第77話:信頼

「アルメニック、北の魔境から侵攻してきた魔王軍が、防衛城砦に抑えの軍を残して王都に進軍し始めたそうだ。

 このままでは途中にある都市が蹂躙され、民が喰い殺されるかもしれない。

 私は転移魔術を使って急いでダドリー城に戻り、魔王軍を追撃する。

 アルメニックに全軍の指揮権を預けるから、軍の損害を少なくする事を前提に、穴を塞ぐようにしてくれ」


 リカルド王太子は自分が無理難題を言っている事を理解していた。

 損害を少なくして魔王軍が開けた侵攻用の穴を防げという、相反する命令を同時に出しているのだから。

 侵攻用穴を塞ぐためには、大きな損害が出て当たり前の事だ。

 軍の損害を最小にしたいのなら、今占領している領地を捨てて撤退すべきなのだ。

 だがリカルド王太子はアルメニックを心から信頼していたので、最小の損害で侵攻用穴を塞いでくれると信じていた。


「承りました、安心して本土にお戻りください」


 アルメニックはリカルド王太子に安心してもらうために、堂々と引き受けた。

 だが内心は重大な役目を拝命した責任で押し潰されそうになっていた。

 分かっている心算だったが、改めてリカルド王太子が常に受けている重圧を理解して愕然とした。

 自分の双肩に大陸の命運がのしかかる重さは、信じられないほどの苦しさだった。


「アルメニックや我が軍には必要ないかもしれないが、私は心配性だからこれを貸し与える、些細な事でも遠慮せずに使って一人でも死傷者を減らしてくれ。

 ヴィクター、アルバート、リチャード、騎士と徒士の隊長全員にも渡しておく」


 リカルド王太子は汎用の攻撃魔術槍を、四人の徒士団長だけでなく、近衛騎士隊長、近衛徒士隊長、騎士隊長、徒士隊長にも渡した。

 ほとんど全員がリカルド王太子と共に戦ってきた歴戦の戦士だ。

 彼らを信じて、強力な範囲攻撃魔術陣を組み込んだ魔槍を貸し与えたのだ。

 魔槍の鍔の後ろと石突の後ろに魔宝石が組み込まれていて、何度でも範囲攻撃魔術を放つことができる。

 槍の柄も魔境の魔樹を圧縮強化した素材なので、強固で魔力親和性が高い。


「「「「「有難き幸せでございます」」」」」


 全員があまりの栄誉に感極まっていた。

 リカルド王太子お手製の武器を貸し与えられるなど、今までになかった事だ。

 同時にそれほどの状況に陥っているのだと、アルメニックほどではないが、重圧が双肩にのしかかって来た。

 

「四人の徒士団長に貸し与えている槍は、侵攻用穴を破壊するための特に強力な魔槍だから、強敵に遭遇した時か侵攻用穴にだけ使ってくれ」


「「「「はい」」」」

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