第48話知識の塔


 ミーティアちゃんの魂問題を解決したあたしたちはティアナでは無かったけどとりあえず今回の目的を果たした。



 はぁ、やっぱりティアナじゃ無かった。

 一体どこにいるのよティアナ?

 もうこっちの世界に転生していないのかな?

 冥界の女神セミリア様の所にまだいるのかな?



 あたしはため息をつく。


 「それで、この後どうする気です? お姉さま?」


 「そうですわねぇ、その前にいくつか気になる事を聞いても良いですかですわ?」


 あたしはセリアさんに向かって話しかける。


 「ええ、勿論です。私にできる事ならなんでも」


 旦那さんのドワイッシュさんと喜んでいるセリアさんはミーティアちゃんをドワイッシュさんに預けてあたしに向き直る。



 「まず、『知識の塔』について教えてくださいですわ。伝説の通りそれは存在していて私のご先祖様であるガーベルが辿り着いた場所ですの?」


 「エルハイミさんのご先祖があの魔法王? そうだったのですか‥‥‥」


 驚くセリアさん。

 残念ながらあたしの体にはあのご先祖様の血が流れているらしい。


 「ガレント王家は魔法王ガーベル直系の血筋ですわ。私の生家ハミルトン家はガレント王家とは親戚の関係ですの」


 「なるほど、そうだったのですか。『知識の塔』は存在しますが私たちの思うような建造物ではありません。知識の塔は『彼女』エリリアそのものなのです」



 はぁ?

 何それ?

 だって女神戦争で知恵の女神事オクマスト様が自分の知識が失われる事を嫌ってその知識をその塔に封じ込めたって‥‥‥



 「厳密に言うなればエリリアが『知識の塔』の入り口となるのです」


 そしてセリアさんは『知識の塔』について色々と話し始めた。




 「知識の塔」


 それ自体は「彼女」ことエリリアが必要とすると現れ以前はそこに住み着いていたそうだ。

 しかし彼女が塔を離れると途端に消えてなくなり誰も塔に入ることが出来なくなるとの事。

 そしてそのエリリアと言う女神の分身は通常人の町でひっそりと暮らしているそうだ。

 今は何かの必要がない限り「知識の塔」を出す事は無く故に誰もその塔を見つけ出せることは無かったそうだ。


 しかし一年以上前、その彼女を見つけ出した者がいた。

 それがジュメルの十二使徒の一人、ヨハネス神父であったのだ。


 ヨハネス神父は言葉巧みに彼女に近づきそしてあと一歩という所でレイム様に邪魔をされ「知識の塔」を奪うことが出来なかった。


 その時にはジュメルの魔怪人やら何やらが襲ってきてエリリアは慌ててセリアさんたちにも救援要請をしたらしいが、結局最後はレイム様が助け出し今は塔は消えているそうだ。



 「そうしますと、その『彼女』であるエリリアさんという方は何処に?」

 

 「詳しくは分かりませんが南方、多分ボヘーミャ辺りにかくまわれていると思います。ただ、私の所にも最近は連絡が無くて心配はしているのですが‥‥‥」



 ボヘーミャって‥‥‥

 そのエリリアって女神の分身がどう言う人かは知らないけどあんなところにまで逃がすとは。

 レイム様の事だ、面倒事を師匠辺りにでも押し付けるつもりだったのだろうか?



 「でもそんな風な人って見かけたことありませんよ? ボヘーミャの学園内は勿論、ジュメルに襲われて復興中の街だって女神様の分身ほどの方がいれば気付かれるのでは‥‥‥」


 「たぶん、皆さんが思っている様なお方ではありません。身の丈百四十強、小柄で眼鏡をかけた青色でショートの髪の毛をした女の子ですから‥‥‥」



 あー。

 なんで女神の分身ってそう言った趣味の人に走るかな?

 尊厳さの欠片も無い。



 「もしかしてかなり地味なの外観の方ですの?」


 「眼鏡をはずすとかなりの美少女なのですがね、いつも大きな眼鏡をかけているので眼鏡越しにはよく顔が分かりませんよ、それに何時も魔導士のような格好をしていますから余計に目立たない」


 少し困り顔のセリアさん。

 普通女神の分身ともなればそうそうたる威厳を持ち誰が見てもそれと分かるようなイメージがある。


 現に「伝説の少女」とされるライム様の肖像画と言われる物だって戦の乙女バルキリーのように描かれ、まさしく凛々しく神々しい絵や彫刻が立ち並んでした。

 本人をその横に並べればきっとその作者たちは幻滅するだろう。



 「それでは次にゴエム、ジュメルは異界から何を呼び寄せるつもりですの?」


 「さあな、そこまでは分からん。ただ失われた召喚魔法でも特に強力な『悪魔』召喚でもするつもりじゃないか? あいつらは上級悪魔であれば魔人に匹敵すると聞いている」



 つまりジュメルはまだ世界の滅亡を諦めていないと言う事か。



 レイム様にことごとく異界召喚に関する魔道を回収され現在の世界ではほとんど異界召喚の魔術は失われつつある。


 ご先祖様の話では悪魔はもともとこちらの世界にいるものでは無く他の異世界からの者らしくその糧が魂であると。

 悪魔王ヨハネスだってあたしの魂を狙っていた。



 「ジュメルの次の目的は異界からの悪魔軍団の召喚という所ですわね‥‥‥」



 「異界の悪魔軍団!? お姉さまそれって‥‥‥」


 「あの『狂気の巨人』で世界破滅諦めていないっての?」


 「異界の者ですか‥‥‥確かに悪魔どもは厄介です」


 「あー、あいつらこっちの世界で依り代見つけて融合するとかなり手ごわいからねぇ~」


 あたしのその推察にイオマは驚きシェルは唇を噛む。

 そしてコクやセキは過去に悪魔たちと戦った事が有るのだろう、当時の事を思い出している様だった。


 「確かにあいつらの傷は治りが悪く成るでいやがります」


 「ふむ、面倒な相手ではありましたな」


 クロエさんやクロさんもあの十二詰め所の事を思い出しているのだろう。



 「おいおい、エルハイミ、そうするとジュメルの連中は今度は悪魔召喚で悪魔の軍団を呼び寄せるつもりってのか? またこのホリゾンでそんな事するつもりだってのか?」  



 ここにきて慌てるゴエム。

 しかしジュメルの目的は世界征服などではなく人類の滅亡。

 過去の「魔人戦争」だってそれが目的のはずだった。


 「主よ」


 「ええ、ショーゴさん、ボヘーミャに『彼女』、エリリアさんを探しに行きましょうですわ! 絶対に『知識の塔』はジュメルには渡せませんわ!」


 

 ティアナを探すことも重要だけどこの世界の裏で暗躍している秘密結社ジュメルの野望も砕かなければならない。




 師匠に託されたこの世界の平和、あたしはこぶしを握るのだった。

 

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