ニューヨークの探偵

ドント in カクヨム

Who Am I (What's My Name)?

 だ。ールじゃない。

 俺の名前はボール・コーガンだ。


 本来ならポールのはずだった。だが飲んだくれの親父が出生届を出す時、書類に短小な字でシコシコとカキやがった上、Paul Coganとマス目にカクべきところを全部小文字でヤり、さらに棒の部分が垂れ下がるpじゃなく、屹立してるbみたいに書いてしまった。

 しかも、目んタマが腐った役人が手続きをしたらしい。baulをballと間違えた。不運は重なるものだ。結果、俺はボール・コーガンという名で合衆国市民として登録された。

 Ball Cogan、だからそれが俺の名前だ。ボールだ。ポールじゃない。


 仮にbaulという綴りだったら、どうだったか? 俺は調べてみたことがある。

 アジアのどこだかで、吟遊詩人がそう呼ばれているそうだ。丸っこいボディに棒状のモノを刺した形の楽器を握って、ブラブラと歌い暮らすらしい。発音はバウル。ボールじゃない。バウルだ。


 ただ、今となっては性人にあやかったポールや、歩く詩人の名じゃなくてよかったと思っている。 

 このニューヨークの隅で探偵をやるからには、聖人や詩人であるより、タフでストロングでなけりゃならないからだ。一人立ちして、ヤッていけるような奴に。


 探偵って仕事もご立派なモノだろう、って? あんた小説の読みすぎだ。

 立ち裸る事件の謎を解く推理を開チンしたり、あるいはサカリ場で悪人たちと大勃ち回りになるなんてことはない。

 探偵の仕事の九割が浮気調査の類だ。残りだって、深い茂みにじっくりと分け入って犬猫を探すとかばかり。自分自身を立派と誇れるような仕事じゃあない。


 ただそんな日々の中でも、妙なことに巻き込まれることがごくタマにある。

 今日はあんたに、最近あったそんな話をしてやろう。


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