第69話:慈愛・一流民視点

 俺達の住んでいる国の王は、どうしようもない馬鹿で屑だ。

 民を虐げたら逃げ出す事も理解できない大馬鹿野郎だ。

 食うや食わずの状態で、それでも泣く泣く税を納めた農民から、臨時税で食糧を奪うという、鬼畜な所業を平気で行う腐れ外道の屑だ。

 最初から国王に対する忠誠心など欠片もなかったが、今では叛意しかない。

 普通なら破れかぶれで一揆を起こすところだが、神がこの世界に救世主を使わしてくださった、だから一揆ではなく欠落を選んだのだ。


 圧政と盗賊の襲撃に生き残った村人全員が逃げ出すので、本来なら単独か数人で村から逃げ出す欠落という言葉は正しくない。

 だが年貢減免を要求したり、不当に奪われた税を取り返すために、一時的に村から逃げ出す逃散ではなく、戻る気のない集団逃亡なので、欠落という方が正しいような気がしたのだが、これは単なる言葉遊びでしかないな。


「準備はいいか、ちゃんと麦粥は食べたか、ちゃんと食べて体力をつけておかないと、ウェルズリーまで歩けないぞ」


 救世主様の御使者様が心配してくださる。

 士族の方が平民でしかない俺達の事を心配して食糧を運んできて下さり、救世主様の国にまで命懸けで案内してくださる。

 腐れ外道の国王や領主は、救世主様もただの欲深い人間で、俺達の事を見捨てたという高札を立てたが、ちゃんとこうして助けを寄こしてくださる。


「御使者様、うちの子が急に熱を出してしまったんだよ。

 このままじゃ死んじまうだよ」


「心配するな、ちゃんと薬を預かってきている、必ず家族一緒に生きて逃がしてやるから、私に見せてごらん」


 ハンスの家の子がまた熱をだしたようだ。

 ろくに食べるモノもなく、温かくしてやるための布さえろくにない。

 全て腐れ外道の王と領主が税の代わりだと奪っていきやがった。

 あんな連中、一日でも早く救世主様に殺されるといいのに。

 この国が救世主様の国になれば、王都の平民も助かるだろうに……


「御使者様、国王や領主がリカルド様が俺達を見捨てたと言ってただよ。

 でも、御使者様がここに来てくださったのだから、嘘だよな」


「……フィフス王国のリカルド王太子殿下が義勇兵を募るために、今他国に兵や商人を送れば、どこかで戦争が始まってしまう。

 魔王軍が攻め込んできている状態で、人間同士が戦争を始めるわけにはいかない。

 だからリカルド王太子殿下は義勇兵を募るのも、商隊を送るのも中止するしかなかったのだ。

 だから俺はフィフス王国ともリカルド王太子殿下とも何の関係もない。

 俺個人の考えでここに来て好き勝手しているだけだ」


 御使者様は救世主様のために嘘をついておられる。

 こんな時に、誰が命懸けで他国に来て、命よりも大切な食糧をタダで配ってくれるというのだ。

 わずか一皿の麦粥を争って大の男が殺し合う時代なんだ。

 全部この国の腐れ外道の国王や領主に見つかった時のための嘘だ。

 絶対に見つからないようにして、救世主様にも御使者様にも迷惑をかけないようにしなければいけない。

 

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