第7話ファーナ神殿へ


 『という訳です。そしてこれがその子なのですが、我々も初めての経験、村の住人の中には悪い事が起こるのではないかと心配している者も出始めています。魂の鑑定手段は人間たちの魔導士が可能と聞いています。あなたたちが来てくれることを待っていますよ』


 最後に赤い髪の毛の色をした女の子の赤ん坊を見せてファイナス市長の風のメッセージはそこで切れた。




 「うーん、確かに伝説では魔王の魂は何処かに転生して復活するって言われていたけど、あたしたちエルフにねぇ」



 シェルは腕組みしながら唸っていた。

 あたしも今の話聞いてちょっと驚いている。

 

 そう言えば以前ファイナス市長はあたしの魂について魔王の転生ではないかと言っていたっけ?



 「それでシェル、その『魔王』というのは何なのですの?」



 「うーん、あたしも聞かされた話だけど魔法王が国々を作る以前の混沌とした時代に現れた覇者らしいわ。当時まだ精霊魔法も使えなかったあたしたちエルフはそいつを倒すのに苦労したって聞いてるわ」


 ご先祖様の国創り以前の覇者?


 そんなのがいたんだ。

 確かにそんな昔の話だと人間の歴史の記録には載っていないはずだ。



 「そうするとその『魔王』は人間なのですの?」


 「えーと、半神半人の子孫だって聞いてるわ。エルフでは無いのは確かね」



 半神半人って‥‥‥女神たちの子供って事?



 「コク、その様な話初めて聞きましたが、女神様たちに人との間に子を設けたりしていたのですの?」


 「はい、いくつか例があったと思います。事実私もミグロたちの祖先になるジマの国の真祖を産んでいますし」


 そう言えばミグロさんたちのご先祖様はドラゴンニュートだったって話だっけ。

 しかもその親があたしの目の前にいる黒龍事コクと暗黒の女神ディメルモ様。


 だとすればそんな人物がいたっておかしくない。


 「『魔王』なる者につては私も詳しくは知りませんね。私はずっと迷宮とジマの国にしか関心が有りませんでしたから」


 そう言えばコクは迷宮の奥底に引きこもっていたんだっけ。


 自分の子供を子孫に殺されたのがショックで。


 「まあ、何だか分からないけど行ってみてエルハイミが確認してくれればすぐわかるわよ。で、どうするのエルハイミ?」


 「そうですわね、数日こちらで準備をしてから出発しますわ。向かうはファーナ神殿ですわ」


 ユーベルトの街と首都ガルザイルの間にあるファーナ神殿。

 ここにはボヘーミャへとつながるゲートがある。

 だからボヘーミャから精霊都市ユグリアへはゲートを使えばすぐだ。


 バティックたちの初冒険には少々物足りないかもしれないけど様子見にはちょうど好いかもしれない。


 そして赤毛のエルフの子供。


 もしティアナなら末永く一緒にいられる。

 その赤子の親御さんを説得するのに一苦労しそうだけど、ティアナの記憶が戻れば事は早い。


 

 ティアナだったらいいなぁ。

 あ、でもエルフは成人するのに二百年もかかるんだっけ?


 うーん、その間に記憶が戻ってもらわないと大変だなぁ。


 

 あたしは一人でぶつぶつ考え事をしていた。




 「ぅえぇぇえエルハイミ様ぁっ! ご挨拶が遅れて申し訳ございませんッ!!」


 「ハイル、エルハイミ様!!」



 声と共に人影がジャンピング土下座してあたしの前に現れる。

 驚き見ればササミーとヨバスティンだった!?



 「ふひゃぁっ、ですわ!! って、ササミー、ヨバスティン!?」



 あまりの登場の仕方に驚くあたし。


 「申し訳ございませんエルハイミ様ぁっ! 我が娘がお手数をお掛けしておりましたぁっ!! しかも旦那様に手厚いお慈悲までいただき、カルロス様にまでもったいないお約束までいただきこのササミー感無量にございます!!」


 「おおっ、我らが女神よ! 我ら『エルハイミ教』の女神よ! ありがたやぁ~!!」



 だ、大丈夫かこの二人!?


 

 あたしは思い切りドン引きしている。


 「ええ~っと、取りあえず落ち着いてですわ、ササミー、ヨバスティン」


 あたしがササミーとヨバスティンの肩に手をあて引き起こそうとすると二人は床に穴が開くのではないかと言うくらい額をこすりつける。



 「何をおっしゃいますぅっ! この感謝の気持ちの千分の一、いや、万分の一でもこうして頭を垂れさせていただかなければ気が収まりませぬぅっ!!」


 「エルハイミ様のご尊顔を直に拝見させていただくなど、もったいなく目がつぶれてしまいますっ!!」



 ええとぉ~‥‥‥



 あたしは思わず助けを求めシェルを見る。

 しかしシェルはうんうんと頷き「流石あたしのエルハイミ!」とか言ってるし!!



 「全くこの二人の姉さま崇拝は相変わらずだね?」


 「ササミー、ヨバスティン、これ以上姉さまを困らせないでよ。それに二人は僕の義理の父と母になってもらうんだから、そう言うのはやめてもらいたいな」



 困っていたあたしにバティックとカルロスが助け舟を出してくれる。



 「なんともったいないお言葉! バティック様、カルロス様!!」


 「ぎ、義理の父とは! エ、エルハイミ様の弟君が我らの義理の息子に!? おおっ、何と言う福音!! なんという幸福!! 女神エルハイミ様よ永遠なれ!」



 本当に大丈夫かこの二人!?

 何時からここまで壊れた!!!?


 前々から特にササミーとかは少し大げさだとは思っていたけど、ヨバスティンまで完全に壊れている!?



 だ、駄目だこいつら早く何とかしないと!!



 あたしが戦慄を覚えていたらセキが我関せずと言い始める。


 「エルハイミ母さん、とにかくお腹すいた! お肉! お肉食べたい!!」


 「あらあらあら~、ごめんなさいセキちゃん。そうねぇ、そろそろお夕食の時間ね? さあ、ササミーも今日は腕によりをかけてコクちゃんとセキちゃんにデザート作ってあげてね~」



 はっ!



 固まっていた思考がセキのおかげで動き出す。

 そしてママンの一言でこの二人も一礼して下がっていった。


 なんか嵐が過ぎ去ったような気分だ。



 実家に戻って来たのに疲れるわねぇ‥‥‥




 とりあえずあたしは準備が整うまで自分の家でゆっくり休もうと思うのだった。


 

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