第93話:海を目指して・リカルド王太子視点

 レイラ皇女が悪女の汚名を被って作ってくれた機会は絶対に逃がさない。

 電光石火の進撃で王都を落とし王侯貴族を追放してみせる。

 幸いと言っていいかどうかは分からないが、ボークラーク王国からは多くの義勇兵が集まってくれていたので、侵攻軍の将兵には困らない。

 土地勘もあるし、友人知人もいるから降伏勧告しやすい

 何より多くの将兵が故国に帰ることができると喜んでいる。


 まあ、ある程度の人数はフィフス王国に残ることを望んでいるが、ボークラーク王国は併合して王太子領とするので、それほど失望はしないと思う。

 可哀想だが、義勇兵やその家族は最も危険な場所に配備されてきた。

 魔境を見張り魔王軍と戦う最前線の城や、王都や大都市の出城や出丸だ。

 常に一番最初に魔王軍の攻撃に晒される場所だ。


 同じ危険な場所に住まされるのなら、故国の方がいいと思うのだ。

 それに今回は雑兵として一番危険で狭い場所に住むのではない。

 士族として、王都や主要都市内にある城内に屋敷が与えられるのだ。

 最前線で戦わなければいけないのは同じだが、家族は安全な城内に住める。

 まあ、王都や大都市以外のダドリー城やカウリー城といった、私の直轄城なら危険がせまったら城内に収容されるけどね。


「殿下、そろそろ王都が見えてまいります。

 ボークラーク王家の方々は、全員王都を放棄して南部同盟を頼ったようですが、刺客が潜んでいる可能性がございます。

 王都に入るのは我々にお任せください」

 

 アルメニック近衛騎士隊長兼第一徒士団団長が状況説明をしてくれる。

 心から私の事を心配してくれているのが伝わってくる。

 心がほんのりと温かくなった気がする。

 もちろんアルメニックのような幼い頃から仕えてくれている者達だけでなく、新たに仕えてくれることになった者達も忠誠を尽くしてくれる。


 ただ新たに仕えてくれるようになった者達には私の弱さを見せることができない。

 勇名虚名を得てから仕えてくれている者達には、飾った自分を見せてしまう。

 だから常に側近の半数は古くから仕えてくれている者達にいて欲しい。

 だが古参側近の数が極端に減ってしまっている。


 先に占領併合した北大山脈沿いの国々に、統治や防衛のために多くの将兵を駐屯させているので、騎士団も徒士団も人数が半減している。

 その中に総督格として古参側近を配さなければいけないのが痛かった。

 今回ボークラーク王国を占領併合した後も、古参側近を配さなければいけない。

 徐々に私の周りから弱さを見せられる者が減っていく。


 夜になればライラとローザに甘えることができるが、昼の政務と軍務の間は気を張り詰め続けなければいけなくなる。

 アルメニック、ヴィクター、アルバート、リチャードの四人だけはずっと側にいて欲しいのだが、ボークラーク王国を併合するなら一人は側近から外れることになる。

 サマセット王国も侵攻占領併合するとなると二人も側からいなくなる。

 何かいい方法があればいいのだが……

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