第9話ファーナ神殿のゲート
馬車に揺られる事既に一日。
もう少しで宿場村に着くけどあたしは悩んでいた。
「だから、正妻である私がエルハイミと寝るの!」
「何を言っていますかこのバカエルフは! 私はシェルの事を後妻と認めません! それにお母様と一緒に寝るのは私です!」
馬車の中でそんな話でもめている。
実家でシェルが便宜上あたしの妻となった事をメッセンジャーで宣伝しまくっていきなり色々な所から反響があった。
イオマなんて「ボヘーミャで待っています、お姉さまどう言う事かきっちり話してもらいますからね!!」なんて怒っていた。
ティナの町からもエスティマ様から緊急メッセージで考え直せだの、「ティアナの事はあきらめて私と一緒に」などといまだに未亡人のあたしなんかに求婚してきたりもしている。
そして今のこれだ‥‥‥
「姉さまっていつもこんなのなの?」
「カルロス、多分いつもそうなんだろうよ、姉さまだもの‥‥‥」
なんか酷い言われ様な気がするのだけど?
「バティックにカルロス、私はティアナを探し求めているのですわ。シェルは従者、便宜上で『妻』が着いただけですわ。それにシェル、宿では私は娘たちと寝ますからねですわ!」
「えーっ! そんなぁ!!」
非難の声をあげるシェル。
シェルは約束を破りはしないものの隙あれば「チュー」を要求する。
そして近くで寝ようものならいつの間にか近寄ってきて襲われそうな雰囲気満々になる。
流石に約束は自分から破ってこないけどやたらと受け取り方でシェルの好い様に解釈される言い方なんかもしてくる。
昨日の夜だって‥‥‥
―― 回想中 ――
「ねえ、エルハイミってさ、ティアナがいなくなって夜寂しくない? 体が火照ってしまわない?」
「なっ!? い、いきなり何なのですの?」
「う~ん、みんな寝ちゃったし、あたしが手伝ってあげようか?」
「結構ですわ!」
「そう、結構なのね? つまり結構なのでいいって事ね!?」
そう言ってシェルは息荒くあたしの横に来る。
「こらっですわ! 肯定の『結構』では無く遠慮と否定の『結構』ですわっ! よだれっ! 服を脱ぐなですわっ!!」
―― 回想終わり ――
全く、あのまま放っておけば襲われていた。
最近のシェルは盛りの付いた何かの様にしょっちゅうあたしを襲おうとする。
おかげで女性として可哀そうなシェルの胸を大きくしようかと言う考えもきれいさっぱりと霧散した。
「でもさ、野宿も始めてだったし屋敷以外で寝るのも初めて、やっぱり外の世界って面白いよね?」
「カルロス、面白い事ばかりではないのですわよ? 自分の事は自分でやらなければならないし、自分の身は自分で守らなければならないのですわ」
あたしの忠告にカルロスはきょとんとして見ている。
「分かってますよ姉さま、だからぼくたちはちゃんと内緒で練習してきたんですから」
バティックはそう言って腰のポーチをポンと叩く。
実家から持ってきたいろいろ役に立つものが入っているそうな。
「主よ、着いたぞ」
ショーゴさんがそう言って馬車を止める。
あたしたちは宿場村で一晩を過ごすのだった。
* * *
「うーん、お料理あんまりおいしくない! それと肉少ない!!」
「セキ、お肉ばかり食べていてはだめですわよ? ちゃんと野菜も食べなさいですわ」
夕食でセキがごねる。
仕方ないので追加で鳥の丸焼きを頼む。
「ところで姉さま何故ガルザイルでは無くファーナ神殿へ行くのですか?」
「そうそう、ゲートって言うのはガルザイルとボヘーミャの間にあるんじゃないの?」
「そうですわね‥‥‥」
あたしはバティックとカルロスにファーナ神殿にもゲートが有ることを話す。
もともとは「中央都市」にあったけどそっちは壊れていて使えない。
そしてなぜかファーナ神殿にもゲートが封印されていた。
「なるほど、そうだったんですね」
「でもあんなところにあっただなんてね」
「まだまだいろいろな所にゲートはあるらしいですわ。でも現代では使える人もそれほど多く無いし向こう側のゲートが既に壊れている所も有るので確認してからでないとだめですわね」
そう言えばご先祖様が向こう側がはっきりと確定しているゲート意外使うなって言ってたっけ?
確か現代では魔法の効力が無くなっていてゲートは生きているけどその先の出口がとんでもない事になっている場合があるそうな。
例えば水に沈没してしまっていたり環境のコントロールが失われ本来の状態に戻ってしまったために氷の中に転送されたりと。
分かっていないゲートはほとんど転送トラップの様なものだ。
「という訳で、明日はファーナ神殿からボヘーミャに飛びますわよ?」
「はい、姉さま」
「楽しみだね、瞬間移動だなんて!」
説明を終えたあたしたちは明日の為にしっかりと休むのだった。
* * * * *
「噂では聞いていましたが、今度のエルハイミさんのお相手はエルフの方だったんですね? と言う事は、エルフの方でも胸が大きくなると言う事ですね?」
「あの、何故そこでいきなり胸の話が出るのですの?」
「だってエルハイミさんですもの!」
挨拶もそこそこファルさんはとんでもない事を言っている。
「これこれファル、あまり込み入った事を聞くものではありませんよ?」
ファルさんはエネマ司祭にそう言われて大人しくなる。
「エルハイミさん、ティアナ殿下の事はご愁傷さまです。しかし女神様のお力で転生がなされると有らばいち早く見つけてやってくださいね」
「ええ、エネマ司祭様。私もそのつもりですわ」
あたしの答えにエネマ司祭はにっこりと笑って「神のご加護を」とか言ってくれる。
その後あたしたちは地下のゲートまで連れてってもらい、いよいよボヘーミャに飛ぶ。
「はぁ、エルハイミさんって今度はエルフの方とお子さんを作るんですよね? ほんと凄いですよね、女の子同士なのに」
去り際にファルさんはとんでもない事を言い始める。
「はい? ファルさん??」
「もう巷では『育乳の魔女』は『子を授ける魔女』とか言われてうちの神殿にも問い合わせが殺到してますよ。どうやったら『子を授ける魔女』に会えるかとか」
「ちょっとマテですわファルさん、何故そんな噂が広まっているのですの?」
既にゲートが起動していてもう光のカーテンがせり上がっていた。
「あ~、ティアナ殿下とお子さん作っていたからその話をしたらいつの間にかそう呼ばれているみたいですよ?」
「それってファルさんのせいではないのですの!? ちょ、ちょっとファルさんですわ!!」
あたしのその言葉を最後に光のカーテンで完全に遮られあたしたちはボヘーミャに飛ばされる。
「ファルさぁーんッ!!」
あたしの非難の声が届いたかどうかは定かでなかったのだった。
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