第27話『まりあ? マリア?』
まりあ戦記・027
『まりあ? マリア?』
これが本当なら どんなにいいだろう
ため息一つついて、まりあはチャンネルを変えた。変えたチャンネルはうるさいだけのバラエティーだったので、それ以上変えることもなくテレビの電源を切った。
さっきの情報番組では「ヨミの攻撃はもう終わった」とコメンテイターが言って、スタジオのゲストたちが賛同していた。
もう二か月以上ヨミの攻撃が無いこと、大気中の二酸化炭素が減少傾向にあること、北極の氷が減っていないことなどを理由にあげていた。
ヨミの出現は、地球温暖化を始めとする環境破壊にあるとする俗説は、今でも人類の20%ほどが信じている。
客観的に温暖化は終わっているのだが、局地的な異常気象や天変地異を取り上げることで「温暖化は進んでいる!」と言い張ってきていた。だが、ここ数年、世界の気候は寒冷化の兆しを見せており、温暖化を言い募るのは苦しくなってきた。
度重なるヨミの出現で環境破壊のエネルギーは消費されてしまったので、温暖化もヨミの出現も終わりを告げたと説明している。
なんとも仮定の上に仮定を重ねた理屈でお目出度い限りだ。
理屈の主題は「我々は間違っていない」ということだけだ。「間違っていない」ことを言い募るために「ヨミ防衛のための軍事費を大幅に削減しろ」という主張までするようになってきた。
さ、ちっとはお勉強するか。
明日から始まる期末テストに向けて、まりあは重い腰を上げる。
リビングから自分の部屋までは、ほんの六歩なのだが。地球の裏側に行くほどに遠く感じる。
「なんで『of』を三つも重ねるかなあ」
すごく文語的で、日本語で言えば二百年は昔の表現の英文にプータレる。
「『af』は熱帯雨林だけど、記号だけ覚えても意味ないじゃん」
地理というのを暗記科目にしていることにムカつく。
「『君死に給うなかれ』……与謝野晶子は大東亜戦争じゃ戦争賛美なんだけどなあ……」
国語の解釈が気に入らない。
学校の授業が嫌いなのか、勉強そのものが嫌なのか、まりあ本人もホトケさまの俺もよく分からない。
「ね、マリア、あたしの代わりに学校行ってくれたりしないかなあ」
洗い物が終わったマリアにポツリと言う。
「あたしは、そういう意味での影武者じゃないんだけど」
背中越しでも分かるジト目で非難するマリア。
「ジョーダンよ、ジョーダン」
仕方なく、大きなため息ついて、まりあは机に向かいなおした。
よく朝は、へんな気配で目が覚めた。
――これって……あたしの気配……?――
服を着る衣擦れの音、リビングへ向かう足音、牛乳を飲む音……そう言ったものがまりあ自身の気配。まりあは夢を見ているのかと思った。
「じゃ、行ってくるから」
まりあの声。
「行ってらっしゃーい」
みなみ大尉の寝ぼけた声。
「!……ちょっと待って!」
ガバッと起きて、爆発頭でまりあはマリアを呼び止めた。
「なんで、ペッペッペ(咥えた髪の毛を吐いている)マリアが学校行くのよさ!?」
「夕べ代わりに行けって言ったでしょ?」
「あ、あれは……」
「フフ、ちょっとした緊急事態でね……」
それだけ言うと、マリアは通学カバンをぶら下げて出て行った。
「フヮ~~~ マリア、朝ごはんお願い」
目覚めたみなみ大尉が、目をこすりながら頼んだ。
「えと……あたしまりあなんだけど」
「え? え?」
事情が呑み込めないみなみ大尉であった……。
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