第24話『彫刻の森美術館』


まりあ戦記・024

『彫刻の森美術館』     






 ま、まりあ!


 マリアの声でみなみ大尉は目が覚めた。

 よっぴき看病していたので、いつの間にか眠ってしまっていた大尉だった。



「大丈夫、まりあ!?」



 まりあの布団に這いよる大尉はすさまじかった。起き抜けのスッピン顔はむくれて、髪はボサボサ、右目は開いているが、左目は目ヤニでくっついて閉じたままだ。おまけに、慌てていたので、膝で浴衣の前身ごろを踏んづけてつんのめり、意識が戻ったばかりのまりあに覆いかぶさってしまった。

「フギュ~~~~」

 まりあは、意識が戻ったばかりなのに窒息するところだ。

「あ、あ、ごめん」

「ワ、ゾンビ!?」

 まりあに驚かれるので、大尉は顔をゴシゴシこすり、手櫛で髪を整えた。

「あたしよ、あたし。ペッ、ペッペ、髪の毛食べちゃった」

「みなみさん?」

「そうよ、あんたがお風呂でぶっ倒れるから、もう気が気じゃなくってさ。あんた、一時心肺停止になっちゃったのよ」

「わたしが人工呼吸したの」

 そう言いながらマリアはまりあの首元に手を伸ばした。

「え、なに?」

「コネクトスーツを脱がなきゃ、圧迫されたままだから」

「ちょ、ちょ、痛い、痛いってば!」

 まりあはコネクトスーツを着たままで、脱がせようとすると、まるで皮膚をはがされるような痛みが走る。

「バージョンアップしてるから脱がせられないんだ……脱ごうって、念じてみな」

「あ、えと……」

 まりあは念じてみた。すると、スーツのあちこちに切れ目が走り、まりあが体をよじるとハラリとスーツが脱げた。


「司令のタクラミだったのね……」


 落ち着いたまりあから話を聞いて、みなみ大尉は腕を組んだ。

 保養所地下の浴場は秘密基地に繋がっていて、まりあだけが移動できる仕組みになっているようだ。まりあは、そこで舵司令一人のオペでヨミの原始体と戦わされていたということが分かった。

「なんだか重力を感じない異世界というか異次元というか、とにかくヨミが、この世界に現れる前の世界らしくて、数は多いけど、ヨミはあたしが出現したことに狼狽えていて、とてもひ弱だった」

「それで、ヨミはやっつけられたの?」

「相当やっつけた……でも、まだ居る……というか、あそこはヨミを生み出す母体のようなところで、反復して攻撃しないといけないような気がしたわ」

「そう……でも、まりあがこんなになっちゃね……」

 みなみ大尉は口をつぐんだ、未整理のまま口に出してはいけないと感じたのだ。


 保養所を出ると、芦ノ湖を遊覧し、強羅で箱根山の迫力を感じながら温泉卵を三人で食べて彫刻の森美術館に向かった。


「彫刻ってアナログだけど、静かに訴えかけてくるものがあるわね……」

 ハイテクの固まりと言っていいマリアがため息をついた。

「あたしはチンプンカンプンだよ」

 抽象彫刻が多いエリアでみなみ大尉は音を上げる。

「大いなる疑問……これが?」

 まりあが立ち止まったところには、直径一メートルほどの丸い石があった。

「う~ん、なんだか訳わかんなくって縮こまっちゃった感じ?」

 乏しい想像力を駆使して感想を述べる。

「あー、球ってのは、一番体積が小さいものね」

 まりあも納得しかける。

「これって、修理中みたい……ほら、ここに本来の写真がある」

 マリアが示した案内板には、でっかい『?』マークの写真があった。

「ん……クェスチョンマークの下なんだ?」

「パッと見で分かるものがいいなあ」

 三人は具象彫刻のエリアにさしかかった。

「んーーヌードの彫刻って女のひとばっか」

「みんな劣等感感じさせるプロポーションだわね」

「あ、あそこ」

 マリアが指し示したところには、仁王像のような男のブロンズ像があった。


 三人は、そのブロンズのたくましいフォルムにしばし目を奪われた。


 ブロンズの銘板には『TADIKARA』と刻まれていた。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る