第80話:殲滅戦

 リカルド王太子は魔王軍の残党が周囲に残っていないか探し回った。

 数種類の探索魔術を駆使して探し回った。

 ダドリー領都の殲滅戦から追撃殲滅と半日で済んだのに、安全確認の為の索敵に半日かけてしまっていた。


「戻ったよ、ローザ、コンラッド」


「ふっふぇえぇぇぇ、凄いね、流石殿下だ、一日で全滅させたのかい」


 リカルド王太子は急いでダドリー城に戻ってローザとコンラッドを安心させた。

 まだコンラッドは何も理解できない幼さなのだが、そんな事は関係ない。

 不測の事態を警戒して日が暮れる前に戻り、いそいそと二人に会った。

 陽の光の中で凱旋して功を誇るわけでもなく、ただ妻と子に会いたい一心の煩悩の塊だった。


「多分ね、半日かけて索敵したから、見逃しはないと思うけど、魔王軍の中にどんな能力を持っている奴がいるかは分からないから、油断はしないで欲しい」


「分かったよ、しばらくは奥から出ないようにするよ」


 ローザも、リカルド王太子が自分達の事に関しては臆病なくらい慎重になる事を理解していたので、余計な心配をかけないようにおとなしくする約束をした。

 その夜はしっかりを愛を確かめ合って、翌朝早々まだ日が昇る前に、リカルド王太子は領都の民に見つからないように出陣した。

 時に合理的になるリカルド王太子の思考は、二度も三度も凱旋で時間を取られたくないと考えていたのだ。


 リカルド王太子の勝利を高らかに宣言して、領都の民と王国第二騎士団の勇戦を称えるための凱旋式は、領都の士気のためには絶対に必要だった。

 だが、今ここで凱旋式をやってしまったら、アクス城とアイル城を包囲している魔王軍を殲滅した後でも、また凱旋式をやらなければいけなくなる。

 それでなくともアクス城とアイル城でも凱旋式をしなければいけないのだ。

 いや、北魔境に近く常に緊張を強いられる最前線のアクス城とアイル城でこそ、華やかに凱旋式を行い、騎士団将兵と自警団と住民を称えなければいけないのだ。


 だからこそリカルド王太子は夜明け前に出撃し、夜明けと共にアクス城とアイル城を包囲している魔王軍を殲滅した。

 夜目の利かない人間が、夜目の利く強力な魔王軍が攻め寄せるのを一晩護り、消耗した心身で朝番の部隊と交代する時に、圧倒的な勝利が見られるように演出した。

 流石に両城同時に演出する事はできないので、元フィエン公爵家の騎士や領民が多いアイル城で魅せるようにした。


 両城を包囲する魔王軍を瞬殺したリカルド王太子は、最初にアイル城で凱旋式を行い、騎士団と自警団と住民を慰撫した。

 次にアクス城で凱旋式を行い、騎士団と自警団と住民を慰撫した。

 最後にダドリー領都に戻って凱旋式を行い、騎士団と自警団と住民を慰撫した。

 魔王軍を殲滅させるのは一瞬だったが、三つの凱旋式を行うのに丸一日かかってしまった。

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