第43話:嫁を魔改造

「ライラ、ローザ、今から二人にも人並外れた魔力を授けるから、それを使って戦えるようになってくれ、いいね」


 リカルド王太子は、自分がいない間に魔王軍が来襲し、ライラ、ローザが殺されてしまう不安に勝てなくなっていた。

 常に二人が側にいる間は大丈夫だったが、ウェルズリー王国に攻め込む決断をしてからは、妻子を失うかもしれない不安に夜も眠れない状態だった。

 ライラとローザには常に側にいて欲しかったが、産み月が近づいている二人を、ウェルズリー王国との戦いに同行させる事はできなかった。


 同時に、自分がライラとローザの側に残り、ウェルズリー王国との戦いに参加しなければ、大戦力を投入する必要がある事も分かっていた。

 ようやく実戦力を備えた騎士団、義勇団、自警団の数がそろってきたのに、それを愚かな領地争いで失ってしまったら、魔王軍との戦いで苦戦するかもしれないのだ。

 自分の実力を過小評価してしまう性格、石橋を叩き過ぎて壊してしまうほどの慎重で憶病な前世の本性が、今生のリカルド王太子の理性を抑え込んでしまった。


「分かりました、でも、お腹の子に悪影響はないのでしょうか」


 ライラが不安を口にし、ローザもうなずいている。

 彼女達にとっても大切な子供だ、魔力による悪影響が気になって当然だった。

 すでにリカルド王太子が、二人に黙って胎児を魔力で強化しているなんて、思いもしていない。

 リカルド王太子もその事を口にしてはいけない事くらいは分かっている。

 だから溺愛による暴走が沈黙を生み、嘘を重ねることになる。


「大丈夫だよ、全部私自身の身体で試して莫大な魔力を得たのだ。

 魔力さえあれば、お腹の子を護る事も、戦いの場から逃げる事もできる。

 それに少しでも子供に悪い影響がでそうなら、直ぐにやめるよ。

 だから安心して魔力を強くする方法を試して欲しい」


 リカルド王太子は言葉にだしてから失敗を悟った。

 妊娠によるライラとローザの苦痛を和らげると言って、身体をさすりながら胎児に魔力を流していたことを、今回の魔力による改造で悟られてしまう。

 ライラとローザの愛想を尽かされる不安と恐怖で一杯になった。

 だが、そんな事になろうとも、二人に魔力を持たせて自衛力を持たせたい。

 持ってもらわなければ、不安でリカルド王太子は気がおかしくなりそうだった。


 前世の知識を思いだしてその性格に影響される前のリカルド王太子は、心優しく愛情深い行儀のいい王太子だった。

 一方前世は臆病なくらい慎重で理想主義だが、同時に怠惰で薄情な面もあった。

 婚約者と親友だと思っていた勇者に裏切られた心の傷が、前世の憶病なくらい慎重な性格に影響を与えてしまっていた。

 全てがいい方向に向けば理想的な王になるだろうが、今回は悪い方に向いた。

 リカルド王太子は妻子を護りたい一心で暴走しようとしていた。

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