第25話『俺の三回忌』
まりあ戦記・025
『俺の三回忌』
自分で言うのもなんだけど、今日は俺の三回忌だ。
専光寺の須弥壇の前には鮮明なことだけが取り柄の俺の写真が置かれ、写真を乗せた経机に『釋善実(しゃくぜんじつ)』という法名を書いた半紙がぶら下がっている。過去帳があるんだから、わざわざ法名を晒す必要はないんだけど、まりあのこだわりなので仕方がない。
二年前の俺は、まさか死ぬとは思わなかった。
だから遺影にふさわしい写真がなくて、まりあは手っ取り早く生徒手帳の個人写真を遺影に使った。で、それを更新することなく、四十九日法要と一周忌に使い、今日の三回忌にも使っている。もうホトケサンになってしまったんだからこだわることもないんだけど、せめてディズニーランドで撮った笑顔の写真にしてほしかった。
「ディズニーランドの写真は、お兄ちゃんケンカしたあとで、前歯が一本欠けてるからね」
俺と同じことを言ったみなみ大尉に説明した。
「でも、まじめ写真の方が、まりあの守護霊って感じがするね」
アンドロイドのマリアが軽く言う。軽い言葉なんだけど、俺には響く。
そうなんだよなあ、俺ってまりあの守護霊なんだろう。守護霊らしいことは何もしてやれないけどな。
「じゃ、そろそろ始めるわね」
まりあのクラスメートにして専光寺副住職である釈迦堂観音が、まりあの耳元で囁いた。
さんざめいていた本堂が静かになり、各自が出す数珠のチャラチャラした音がする。
一周忌はまりあとお向かいのオバチャンだけだったが、三回忌の今日は、ちょっと賑やかだ。
法事って、ま、パーティーだから。
まりあの軽いノリに共鳴してくれたというか、言葉の通りに受け取ったまりあの友だちが六人も来てくれ、引率ということで担任の瀬戸内美晴先生まで来てくれている。
あ、そしてベースからみなみ大尉と徳川曹長も。
「それでは、釋善実、俗名舵晋三さま三回忌の法要を務めさせていただきます」
観音(かのん)ちゃんに似た面差しのご住職が開会宣言。
何度聞いてもお経というのは眠くなる。
参列のみんなは、お寺での法事が珍しいのか居眠りするような者はいなかったが、俺は、ついつい記憶が飛んでしまう。
こんなお経を毎日聞かされたら、しまいには二度と目が覚めなくなるんじゃないかと思ってしまう。
そうか、こうやって眠ってしまうことが往生なのかもしれないなあ……。
ふと目が覚めた。
エッ!?
ビックリした。なんと親父が、俺の前で焼香をしている!
親父は仕事最優先の人間で、俺が死んだときも、葬式に十分顔を出しただけだ。四十九日にも一周忌にも現れなかった。いや、ベースにまりあを呼びつけた時でも娘としてのまりあに声を掛けたことも無かった。
ホトケサンである俺はうろたえたが、当のまりあは平然としている。まりあの友だちたちは――だれなんだろう?――という顔だ。
「まりあ、ちょっと」
焼香が終わり、本堂の中は「お斎」と言われる法要後の食事会の準備に入り、長い座卓やらお斎の料理やらが並べられ始めた。
一同が副住職の観音ちゃんの指示でテキパキと動く中、親父はまりあを本堂外の回廊に呼び出した。
さすがに、まりあもムっとした顔になった……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます