第97話:威圧と宣戦布告

 ボークラーク王国を占領したリカルド王太子は併合を宣言した。

 更に公金の返金と犯罪者の引き渡しに応じないサマセット王国に宣戦布告した。

 南部同盟からの援軍を約束されたサマセット王国は、リカルド王太子に恭順した方がいいという派閥と、徹底抗戦派、更には逃亡派に分かれて意見が纏まらなかった。


「サマセット王国からの返事がない。

 これはボークラーク王国の富を盗み犯罪者を匿う悪事である。

 更に我らに対する敵意を持っているのだろう。

 このまま放置すれば何時襲ってくるか分からない。

 ここは断固とした態度を示す。

 サマセット王国の王都を落とし占領併合する、我に続け」


 日頃のリカルド王太子からは考えられない言動だった。

 リカルド王太子はできるだけ人族同士が争う事がないようにしてきた。

 それが同じ人族の国を力で併合すると宣言したのだ。

 魔王軍を抑えるために北大山脈沿いの国々を併合したのとは違う。 

 塩の輸出を止めたり難民を押し付けたりしたボークラーク王国とも違う。

 領土欲だと非難されかねない行為だった。


 だが多くの義勇兵は歓喜の声で応えていた。

 彼らから見ればやっとリカルド王太子がその気になってくれたという想いだ。

 長らく王侯貴族の暴政で搾取されてきた彼らには、リカルド王太子こそが理想の君主で、一日でも早く故国を併合して欲しいと願っていたのだ。


 多くの義勇兵は理想のために義勇兵に参加したのではない。

 そのままでは飢え死にするので、喰うため生きるために義勇兵になったのだ。

 表向きは命懸けの兵隊稼業だが、実際には思っていたよりも危険ではなかった。

 訓練は厳しく魔獣狩りは命懸けだったが、魔王軍との戦いはほぼ残敵掃討だ。

 リカルド王太子が敵を圧倒した後に追撃戦をするか、リカルド王太子が用意してくれた魔法具で一方的に叩いた後で残敵掃討するかだった。


 中には籠城戦で苦しい戦いをした者もいたが、そんな義勇兵は比較的少数だった。

 思っていたよりも命の危険が少なく、人生で初めてお腹一杯食べられた。

 しかも麦粥ではなく、肉や小麦のパンをお腹いっぱい食べられたのだ。

 満たされれば気になるのは故郷の事だ。

 いまも悪政暴政に苦しんでいるだろう友人知人の事だ。


 このままフィフス王国で幸せに暮らしたいという者も多かったが、リカルド王太子が大陸を統一してくださったら、故郷で幸せに暮らせるのにと思う者も結構いた。

 彼らから見れば、何時でも大陸を統一する力があるのに、してくださらないリカルド王太子に不足を感じる時もあった。


 北大山脈沿いの義勇兵達が士族として故郷に戻ってからは、特にその思いが強くなっていたのだ。

 数はそれほど多くなかったが、サマセット王国出身の義勇兵達は涙を流して歓喜の声をあげていた。

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