一念三千─武士道とは生きる事と信じたい─
@purari
第1話 stereo future
「命」とは可燃性の限りある財産に過ぎない"
齢15にして織田天磨はこう考える。
同時にその「命」の扱い方を知りたいと望んでいる。
それは突如として起きた災害であった。
5年前…怪物が渋谷から発生し、人々を無差別に殺傷していった。それらは軍隊が持つ従来の兵器では一切傷付かず、人間は為す術なく一方的に葬られた。
怪物達は「式鬼(しき)」と呼ばれる。
その状況を打破したのは────
「陰陽」と「科学」の融合であった。
古の時代に「陰陽師」と呼ばれた者達の末裔の知識と、現代科学の総力を合わせ、開発された式鬼に立ち向かうための武器…
「戦核(いくさかく)」
発動するまでは一見すると球状の機械のような外観である。
ただし、「適合者」がこれを手にし、一人一人に存在する専用の「具現詠唱」を唱えることでその形を変化させる。
戦核を用いて式鬼と戦う者達を人々は畏怖と尊敬の念を込めてこう呼んだ…「武士」と。
軍部は戦核を用いて反撃を開始。
遂には渋谷の地下深くで式鬼の首魁と思しき個体を討ち取った。
多大な数の人間と、渋谷の一帯を灰燼と化す犠牲を払いながらも勝利したのである。
この戦禍は「渋谷メルトダウン」と名付けられ、語り継がれる。
しかし平和は長く続かなかった。
式鬼は未だに存在し、変わらず人々の生活を脅かし続ける。
足りないのは戦力の数であった。
政府は一刻も早く戦える人材を確保すべく、専用の教育機関を設けることを決めた。
武士を育成するための学院…「戦学院(いくさがくいん)」の成立である。
政府は15歳の少年少女に対して一斉に適合者の適性検査を行った。
適性を持ち、戦核を起動出来る者には戦学院への入学を希望するか否かが問われた。
こうして全国から集められた若者達が今日、戦学院へと集うのであった……
「天磨〜、そろそろ長ったるいナレーション終わった〜?」
「まだ寝ぼけてんのか?式は始まってすらいねー。」
ここは入学式が行われる大ホール。こいつは
池田空(いけだくう)という俺の幼なじみである。
いささか中性的で幼い見た目から、女に見間違えられることもある。やや無気力で抜けた部分もあるが、まぁいいやつだと思う。
「んあ〜〜〜めんどくさぁ…」
「入学式ぐらいすぐ終わるだろ。」
「あり?知らないん?その後クラス分けの為に実技試験やるらしいよ。」
それは知らなかった。今日は完全に入学式だけ終わらせてさっさと家に帰って筋トレをするつもりでいた。昨日は腹筋周りを鍛えたので、今日は大胸筋を中心にやろうか?そういえばアメリカ軍隊式の腕立て伏せというメニューを見かけたのだが、あれはなかなかキツそうで良かったな是非試してみたい手応えがあれば今後のメニューに加えることも検討し
「天磨…まぁーた筋トレのこと考えて
たっしょー?」
「何?表情筋に出てたか?」
「そういうとこやぞ。」
さすがに付き合いが長いだけあって空の俺への理解は深い。
「ん、始まるっぽい。」
「静粛に!只今より戦学院第一期生の入学式を行います!」
マイクを通じて偉そうなおっさんの声がホール内に響く。
「まずは諸君、入学おめでとう。君たちは戦うことを選ぶことが出来たし、選ばないことも出来た。けれども今、こうしてこの場にいるということは、武士となって式鬼と戦う道を自らの意思で選んだということだ。君たちの選択に我々は感謝し、敬意を表する!」
壇上のおっさんは軍隊式のかしこまり型敬礼をした。軍部のお偉いさんってとこか。
「早速だがこの後、諸君ら一人一人の戦核を用いた実技試験を行い、クラス分けの参考にさせてもらう。では、諸君らの今後の成長と奮闘に期待し、健闘を祈る!」
