まりあ戦記(神々の妄想)
武者走走九郎or大橋むつお
第1話『そんな妹は俺より一つ年上だ』
まりあ戦記(神々の妄想)
001『そんな妹は俺より一つ年上だ』
妹は俺より一歳年上だ。
名前は舵まりあ、都立神楽坂高校の二年生。
兄である俺が言うのもなんだけど、可愛い奴だ。
そこらへんで女子高生を百人ほど集めたら一番か二番に入るくらいの可愛さだ。
百人と言うところがミソだ。この程度の可愛さなら学年で二三人、全校生なら五六人は居る。
渋谷や原宿を歩いていたら掃いて捨てるほど……ではないけど、五分も突っ立っていればお目にかかれる。
身長:165cm 体重:48㎏ 3サイズ:82/54/81
なかなかのスタイルだと思うけど、そのルックスと同じくらいの確率で世の中には存在している女の子だ。
「お兄ちゃん、いよいよだよ!」
ち、近い……けど、仕方ないか。
まりあは、三十センチという至近距離に迫って手を合わせて俺に誓う。兄妹の仲なのにオカシイ……ま、勘弁してやってくれ(;^_^)、あとで理由は言うからな。
えと……まりあの性格を短く言うと、以下のようになる。
反射が早くて言動がいちいち適格なくせに全体がどこか抜けている。オッチョコチョイでどこか残念な少女、でも、そのオッチョコチョイで残念なところが危うくも可愛い……と思ってしまうのは兄妹だからか……あ、シスコンってわけじゃじゃねえからな(^_^;)
「荷物の始末は大家さんに頼んだ。学校から帰ってきたらいっしょに出るからね……あ、お水忘れてる」
まりあは短いスカートを翻して台所に行くとジョウロに水を汲んでベランダに。プランターに水をやって戻ってくると、再び三十センチ。
「じゃ、行ってくるね!」
いつもの挨拶をして通学カバンを抱え、パタパタと玄関へ、瞬間迷ってキョロキョロ。
「よし」
小さく気合いを入れて揃えたローファーに足を伸ばす、履いたと思ったら「あ!」っと思い出して、また上がってきてガスをチェック、窓とベランダの施錠を確認して、まとめた荷物を指さし確認。
「よし!」
また気合いを入れ、少し乱暴にローファーを履きなおしてノブに手を掛ける。
「あ!」
またまた戻ってきて、ズッコケながら台所に入って、一杯の水を汲んで俺の前に置いた。
「よおおし!」
三度目の正直、ローファーの踵を踏みつぶし、ケンケンしながら外に出る。
ガチャン!
玄関の閉まる音。
――あ、おはようございます――
――おはようまりあちゃん――
お向かいさんとのくぐもった挨拶の声。
――オワ! ご、ごめんなさい――
はんぱに履いたローファーをきちんとしようとして足をグネてお向かいさんにしがみ付いたようだ。
――だいじょうぶ、まりあちゃん(^_^;)?――
――アハハハ、大丈夫です。あ、ベランダのプランターお願いしますね――
――うん、うちのといっしょに世話しとくからね――
――ありがと、おばさん、じゃ、行ってきます! あいて!――
――気を付けてね!――
――はい、あははは――
愛想笑いしてビッコの気配が遠のいていった。
そんな妹は俺より一つ年上だ。さっきも言ったよな。
え、意味が分からない?
ええっと……俺は二年前から年を取らない。だから一つ違いの妹にはこの五月に越されてしまった。
そう、俺は二年前に死んだんだ。俺は、いま仏壇の中に居る。
仏壇には線香と決まったものだが、火の用心を考えて妹は水にしている。プランターに水をやるついでだ。
横着なのか合理主義なのか分からん奴だ。
「火の用心だし、水は全ての根源だからね、お線香よりもいいんだよ」
最初に水にした時に、ちょっとムキになった顔で言った。
その前日、教室で弁当を食っていると「まりあ、アロマでも始めた?」と友だちに言われた。
今どきの女子高生は、線香とアロマの区別もつかない。で、その翌朝には水に変えられた。
確かに火の用心だし、神棚とかには水だしな、と、アロマがどうとかは置いておいて納得してやっている。
死んでからは「釋善実(しゃくぜんじつ)」というのが俺の名前なんだけど、この名前は坊さんぐらいしか呼ばない。
まりあは「兄ちゃん」と呼ぶ。ときには「晋三」と呼び捨てにされる。
これは、そんな妹のまりあと、ときどき俺の、長い闘いの物語。
ドタバタとまりあ戦記が始まろうとしている……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます