第37話『まりあの事情』
まりあ戦記・037
『まりあの事情』
チ!
もう百回は舌打ちした。
レールガンを装着するたびにタイムロスが出る。
一回につき0・2秒から0・8秒のタイムロスだが、十回装着すれば2~8秒のロスになる。
これでは確実にヨミの攻撃に追い越されてまう。
むろんウズメは改造されていて、ヨミのパルス弾を1000発受けても致命傷を受けることはない。
一発の命中弾を受けると、ウズメは一秒ちょっとで衝撃を大気に逃がすので装甲を削られることがなく、いつも完璧な状態でヨミに対することができる。これをリペア機能という。
「でも、百回に一回は複数の命中弾を受けて、ダメージが蓄積されるのよ。で、百回に一回が十三回続くとウズメのリペア機能が低下し、反撃することができなくなってフルボッコされてしまう」
――だからこそのリバースでしょ――
「「リバース!」」
大尉の声と重なったのが癪だけど、まりあは、シートごとウズメの後頭部から射出され、これで七回目のリバースを行った。
アクトスーツはヨミが予測不可能な軌道を描いて飛翔して、その間は確実にヨミの攻撃を引き付ける。その間にウズメはフルリペアを済ませて、まりあの帰還を待つ。
このセパレートアタックを続けていれば、時間はかかるがヨミを倒せる。
「だけど、見てよ、このありさまを!」
ヨミに勝利した後、カルデラの内も外も25%の被害である。
「これを四回繰り返されたら、ベースも首都も壊滅するわよ!」
――だからこその訓練でしょ、タイムロスが無くなれば被害も小さくなる。さ、もう一度最初から――
「もう、おしまい!」
プツンとノイズがして、大尉はまりあと会話できなくなった。
ブチギレたまりあは、ウズメのジェネレーターを切って、シュミレーターを飛び出した。
「まりあがエスケープしたわ、みっちゃん追いかけて!」
大尉に命ぜられて、みっちゃんこと中原少尉はCICを飛び出し、まりあの軌跡をトレースした。
五分後、みっちゃんは第三ブースに入ったところで動けなくなっていた。
――セキュリテイーガ……ス……――
その一言を連絡したところで気絶してしまった。
「知恵がついたわね、ダミーをかましてセキュリテイーを乗っ取ったのね」
「大尉、ベースからマリアの痕跡が消えました」
「行先は分かってる、ちょっと行ってくるわね」
大尉は、指令室のあるフロアーに上って行った。
フロアーに上がって、二つ目の角を曲がると、不機嫌マックスの唸り声が聞こえた。
「卑怯よ、こんな超アナログで足止めするなんて!」
「アナログもデジタルも何でもありなのが、高安みなみさまなのよ」
マリアは畳一畳分はあろうかと思われる巨大粘着マットにギトギトに絡めとられていた。
「ヌーーー! パルス弾の直撃にも耐えられるスーツがああああああ!」
「司令への直訴を諦めて訓練を再開するなら開放したげるわ」
「だあから~、あの訓練は~、え、みなみさん、粘着マット平気なの?」
大尉は涼しい顔で、ゴキブリのように絡めとられたマリアの横に立った。
「それ、アクトスーツの組成にしか反応しないの」
「き、きったねーー!」
「だって、他の人間がかかったらまずいでしょ」
「かくなる上はーーっ!」
マリアは左肩にある緊急脱衣ボタンを押した。まるでバナナの皮がオートで剥けるような感じでスーツに切れ目が走り、脱皮するようにマリアは抜けて行った。
成功!……と思ったら、抜け出たすぐそこで、再び絡めとられてしまった。
「グ、ググ、なんで? スーツ脱いだのにさあ!」
「緊急脱衣したら、十分間は保護機能が働いて、マリアの皮膚をスーツと同じ組成にして保護するのよ。最初に説明したでしょ」
「く、くそ、こんな状態で十分間も~」
スーツを脱いだマリアはカエルのように這いつくばった格好で十分間の我慢である。
「ね、スーツを脱いだあたしって、素っ裸のスッポンポンなんですけど!」
「ま、十分間だけの辛抱だから」
「だ、だってーー!」
廊下の向こうから休憩時間になって持ち場を離れた隊員たちの気配が迫ってくるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます