第2話:家臣の苦衷
王太子リカルドの言葉を聞いても、侍従達も側近達も直ぐに動こうとしない。
このままではアセリカ嬢が殺されてしまうかもしれないとリカルドは考える。
そう思っただけで、リカルドの心臓は悪魔の手に捕まれたように激しく痛む。
だが聡明で優しいリカルドは、直ぐに自分の私的な感情を抑える。
ノブレス・オブリージュ、王太子として責務を思い出す。
アセリカ嬢よりも先に、王国を護ってくれた勇者ロイドを優先しなければいけない、公爵領の民を優先しなければいけないと。
「いや、今の言葉は撤回する。
王太子たるもの、愛する婚約者よりも、王国の恩人である勇者ロイドを優先し、公爵領の民を優先しなければならない。
公爵領の民と勇者を救出するために、王太子軍を出陣させる」
王太子が決断を下し命じたとたん、王太子騎士団団長のベッカー宮中伯バーツ卿と、王太子騎士団副団長のアクス城伯クバント卿が進み出てきた。
何か言いたい事があるようだが、普通ならば王太子が決断する前に諫言すべきだ。
言いたい事があるのなら、もっと先に言う機会はあっただろうに。
二人らしくない優柔不断な行動で、この日の王太子家臣団は本当におかしかった。
「恐れながら申し上げます、王太子殿下。
もし本当に魔王軍の第二軍が押し寄せてきているのなら、フィエン公爵家の西魔境だけでなく、北の魔境も心配でございます。
前回の魔王軍の侵攻で、北を担当していた辺境伯家は族滅しております。
王太子殿下の騎士団は、北の抑えに向かわすべきでございます」
王太子は、ベッカー宮中伯の献策をもっともだとは思ったが、それでも自分はアセリカ嬢を助けに行きたかった。
「分かった、王太子騎士団は北の増援に派遣する。
だが王国がフィエン公爵家を見捨てる訳にはいかない。
一般騎士団を動員してでも援軍に行かなければならない。
幸いと言っては何だが、私の結婚式で国内外の王侯貴族が集まっている。
方々の護衛は一騎当千の騎士ばかりだ。
彼らを頼るのは筋違いではあるが、事は魔王軍の迎撃だ、むげに断られはしまい」
王太子の言葉を聞いて、ベッカー宮中伯とアクス城伯は顔を見合わせてうなずき合ったが、何か思惑があるようだった。
「分かりました、では私が皇太子殿下の近衛騎士隊と一緒に同行させていただき、王太子殿下の騎士団と傭兵団はアクス城伯に指揮してもらいます。
北の魔境のようすを確認して、騎士団と傭兵団をどこに駐屯させるかは、アクス城伯に一任するという事で宜しいでしょうか?」
アセリカ嬢を心から愛し、勇者ロイドを心配し、フィエン公爵領の民の事を憂う王太子は、ベッカー宮中伯の諫言と献策を受け入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます