第49話:覚悟・アルメニック近衛騎士隊長視点

「皇帝陛下から入国の許可が出ました、どうぞお通りください。

 ただ許可が出ているのは街道の通行と街の外での野営だけでございます。

 流石にその大人数を皇都内や都市の城壁内に入れるわけにはまいりません。

 皇都内や都市内部に入るのは騎士以上の方に限らせていただきます」


 リカルド王太子殿下の想定されていた最悪の状況は避けられたようだな。

 喜ぶ側近もいれば哀しむ側近もいるだろうが、これは仕方がない事だ。

 殿下のお考えに九割九分賛同していても、残り一部だけ違う意見を持つからこそ、激しく違和感を持つ者が側近の中にもいるのだ。

 古くからの側近はともかく、最近側近に加わった者ほど、理想的な殿下の行いに妄信しているからな。


「分かりましたと皇帝陛下にお伝えしてくれ。

 ただどこに行っても騎士だけが城壁の中に入ったりはしないので、気を使って歓迎の準備などしないようにと、道中の領主衆にお伝え願いたい。

 義勇兵に集まってくれた者達を夜営させておいて、自分達だけ宿のベッドで寝たと知れたら、リカルド王太子殿下に蔑まれてしまいますからな」


「承りました、道中の領主や代官には必ず伝えさせていただきます」


 若く理想を失っていない皇国の騎士には、リカルド王太子が輝いて見えるのだろうが、幼い頃から血のにじむような努力を重ねられ、己を律する姿を見続けてきた我ら古くからの側近には、痛々しい思い出の方が多い。

 婚約者と勇者に裏切られてから、女性に対して羽目を外すようになられたお姿を見て、失望や落胆をするより安心したものだ。


 まあ、側近といっても色々で、女傭兵に現を抜かすと憤慨する者もいれば、女性不信になって男性に走らなくてよかったという者もいる。

 だが幼い頃からの側近達の大半は、女傭兵を愛される姿を見て喜んでいる。

 あれ以来少々汚れた事も断じて行われるようになられたリカルド王太子を見て、理想的ではないと嘆くほど、幼い頃からの側近達は愚かではない。

 むしろ国王に相応しい強かさを備えられたと喜んでいる。

 問題はリカルド王太子の理想的な姿だけに憧れている連中をどうするかだ。


「国境の街で買いえるだけの武器と防具を手に入れて、義勇兵の者達に与えろ。

 皇都までに通る街という街であるだけの武器と防具を買うのだ」


「「「「「はい」」」」」


 リカルド王太子殿下からは、五十万の義勇兵を喰わせられるだけの食糧と、信じられないほど莫大な量の宝石を預かって来た。

 これまで通過してきた国や街でも武器や防具を購入したが、騒乱の激しい国では武器も防具も高騰していたし、そもそも売ってもいなかった。

 まがりなりにも平和な状態を維持している皇国なら、武器も防具も売っているだろうし、ここで金に糸目をつけずに購入したら、金儲けを考える武器商人が新たに領土としたウェルズリー王国くらいまではやってくるだろう。


「アルメニック騎士団長殿、義勇兵の子供と老人に病が流行っております。

 薬を使う許可をいただけますか」


「構わんぞ、事前に配っている薬を全部使ってくれ。

 足らない分の薬と使った分も薬は直ぐに渡す。

 殿下から十分な量の薬を預かってるから、心配するなと義勇兵達に伝えろ。

 今はまだ病気の兆候のない者も、体力がない者は病になる可能性が高い。 

 国境の街で買える家畜を全て買って、今日の食事に出してやれ」

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