おっさんは挨拶も足早にさっさと立ち去っていった。さぞかし忙しいんだろう。
入学式といってもあくまで形だけ。本命はこの後の実技試験のようで、入学式は来賓の挨拶程度であっさりと終わった。そして生徒は敷地内に存在する競技場のような場所へと移動させられた。
「しかしお前が武士になるとは意外だったな。」
「あーー?そりゃなるでしょ。天磨がなるならおいらもなるって。」
「ちゃんと自分で決めたなら文句は言わねーけどよ。」
「おいらは天磨の側に居たいだけだよ。」
「…お前が女だったら良かったのになぁ。」
「いや、関係ないっしょ。」
「え?」
「え?」
そんな他愛もない話をしている間に試験会場へとたどり着いた。
「なんつーか…ギリシャのコロッセオみてぇな場所だ…んで戦核使っての試験?つったらもうやること限られてるんじゃねーの?」
生徒達は緊張の面持ちで会場の中央を見つめている。
そこに立つちょい悪風のおっさんがマイクを手に話し始める。
「えーー、んじゃ今から実技試験の内容を説明しまーすっと。」
テキトーそうな人だ。担任になるならこいつがいい。楽そう。
「今から君たちには1人ずつこのスペースで式鬼と戦ってもらう。」
知ってた。それしかないと思った。
驚く生徒も多数いた。そりゃあいきなり式鬼と戦わせられるとは思わねーわな。
「あーー、怪我とか最悪死ぬんじゃ?とかそういう心配は要らない。俺ら教師陣が全力で見守ってるし、何も式鬼を倒せとは言ってない。俺らはあくまでも君たち個人個人の、戦核の特性が知りたいだけで…」
「そんなの事前に調べておいてくださいよォ!!!」「そーだそーだ!!」
野次が飛ぶ。一理あるわな。
けどこれはクラス分けの為に必要な試験って言ってたから少なからず意味があるんだろうな。
「まぁ落ち着いてくれ。チラッと見せるだけでいいから、な?」
ちょい悪風おっさんは苦笑した。
「犯罪臭がするセリフだな?」
空はマイペースだ。
「とりあえず時間も惜しいからさ、パパっとやって終わらせちまおう!な?」
こうして実技試験が始まり、生徒達は会場外に並び待機させられ名前を呼ばれるまで自分の順番を待つことになった。
会場内の様子は巨大なモニターで外からも見える作りになっており、戦闘の様子もしっかりと見物できるようだ。
「んじゃ、始めるぞーー!!お前らに戦ってもらう式鬼は捕獲して確保してきた下級の
式鬼「天邪鬼あまのじゃく」だ。図体は小さいが数が多いタイプの雑魚だな。まぁ、油断しないでやってくれや!んじゃまず最初の生徒は…」
生徒に緊張が走る。
「織田天磨。」
いきなりか。けど丁度いい。
この日をどれだけ待ったか。
式鬼と戦いを始めるこの日を。
適性試験を通過して入学するまで、戦核の実戦使用は認められていない。戦核は軍部機関によって管理されており、所有は個人だが発動と同時に位置情報と所有者の伝達が行われ、誰がどこで発動したかが識別されるようになっている。これにより、犯罪や一般人への使用は厳しく取り締まりを受ける仕組みだ。
故に今日が初めての実戦となる。
「…天磨の力、みんなに見せてやるチャンス。」
「分かってる。為すべきことを為す。」
俺はゆっくりと会場内に入っていく。
会場内には檻に閉じ込められた多数の天邪鬼、そして隅には教師陣の面々が待機している。
「あーー、織田、あんまり緊張しないようにな。始めの合図で檻開いて一体だけ出すから、そしたら戦核を発動してテキトーに戦ってくれればいいから。」
「戦ってくれればいいって言いましたけど…別にあれを倒してしまっても構わないんですよね?」
「ハハハ!こやつめ!じゃあ行くぞ、始め!!」
(見せてくれや…あの人の息子がどれだけやれるか…!)
ちょい悪風おっさんは合図と同時に檻を開けた─────
戦核って何で出来てると思うよ?
