第52話実家でのひと時


 ボヘーミャであたしに課された問題を知らされアガシタ様以外の女神様まで参入して来た事にどっと疲れを感じあたしたちは実家に戻って来た。



 「ただいま戻りましたですわ‥‥‥」


 「あらあらあら~! エルハイミおかえりぃ~!! コクちゃん、セキちゃんもいらっしゃい~、お婆様待っていましたよ~」



 いきなり帰って来たと言うのにママンは普通に対応してくれる。

 エルザメイド長に聞いたらパパンはお城に行っているとの事で数日戻らないらしい。

 バティックやカルロスは約束通りファルさんとパーティーを組んで冒険に出た様だ。


 なので実家にいるのはママンだけ。


 しかしママンにしてみればコクたちさえ来てくれれば寂しさも暇を持て余す事もなくなる。



 まあ、あたしはあたしでこれからイザンカに行く前にいろいろな所に報告と挨拶回りに行かなければならない。 

 


 「エルハイミ~、チョコぉ~!!」


 マリアが約束のチョコレートをせがむ。


 「あらあらあら~、そうねぇ、早速お茶にでもしましょう~。コクちゃんたちもお菓子はチョコで良いかしら~?」


 「うーん、お肉が良いけどチョコでも良いよ、おばーちゃん!」


 「これセキ、お婆様と呼びなさい!」


 「あらあらあら~、相変わらずコクちゃんはしっかりものねぇ~」


 ママンは嬉しそうにそう言う。

 そしてお茶の準備をしているのだけど‥‥‥



 しゅばっ!


 くるくるくるぅ~

 どしゃっ!!



 いきなりジャンピング土下座する二つの影!



 「ぅぇえエルハイミ様ぁ~っ!! よくぞお戻りになられましたぁっ!!」


 「我が女神エルハイミ様ぁっ! 本日もお麗しゅうございますぅっ!!」



 来たよ、ササミーとヨバスティン。

 なんかジャンピング土下座に年季が入り始めているし‥‥‥


 「ササミー、ヨバスティン。それやめてくださいですわ。それよりみんなにチョコレートを出してあげてくださいですわ!」


 ため息をつきながらあたしはそう言う。


 そしてママンにこの後みんなにはお茶をしてもらいながらあたしだけで先に他の所へ報告に回るので差し入れのチョコのお土産もお願いする。



 「お姉さま! 私も付いて行きます!」


 「何イオマ? 付いて来るつもり?」


 「そう言うシェルは何を当然のようにお母様に付いて行くつもりですか?」 



 睨み合う三人。



 「はいはい、みんなも今はここでお茶していてくださいですわ。すぐに戻りますから私一人で行ってきますわ!」


 ぞろぞろとみんなで移動するより連続であちらこちらへと行った方が良い。

 苦情の声が上がる中、ササミーからお土産のチョコを受け取りあたしは一人で【異空間渡り】をして先ずはティナの町に行く。



 * * *



 「そうですか、またティアナ様では無かったのですか。残念です」


 「しかし正妻、その話が本当なら早い所『悪魔王ヨハネス』と『魔王』を処分してよね。そうすればティアナ様の転生者に会えるのでしょう?」


 ティナの町でエスティマ様に挨拶をして差し入れのチョコを渡し、報告。

 その後にミアムとセレに会いに来た。


 しかし状況説明するとこれだよ。

 そうそう簡単に済めば苦労はしない。



 「それで、こちらの方は何かありませんの?」


 「残念ながら何も。『風の剣』や冒険者ギルドでも情報は集めてますが全くないですね」


 「はぁ、ティアナ様どこかに転生なさっているのかなぁ~。あ、でもまだお小さいのか。きっとかわいいのだろうなぁ~」


 ミアムは今までのこちらでの情報を教えてくれてセレはぼやきながらお土産のチョコをほおばる。



 しかしミアムはあたしに向かって頭を下げた。



 「今回もお疲れ様です。しかし何としても私たちが生きている間にもう一度だけでも良いからティアナ様に合わせて下さい。エルハイミさん」


 「ミアム‥‥‥」


 ミアムがそう言うとセレも急いでチョコを飲み込み同じく頭を下げる。


 「悔しいけど、今は正妻を当てにするしかないわ。私も同じ。なんとしてももう一度ティアナ様に会いたい」


 「ミアム、セレですわ‥‥‥」


 なんか調子狂うけどこの二人がここまで真剣にあたしに頭を下げる。

 あたしは「ええ、分かっていますわ」とだけ言って次の場所へ【異空間渡り】をするのだった。



 * * *



 「やっと帰って来た。って、シェルねーちゃんは?」


 「今は私の実家ですわ。それでジル、獣人の人たちはどうですの?」


 「ああ、もの凄く助かっいるよ。運搬も彼らに任せれば楽だし村の近郊を拡張工事するのも手伝ってもらえる。エルハイミねーちゃんほどではないけどこまごまとしたところは人間の手だけじゃ出来ないからね。崖っぷちで支えや足場の要らない獣人たちはほんと優秀だよ」


 ジルはそう言って笑った。

 どうやらファルメルさんたち獣人も上手くやっている様だ。


 あたしは一安心してこの後の事をジルに話す。

 そしてまたまた【異空間渡り】で次の所へと行くのだった。



 * * *



 あたしはモルンの町の上に【浮遊魔法】でたたずんでいる。

 この町の東にはルド王国がある。



 そしてティアナが死んだ場所でもある。


 あたしはもう一度【異空間渡り】で「狂気の巨人」を倒した場所へ移動する。




 そして地面に降り立ち周りを見る。


 針葉樹が多かった森はあの戦いでなぎ倒され、ここ北の大地の遅い春の訪れに緑が覆い茂げ始めていた。




 「ティアナ‥‥‥」



 ここであたしはティアナの最期を看取った。

 ティアナは光りの粒子になって崩れ消えて行った。


 あの時「悪魔王ヨハネス」さえいなければ‥‥‥


 あたしは唇をかみしめ地面にそっと手をつく。



 「ここでティナは消えてなくなったのですわ。でもきっと必ず見つけ出して取り戻して見せますわ‥‥‥」





 あたしは立ち上がり涙を拭いてからまた【異空間渡り】を発動させ実家へと戻るのだった。

 

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