鴉と令嬢 ~異能世界最強の問題児バディ~【富士見ファンタジア文庫4月20日発売!】
海月くらげ@書籍色々発売中!
第1話 『暁鴉』と呼ばれし『異極者』
2022年3月追記
このたび富士見ファンタジア文庫様より『鴉と令嬢 ~異能世界最強の問題児バディ~』として4月20日に発売が決定しました!
ここまで来られたのも応援していただいだ読者の皆様のお陰です!本当にありがとうございました!!
書籍発売をお楽しみに!
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深夜の東京。
見上げた夜空に
俺は一人、チカチカと明滅を繰り返す街灯が照らす路地を歩いていた。
現役高校生の俺が警察に見つかれば
だが、長居はしたくない。
睡眠不足で授業中に居眠りしては面倒だ。
早いとこ仕事を終わらせるとしよう。
ゴミが散乱し壁への落書きなども増えて治安の悪さを感じつつも、奥へ奥へと歩を進める。
人の気配はすっかり消えて、
野良猫が「みゃあ」と鳴いた声と使い古した革靴の足音が嫌に響く。
曇ったガラス窓に映るのは冴えない自分の顔。
死んだ魚のようだと評される目には黒い前髪が軽くかかって陰鬱そうな雰囲気を漂わせる。
春先の少々肌寒い気温に適したラフな服装からは革靴だけが妙に浮いていた。
右手の人差し指に嵌められた白い指輪は自分でも似合っていないとつくづく思う。
「……はあ。俺が選んだことではあるけどさ」
思わずついた深いため息。
こんな仕事、出来れば辞めてしまいたい。
だけど。
妹を養うために俺が稼がなければ。
頭の出来が優秀な妹に苦労はかけたくない。
シスコンかよって? そうだよ悪いか。
そもそも、たった一人の家族を愛して何が悪い。
「……ん?」
取り留めのないことを考えていると、ズボンのポケットにしまっていたスマホがピロロンと着信を知らせた。
画面に映る名前は『有栖川アリサ』。
ややこしい名前だが芸名ではなく本名。
ついでに言えば、俺の仕事仲間でもある。
3コール目でようやく通話を繋ぐと、
『――0コールで出てくださいと日頃から言ってますよね、佐藤京介』
鈴のように
声だけで想像できる容姿
実際に財閥令嬢だし容姿も相当に優れているが、可愛ければなんでも許されると思うなよ。
まあ、現実的には大体許されるんだけどさ。
それよりも、である。
「開口一番それか。てか今どこだよ」
『知りません。迷いました』
「はぁ? スマホなんて便利な文明の利器がありながら迷った?」
『私が方向音痴なのは知っていますよね』
「だから待ち合わせで一緒に行くかって聞いたのに、『貴方のような男と並んで歩くなんて耐えられません』って断っただろ⁉」
『この世の摂理です。諦めて受け入れてください』
そんな理不尽極まる摂理があってたまるか。
有栖川と話してると頭が痛くなってくる。
頭の出来は俺なんかとは比べ物にならないほど良いのに、どこで道を踏み外したのだろうか。
「で、迎えに来いって話しか?」
『それには及びません。一人でお仕事頑張って下さいとささやかながら激励をしようと思いまして』
「一人だけサボるな」
『手柄を譲ったんです。土下座で咽び泣きながら感謝して欲しいですね』
「お前の俺に対する扱いの程度が知れるな」
『まあ、使い勝手のいい下僕程度には思っていますけど』
傍若無人な有栖川の扱いにため息をつけば、返ってきたのは上品に笑う声。
『安心してください。可愛い冗談です。
「りょーかい」
『それと……私のことはお前ではなくアリサと呼んでくださいと何度言ったら――』
プツン、と。
最後まで言い切る前に通話を落とし、スマホをポケットへしまい込む。
確かにお前か有栖川の二択だけどさ。
逆に考えてもみろ。
俺みたいなモブ陰キャがあの有栖川を呼び捨てなんかに出来るわけなないだろう?
