第95話:罠
リカルド王太子の侵攻占領は電光石火の早さで行われた。
ボークラーク王国の王侯貴族が時間稼ぎをしないように、彼らに恨みを持つ元ボークラーク王国民を先陣にしたのだ。
事前に彼らに復讐の機会を与えているという噂を流してある。
脛に傷を持つ王侯貴族は復讐を恐れて急いで逃げだすと言うわけだ。
決して褒められたやり方ではない。
反リカルド王太子の南部同盟は一斉に非難するだろう。
だが実際に復讐による残虐な行為が行われるよりはマシだった。
大切な家族や友人知人が、王侯貴族の無責任な行動や無能な政策で、餓死したり殺されたりしているのだ。
魔王軍との実戦を経験して鍛えられた元ボークラーク王国民が、復讐したくなるのは当然の事だった。
彼らの復讐心を抑えるためにリカルド王太子が命令をして、反感を買ったり忠誠心を低下させたりするなどあってはならない。
側近達がそう考えるのは当然の事だった。
側近達の献策を受けてリカルド王太子は噂を流す決断をしたのだ。
自分が非難されるだけで、敵対しているとはいえ王侯貴族を殺さなくてすむ。
なによりも義勇兵として魔王軍と戦ってきてくれた者達を人殺しにしなくてすむ。
だからリカルド王太子は非難されるのを覚悟で噂を流す決断をした。
その影響は大きく、王侯貴族は先を争うように逃げだした。
だがその時に禁止されていた公費まで持って逃げたのだ。
流石にかさばる食糧まで持ち出した者は少なかったが、金銀財宝は持ち出した。
本来なら民から吸い上げた税は統治の為に使うべきものだ。
本来王侯貴族や士族は民を護るために存在するのだ。
民を護るために、戦う力を得る訓練に集中するために税を取っているのだ。
それなのに民を護るためではなく遊興の為に税を使っていた。
たかだか魔王軍遊撃隊程度を恐れて城に籠って震えていた。
いや、遊び呆けていたのだ。
その間に多くの村や街が襲われ無辜の民が喰い殺されていた。
そんな無責任な事をしていたのに、今後の統治に必要な公費を持ち逃げした。
リカルド王太子は激怒したフリをした。
リカルド王太子には最初から分かっていたのだ。
愚劣なボークラーク王国の王侯貴族なら、必ず公費を持ち逃げする者がいると。
最初から仕掛けておいた罠だったのだ。
リカルド王太子は、ボークラーク王国の王侯貴族が逃げ込んだサマセット王国に、公費の返却と持ち逃げした王侯貴族の引き渡しを要求した。
いや、サマセット王国だけではなかった。
サマセット王国がリカルド王太子を牽制するために加盟した、南部連合にも公費の返却と持ち逃げした王侯貴族の引き渡しを要求した。
サマセット王国と南部連合に攻め込むための罠だった。
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