

 そんな事になれば多くの民が内乱で死傷してしまいます。

 今まだ子供の生まれる前に、悪しき芽は摘んでおかなければいけません」


「な、妊娠したのか、子供ができたのか」


「まだ確実ではありません。

 月のモノが遅れているだけかもしれません。

 ですがリカルド様が教えてくださったことが気になるのです。

 胎教というモノがとても心配になってしまったのです。

 ですからどうか少しでも早く悪しき芽を摘んでください」


「分かった、よく決断してくれたね、うれしいよ、レイラ。

 レイラの決断は決して無駄にはしないよ。

 でもね、レイラ、お母さんが家臣を殺す決断をする事。

 お母さんが家臣を殺したしこりを心に残す事。

 どれも胎教に悪いかもしれないんだ。

 だから、殺さない方法で排除しよう。

 レイラの心に家臣殺しのしこりを残したりはしないよ。

 レイラが側に置きたくないと思う側近全員を戦場見学に行かせる。

 そこで悪事をしでかすように誘惑する。

 誘惑に負けないようなら意外といい奴かもしれないから、今回は許してやろう。

 誘惑に負けた奴は、私が極刑を課す。

 きっと連中はレイラの権威を笠に罪を逃れようとするはずだ。

 だが私は絶対に許さずその場でこの手で殺すと言う。

 連中はレイラの名を出して減刑を要求してくるはずだ。

 そこで私がレイラに使者を送るから、レイラが減刑を嘆願すればいい。

 これでレイラが恨まれる事もなければ、心にしこりが残ることもない。

 連中には最前線で重労働刑を課せばいい」


 嬉しいです。

 心から嬉しく思います。

 リカルド様は私の事もお腹の子供の事も大切にしてくださっています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る