日刊幽霊新聞

山本清流

 はじめに

 もしも、幽霊じゃない誰かがこれを読んでいる場合に備えて、幽霊社会の全体像について、はじめにお伝えしたい。


 人は死ぬと、その場で幽霊へと転身する。都内の事故物件に在住の呪縛霊である女性(享年28)の実体験を例に、説明しよう。


 彼女は、28歳のとき、失恋を苦にして、住んでいた賃貸アパートの一室で首に縄をかけた。そのまま窒息死した。ちょうど意識が失ってから5分して、目が覚めた。


 そのとき、彼女は、自分の死体がふらふらと揺れているのを目の前で目撃した。いつのまにか身体から抜けてしまい、死体の傍らに立っていたのだ。


 それぞれの自分の手を確認すると、どちらも透けていた。身体も透けていた。半透明ではなく完全な透明であり、なにも見えなかった。鏡の前に立っても、自分の姿が映らなかった。


 そのうえ、自分の身体は物体に衝突することはなく、壁や地面をすり抜けられた。ドアを開けることもなく、部屋を行き来できたし、人にぶつかる心配もなかった。


 彼女は、数日間、気持ちよく街を散歩した。いろいろな場所を歩いていも、誰の目にも映らないので、気が楽だった。


 彼女は、自分の葬式に参列し、泣く友人や、家族を目撃している。「申し訳なくなっちゃいました」と顔を赤らめて語ってくれた。


 呪縛霊となっている現状については、「ずっと、部屋にいるわけではない」と話した。ときどき散歩に出かけるが、どうしても、部屋への愛着があって、戻ってきてしまう。


 部屋でぼうっとしたり、街を散歩したりする生活を続けている。


 普段は透けているが、霊術を上手に使いこなせば、自分の身体が見えるようにすることも可能だ。幽霊だけに見えるようにするのも簡単である。


 彼女の例のように、基本、亡くなった人間はその場で幽霊へと転身し、人間の目には見えなくなって生存することになる。


 そろそろ、享年28歳の女性の例(霊)とはおさらばしよう。


 幽霊の生活スタイルは多種多様だが、幽霊になった子供たちは、はじめに義務教育の続きを受ける必要がある。


 霊術を学べる学校が全国各地にあるのだ。幽霊となった子供たちは最初にどこかしらの学校に配属される。その学校で、ある程度、霊術について勉強するのだ。


 以下、幽霊学校について、説明を加えよう。

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