普通に喋っているだけでも賞賛されて然るべきだ。
底辺思考を続けながら歩くこと数分、路地の突き当たりへと辿り着いた。
目の前には寂れた雑居ビルが控えている。
明かりはポツポツとついていて、中に人がいる事が窺える。
「――さて。仕事を始めるとしますかね」
平然としたまま呟いて、入口の扉を蹴破った。
あっさりとひしゃげて吹き飛んだ扉がエントランスの壁へ激突し、ガラス片がキラキラと宙を舞う。
悲鳴はない。
代わりに響いたのは幾つもの乾いた銃声。
人間に命中すれば意図も容易く命を奪う殺意の雨を前に、俺は両手を
僅かな衝撃を手のひらに感じつつも、悠然と中へと侵入し混乱したスーツ姿の男たちへ目を通す。
握っていた両手を開き、数十発の
カラン、と転がる銃弾を前に男たちは呆然とした表情を浮かべる。
「随分と乱暴な挨拶だな。まあ、そんなのじゃ俺は殺せないけど」
「――このっ、クソガキッ!!」
「何やってるッ‼ 撃て! 撃てッ‼」
怒りを露わに拳銃の引鉄を引く男たち。
鳴り響く銃声。
微かな硝煙の臭いが部屋に充満した。
溢れる暴力の気配を全身でヒシヒシと感じながら、弾丸の雨を駆け抜ける。
スローモーションな視界、
無防備な顎を掌底で打ち抜き、脳震盪を起こしたのか握っていた拳銃を床に落とした。
伸びきった腹へ蹴りを入れれば、くの字に身体を折れ曲げたまま横に飛んで壁へ激突する。
「次」
男へ
同士討ちが怖くて拳銃は撃てないと悟ったのか、数人で俺を囲んで襲うつもりらしい。
だが、普通の人がいくら束になったところで俺の相手になりはしない。
なぜなら。
「――『
パチンっと指を鳴らし、自らの異能を解放した。
すると、彼らは一様に床へ膝から崩れ落ち意志とは関係なく俺へ頭を垂れる。
立つことはおろか、身動ぎ一つとしてすることは叶わない。
俺の異能は『
文字通り重力という理を支配する異能力。
「ぐっ……っ、お前、まさか『
「ぐふっ!」
やめろその呼び名は俺に効く。
厨二病全開の呼び名をいい大人がガチトーンで言うと笑うに笑えないよな。
……呼ばれてるの俺なんだけど。
さっさと仕事を終わらせて不貞寝しよう。
八つ当たり気味に強めた重力に耐えられず男たちは全員意識を失った。
悪く思わないでくれ。
エントランスから非常階段を登って上階も同じように制圧していく。
ここからは最上階にいるらしい標的に逃げられないようスピード勝負だ。
余計な手間をかけず、一瞬で意識を刈り取って次の階へ。
そんな工程を何十回と繰り返し、ようやく最上階まで登り詰める。
元々俺の担当は陽動だったのだが、有栖川が来ない以上最後までやるしかないらしい。
これで標的に逃げられていたらと思うと胃が痛む。
警備で立っていた二人の意識を奪い、標的がいる部屋へ繋がる
さて突入という瞬間、
「――っ!」
部屋の中から業火が濁流のごとく押し寄せた。
瞬時に体の周囲を圧縮した重力の膜で覆い、身を守る。
やがて炎が消えて、黒煙漂う部屋の中央で佇む一つの人影。
「――おいおい、だらしねぇな。こんなガキ一人に殺されやがって」
粗野な男の声。
黒煙が晴れて見えた顔は事前に確認していた標的のものと同じだ。
逃げるどころか俺のことを待ち構えていたのか。
運がいいのか悪いのか。
有栖川がいなかったから今まで無事だったものの、これは嬉しい誤算だ。
だけど、一つ訂正することがある。
「おっさん、俺は一人も殺しちゃいないっての。勝手に人を殺人犯にしないでくれないですかね」
「あぁ? 豚箱行きなら似たようなモンだろ」
「その理屈からすると、おっさんもこれから死ぬことになるんですけど」
「――ほざけッ‼」
男は前方……即ち俺へ向けて手のひらを
轟、と空気が焦げ付き、圧倒的な熱量で熱された空気が肌を焼く。
男の異能は『
十二分に強力な異能と呼べるだろう。
この炎だって、人一人を焼き殺すくらいは造作もなくこなせる。
――それが俺でなければの話だけど。
「『
「――っ、ぐ……っ」
部屋を支配する通常の何十倍にも及ぶ重力が文字通り『重さ』となって男にのしかかる。
炎は打ち消され、男は四肢を床へとつけて
立っているのは俺だけだ。
「悪いな、おっさん。アンタも漏れなく豚箱行きだ」
「……っ、その面、白い指輪の重力使い――お前、『異特』の『
「今更気づいても遅い」
「……なん、で、こんな、くそ、がきに……っ!」
「――放火七件。死傷者は三桁にも登り、被害総額は億を優に超えている。全部、お前自身がやったことだ」
俺が羅列したのは男が犯した罪。
こいつは数え切れないほどの人を殺し、世の中を混乱に陥れた異能犯罪者だ。
だから俺が……俺たちがこいつを捕まえるために仕向けられた。
もうお喋りはいいだろう。
「大野炎地、お前の身柄を拘束する。逃げようだなんて思うなよ? その気になればお前くらいは一瞬で地面のシミにしてやれる。お望みなら止めないが」
わざと猶予を作ってやるも、男は反応を示さなかった。
圧倒的な実力差を本能的に感じ取ったのだろう。
何をやっても無駄だとわかっていながら突撃する人はいない。
男に異能絶縁の手錠を嵌めて一件落着だ。
有栖川は最後まで来なかったが……連絡だけは入れておくか。
ささっと仕事を終えた旨をメッセージで送信し、続いて上司へも話をつける。
これで俺の仕事は終わり。
後のことは後詰めの人達に任せて俺は家に帰るとしよう。
俺の本分は学生なのだ。
誰がなんと言おうとも、身に余る力を持っていたとしても。
それは決して、変わらない。
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