第100話:四五分裂・リカルド王太子視点
「報告します、敵の援軍は逃亡しました」
「「「「「おう」」」」」
密偵の報告を受けて周囲の側近達が歓喜の声をあげる。
だが俺は手放しでは喜べない。
密偵は撤退ではなく逃亡といった。
これでは逃亡兵が南部同盟の地域を荒らしまわることになる。
前世の知識では、逃亡兵が山賊や盗賊になり無辜の民を害したという。
「南部同盟は軍紀の整った撤退ではなく、全将兵が独自に逃げ出してしまい、軍の体をなしていない状態だったのだな」
「「「「「!」」」」」
側近達もようやく事の重大さに気がついたようだ。
冷たい考えをすれば、自国民以外がどうなろうが責任を感じる必要はない。
愚かな為政者の国に生まれた不運な者達だと哀れに思うだけでいい。
だが理想的な英雄を演じるのなら、彼らを憐れむ態度と言葉が必要だ。
そして為政者を糾弾しておいて、将来の侵攻の口実にする。
侵攻欲に憑りつかれた為政者がよく使う手段だ。
「半分その通りで半分違っております。
南部同盟内で叛乱が起きました。
……偽勇者パーティー内での仲間割れです。
偽勇者のロイドと偽聖女のエルナが、他の四人に殿下と戦うように命じました。
総数五万の南部同盟軍を編成しましたが、実情は犯罪者と貧民の集まりです。
とても我が軍と戦える者達ではありません。
西に進軍して直ぐに兵士の逃亡が始まりました。
ところが四人の将軍は何の手も打ちません。
カンデ高原を超えて直ぐに四人の将軍は南部同盟を脱退すると宣言しました。
そしてこちらに向かう北ではなく南に軍を向けました」
ついに仲間割れが始まったか。
利で集まった連中は利がなくなれば争い分裂する。
よくある話ではあるが、実際に自分の仇敵に起こると感慨深いものがある。
仇敵か、確かに普通なら恨むべき相手だな。
だが今十分幸せだから、増悪するほどではない。
憎しみがあるのは確かだが、その為に今の幸せを放棄するほどではない。
「ロイドの様子と他の者の様子は引き続き探っているのか」
「はい、ロイドが再び援軍を編成して送ってくるのか、それとも諦めるのか、向こうに住み着いた密偵が引き続き見張っております。
四将軍に率いられた援軍が本当に逃げるのか、それとも迂回して奇襲を仕掛ける心算なのか、見落としのないように張り付いております」
「うむ、よくやってくれている。
このまま見落としのないように見張ってくれ。
その為に必要な人員と軍資金は遠慮せずに言ってくれればいい。
正しい情報なしに戦いには勝てないのだから」
「ありがたき幸せでございます」
さて、これでじっくり腰を据えてボークラーク王国を攻めることができる。
だがそろそろロイドを殺す準備をしておかないといけない。
アイルにロイドを殺す準備をしておくように伝えよう。
俺よりもアイルの方がロイドを恨んでいるからな。
だが魔境に備えを疎かにするわけにはいかない。
その点は厳しく命じておこう。
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