第10話 ばあさんへ。クラフトをやってみました。



日が変わり、職人は仏壇に手を合わせ、いつもの様に工房で火をおこす。


そしていつもの様に朝食を摂り、いつもの様に鉄を熱し注文されていた分の包丁を制作していく。


昼前には今日の分の作業を終え、昨日採掘してきた鉱石を作業台に乗せた。



「さてと…嬢ちゃんを呼んでくるか。って、そういや嬢ちゃんはどこにいるんだ?」


職人は今更ながら、自称女神とどうやって連絡をとった物かと考える。


『あ、おじいさん。呼びましたですよぅ?』


突然頭に響く間延びした声に、職人は驚き天井を見る。


『すぐそっちに行くので、ちょっと待つですよぅ』


それだけ言うと職人の目の前にキラキラとした光が降って来たかと思うと、ポンっと自称女神が現れる。


「おじいさん、おはようですよぅ。何かあったですよぅ?」


「…そっか、嬢ちゃんは女神さんだったな。いや、いきなりすぎてびっくりした」


職人は目の前の自称女神を、きちんと認めてやろうと今更ながらに思う。



「とりあえず、昨日採ってきた銅鉱で『くらふと』をやろうと思うんだが、手伝ってもらえるか?」


「それくらいなら任せるですよぅ。といっても簡単なんですよぅ?」


そう言うと女神は職人に簡単にやり方を教える。


「…そんな簡単な事でいいのか?」


「クラフトって言うのは、こういうものですよぅ?」


職人はブツブツと言いながら、それでも言われた通りに目の前に並べた4つの銅鉱に手を差し出す。


少しすると差し出した手から火の様な何かが出てくる。


シュワシュワシュワ─────ピカーン


そして一瞬光ったかと思うと、目の前に銅色のインゴットが一本現れる。



「ホー…ほんとに出来るもんだな…」


出来上がったブロンズインゴットを手に取り、職人はしげしげと見る。


「あとは数をこなしてスキルレベルを上げていけば、どんどん作れるものが増えるんですよぅ」


「そのレベルってのが良く分からんが、やり方は分かった。とりあえず数をこなせって事だな?」


職人は再び目の前に4つの銅鉱を並べて手をかざす。


シュワシュワシュワ───────────────キュピーン


なんかさっきより強い光に包まれたと思うと、目の前に2本の銅色のインゴットが現れた。


「な、なんだ!?。なんか二本出来たぞ、おいっ!?」


「おぉ、HQ(ハイクオリティー)なんですよぅ。おじいさん、運がいいですよぅ」


突然言われる意味不明な単語に、職人は首をかしげる。



「えーっと…HQというのは、当たりみたいなものなんですよぅ。運が良かったらクラフトの結果に補正が掛かるんですよぅ」


「ムー…まぁ、当たりって事はいいのか?。倍出来上がるわけだし…」


職人はまた銅鉱を並べると手をかざし、光に包まれる。


今回はHQは発生する事なく、普通に1本出来上がっていた。


職人は自分の手を見ながら「…ふむ」と何かを納得したようにつぶやく。



それから数度クラフトを続けてインゴットがそろそろ10本を超えるかなというところで、職人は突然軽いめまいに襲われる。


「う…なんだ、めまいが。それになんか異様に体が疲れたような…?」


「あー、クラフトのやり過ぎで魔素マナが切れかかってるですよぅ。とりあえず座るか横になるといいですよぅ?」


女神がそう言うので、職人は部屋の畳に大の字で横になる。


「で、さっき言ってた『まな』ってのはなんの事だ?」


「えっと…魔素マナは体の中にある魔力の元なんですよぅ?」


新たに増えた意味の分からない単語に職人はさらに質問を続ける。


「今言った『まりょく』ってのは?」


「魔力は魔法を使う時に使うものですよぅ。体内の魔素マナを魔力に替えて、それを放つのが魔法なんですよぅ」


…うん、さっぱりわからん。


職人は難しい顔をして、まだ大の字のままだ。



「つまり儂は、その『まな』が無くなったから、もう『くらふと』が出来ないという事か?」


「その通りですよぅ。まぁ寝たら大体回復するので、明日またやるといいですよぅ?」


職人がノロノロと体を起こし、目の前に立つ女神を見る。


「ん?。寝れば回復するのか?。それは昼寝程度でもいいって事か?」


「ヒルネ?は良く分からないですけど、あまり短いとあまり回復できないかもですよぅ?。普通に一晩寝たら元に戻るので、あまり気にしないでいいと思いますよぅ」


職人は「面倒くせぇな…」とブツブツ言いながら、何かぼんやりと考えている様だった。


「とにかく、呼んでくれたら気付けるので、何かあったら呼ぶですよぅ?」


そう言うと女神は職人にひらひらと手を振る、キラキラと光が昇ったと思うと、女神が目の前からポンっと消える。


「はー…便利なもんだな…」


忽然と姿を現したり消えたりする女神に感心しながら、職人は再び畳の上で大の字になるのだった。

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