第52話:魔法陣
リカルド王太子は一日のほとんどの時間を食糧生産に使っていた。
それまでの人口に加えて、新たに五十万の人間が増えたのだ。
それ以前に、旧ウェルズリー王国領の民も飢えから救わなければいけない。
旧ウェルズリー王国領では、王侯貴族を追放して彼らが蓄えていた食糧を配給しているので、当面は食糧危機は回避できたが、今年は作付けも満足にできなかったので次の収穫が当てにできないのだ。
これからの一年二年はリカルド王太子が食糧面を支えなければいけない。
今まで通りベッカー宮中伯領(旧フィエン公爵領)とアクス城伯領とアイル男爵領の民に、魔境の落葉や土を畑に混ぜさせて土を肥やしてから、成長促進魔術でわずか一日で小麦やライ麦を大麦を実らせる。
そのお陰でベッカー城とアクス城とアイル城だけでなく、周辺の開拓村にも三年分の食糧が備蓄されている。
それを超える食糧は、リカルド王太子が管理して適宜支援したり配給したりしているからこそ、五十万人分食糧を直ぐに都合できたのだ。
これが一旦フィフス王国に預けてしまったら、利権が生じ不正が起きてしまう。
必要だと要求しても、のらりくらりと出し渋る。
最悪あるはずの食糧がなくなってしまっている可能性すらある。
そんな時に粛清などするのも嫌なので、最初から預けたりはしないのだ。
「魔術書の研究は進んでいるかい」
リカルド王太子が手に入れた前世の知識と記憶は、時にリカルドの行動を憶病なくらい慎重にさせることがある。
その一端が、自分が死んだ後でもライラとローザとバートランドとコンラッドが、生活に困らないようにする事だった。
四人が民から敬われる存在であり続けることだった。
その為に、穀物を成長促進させる魔術を使えるようにする事だった。
だが流石にこの魔術は複雑なうえに莫大な魔力を必要とする。
リカルド王太子の莫大な一日魔力生産量と、その魔力を無限に蓄えられる魔法袋仕様の魔力器官がなければ、とても不可能な技だった。
四人の魔力発生量がこの世界の常識を超える量であろうと、リカルド王太子の足元にも及ばないし、なにより魔力器官を魔法袋化する事が不可能だ。
「はい、これをご覧ください、これは過去の大賢者が書き記した魔法陣です。
リカルド王太子殿下にはるかに及びませんが、これを使えば今までの三分の一の日数で穀物を成長させることができます。
使う魔力量は膨大になりますが、魔力が潤沢な時に魔晶石に魔力を注いでおけば、例えば寝る前に魔力を注いでおけば、一年に最高五度の収穫が可能となります」
リカルド王太子はその魔法陣に欠点や落とし穴がないか真剣に確認した。
本来のリカルド王太子の知識を基本に、前世の記憶と知識を加え、何度も確かめたが全く問題がなかった。
問題があるとすれば、収穫後に農地に肥料を加えて地力を回復させる事だった。
実際の農業に携わった事のない、頭でっかちの魔術士の机上の空論による魔法陣だが、魔境の落葉や土を運び入れれば問題がない事は、すでにリカルド王太子が実証している。
「分かった、これをもとに圧縮強化岩盤製の破壊困難な魔法陣を作る」
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