第90話:決断
ウェルズリー城に着いたリカルド王太子は、夜は城で休まず転移魔術を使って家族の元に帰っていた。
本当なら家族と一緒にいる時は政務の事を忘れてゆっくりしたかった。
だが今回はそれが許されない状態だった。
二人目を妊娠中のライラとローザに心理的負担はかけたくなかったが、正直に話すしかない状態に追い込まれていた。
「それでいいのではありませんか、王太子殿下。
私達は元々王位継承権がない事を条件に子供を産ませていただきました。
今さら王位継承権が欲しいとは申しません。
それに、もしバートランドとコンラッドのどちらかが王太子に立てられてしまったら、せっかく仲良く暮らしている家族の関係が崩れてしまうかもしれません。
ここはレイラ皇女殿下と正式に結婚されてください」
リカルド王太子の相談を受けたライラは真心をもって答えた。
その答えにリカルド王太子は救われた。
リカルド王太子も今上手くいっている家族の関係が壊れるのが一番嫌だった。
レイラ皇女には申し訳ない事だが、嫌われ役憎まれ役を引き受けてくれるのなら有難いというのが、リカルド王太子の正直な気持ちだった。
皇女に生まれたレイラは、元々政略結婚が当たり前の教育を受けている。
夫が愛人や公妾を持つのも普通の事だ。
その代わり自分が産んだ子が婚家を継ぐことが約束されている。
もちろん夫の子供であることが絶対条件なのだが。
その代償が愛のない政略結婚なのだからしかたがない。
「私はそれで構わないぞ、気にする事はないよ、殿下。
そうだな、どうしても気になるというのなら、フィフス王国に匹敵する領地をくれればいいさ。
前に戦いに送り出す時に言っただろ、国を切り取って来てくれと。
フィフス王家の直轄領くらいの領地でもいいよ。
ただそうだな、できれば海の幸が簡単に手に入る、海に接した領地がいいな。
川魚も美味しいが、海の魚の方が好きなんだよ。
それと、できれば魔境と接していない領地がいいかな。
ここは殿下が私達のために創り上げてくれた城だから、もちろん愛着がある。
でも、元傭兵の私が言うのはおかしいが、コンラッドには魔物がいない所、戦のない所で平穏無事に暮らして欲しい。
お腹の中にいる子も魔物がいない戦いのない所で育てたいね」
百戦錬磨で豪胆な元傭兵ローザの嘘偽りのない母の本音を聞いて、リカルド王太子は決断した。
何があってもローザとライラ、子供達には戦争のない国を与えると。
侵略者、覇王と呼ばれても大陸を統一して内乱の芽を摘み取ると。
その決意が大陸を大きく動かすことになった。
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