第73話:悪戦苦闘
リカルド王太子の進軍は当初順調だった。
進軍速度こそ補給部隊を先頭にした事で遅かったが、その分食糧不足に陥る危険がなく、侵攻先で民が飢える事もなかった。
リカルド王太子の軍が駐屯する地域では誰も飢える事はない、そういう評判が大陸中に広まった。
とても順調に見えたリカルド王太子の進軍だったが、魔王軍が開けた穴への道半ばという場所で、フィフス王国領に魔王軍が現れたという報告が入った。
リカルド王太子は煩悶したが逡巡はしなかった。
一瞬で判断したかのように他人には見えたかもしれないが、その短い時間の間に心臓が破裂したかと思うほどの痛みを感じ、悩み苦しんで決断したのだ。
「本国の事は守備隊を信じて任せる。
お前達も戦友を信じて後ろを気にせず前を見て戦うのだ。
もし危険な状況に陥ったら、お前達を信じて俺が本国に帰る」
リカルド王太子の言葉を聞いた古くからの側近達は、リカルド王太子の心中を察して心の中で涙を流していた。
表向きの理想の姿しか知らない最近仕えはじめた家臣は、リカルド王太子の内心の悩みや苦しみなど理解できなかった。
リカルド王太子の幼く弱い頃の姿、幼い頃から努力し続けている姿など、古くからの側近しか知らない。
まあ、リカルド王太子が婚約者と親友に裏切られた姿を見ている者は、ある程度は妻子の大切さを察しているが、悪夢にうなされる姿は古参側近しか知らないのだ。
ただリカルド王太子が侵攻軍に残る決断ができのは、ライラとローザが逃げ時は心ていると言い切った事が大きかった。
もしその言葉がなかったら、もっと悩み苦しんでいただろう。
それと、今回本国に侵攻してきたのは、北の魔境からだけだった。
西の魔境からは魔王軍が侵攻していなかったのだ。
リカルド王太子の予測では、北魔境につながっている魔族の国と西魔境につながっている魔族の国は別の国だった。
今回大山脈に穴を開けたのは北魔境につながっている魔族の国だ。
西魔境につながっている魔族の国は、今回の魔王軍侵攻とは同調していない。
その予測ができていたからこそ、少しは安心できたのだ。
「殿下、今はまだ何の心配もいらないわ。
確かに魔王軍はこの城にまで攻め込んできたけど、アクス城とアイル城を無視することができずに、相当数が包囲のために残っている。
王国第二騎士団が領都の城壁をガッチリ守っているから、全く心配ないよ」
ダドリー城にいるローザからリカルド王太子に堂々とした連絡が入る。
リカルド王太子が思い悩まないように、無骨なローザなりの思いやりだった。
それがあったからこそ、リカルド王太子も眠ることができた。
戦場でちゃんと眠れることはとても大切だった。
例え悪夢を見ることになっていたとしてもだ。
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