それはズバリ「SF」と「オカルト」。
個人に合わせて独自の形状に変形するって何?
元の材質は何?動力は何?
具現詠唱が、
「戦核を握った際に脳内に浮かんだ言葉」を唱えるって何?
つくづく意味わかんねー武器だよなぁ。
俺は戦核を握りしめ、精神を集中させて唱えた。
「 "変幻自在にして、不変不動"」
「来い、他化自在天(たけじざいてん)!!」
戦核が形を変えていく。
それは抜身の刀。禍々しくもどこか美しさを感じる刀身。
「グルルルァァァァアアア!!!」
天邪鬼が真っ直ぐこちらに向かってくる。
勢いよく地面を蹴り出し前に突っ込む。
渾身の力を込めて柄を握り力を込める。
そのまま一直線に刀を振り下ろす──
「ア……ガ………」
真ん中で縦に真っ直ぐ両断された天邪鬼の体。
それと檻の入り口。
檻 の 入 り 口
「あ」
「ギャギャアアアアアアアアアア!!!!」
檻の中に捕らえられていた多数の天邪鬼が一斉に襲いかかってくる──
他化自在天が形を変えた。
長槍へ。
「形そのものが変わる戦核だと!?」
教師陣の中から驚きの声が上がる。
リーチを活かして接近しきる前に天邪鬼の心臓を突き刺す。
すかさずもう一体へひと突き。
「ギャギャア…!」
天邪鬼は散開し始める。囲んで叩こうという算段だろう。やつらに思考回路があるとは思えないが。
「危ない!!」
教師が俺の背後を指差した。
回り込まれた、なら。
「ガァァッ!!」
天邪鬼の振り下ろした爪を
盾に変形した他化自在天によって防ぐ。
「遅ぇなァ!」
短剣に変形した他化自在天で首筋を掻き切る。
倒れ込んでいく天邪鬼の背後にまた別の個体
が潜んでいるのを確認し、
短剣のまま高く掲げた他化自在天を斧へ。
そのまま両手で握り振り下ろす。
ズシャアアアアとグロい血しぶきを上げながら死体ごと二枚抜き。早くシャワー浴びたい。
「ガ…ア……ア…!」
天邪鬼たちは怯んだのか後ろへ下がっていく。
「銃はあんまり得意じゃねぇんだけどな…」
ハンドガンに変形した他化自在天のトリガーを弾く。
一体…二体…三体…頭を射抜く。
「ア……ア…アアアアアアアアア!!!!」
残りの天邪鬼共がヤケになったのか一斉に向かってくる。結構人間っぽいとこあんじゃん。
他化自在天を刀に戻し、足を広げ構える。
「やっぱ刀はしっくりくる。」
そのまま精神を集中させるようなイメージで刀の先へ先へと意識を集中させていく。
これに気付いたのは適性試験の際だ。
なんとなく刀身に念を送ることを意識してみたらだんだん黒いオーラが刀全体を包み込んでいくことを発見した。
その時は気付かなかったが、こうして実際に武器を振るう今なら分かる。
必殺技だなコレ?
つまり、アレだろ、俺が…名前とか付けて叫んでいいんだよなァ…?
こんなん男ならみんな憧れるやつやん…
「行くぞ天邪鬼共」
黒いオーラが刀身全体を包み込み、心なしか柄を握る手が熱を持つような感覚を抱く。
そして纏ったオーラごと思いきり振りかぶる──
「羅刹斬!!!!!!」
巨大な刃と化したオーラが天邪鬼達を一瞬の内にまとめて叩き斬った。
「こんなもんか」
俺は戦核の変形を解除した。
さっきまで天邪鬼だったものが辺り一面に転がる。
驚きを隠せないといった教師達の顔。
「あーーー、織田…。言いにくいんだけどな?」
ちょい悪風おっさんがバツが悪そうに近付いてくる。
「全部倒したら他の生徒が戦えねンだわ…」
「あ」
織田天磨。
後に「戦鬼」と呼ばれ恐れ称えられる男の始まりの一戦であった。
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