第9話 ばあさんへ。今日は採掘をやりました。
夕方までもぅ少しある時間帯。
職人と自称女神の2人は並んで洞窟を目指す。
途中二匹ほどボアに出会ったので、とりあえず威嚇射撃で追い払っておく。
発砲音というものを知らないらしいボア達は、その音だけで充分効果がある様だった。
「ここですよぅ。中にはちょっとしたモンスターも居るかもなので、気を付けるですよぅ?」
「この世界はどこも落ち付けねぇなぁ…」
職人はブツブツ言いながら、背のリュックから懐中電灯を取り出す。
そしてスイッチを入れ、ぼんやり照らされる足元を見ながら、薄暗い洞窟を進む。
「火もないのに明るいですよぅ。光の魔法でもないみたいだし、不思議なんですよぅ」
懐中電灯を見た事のない自称女神が興味津々だが相手にはせずに、銅鉱があるという場所を目指す。
しばらく進むと、水晶の様な物がむき出しになった壁が見えてきて、自称女神がそこを指さす。
「ここなら色々採れるんですよぅ。でもそれなりにきついので、おじいさんは無理しない様にするですよぅ?」
「おう、わかった。気をつけるよ」
それだけ言って、職人はつるはしを振り下ろす。
つるはしがぶつかった壁からコロコロと拳くらいの石が落ちてくる。
それを手に取ると、うっすら銅の色をしてる…様にも見える。
「あ、それが銅鉱なんですよう。とりあえず何度かやれると思うので頑張るですよぅ」
「ほー、これがねぇ。これが4個ほどあれば、『くらふと』をやれるって訳だよな?」
自称女神が頷き「そうですよぅ」と答えるので、職人はつるはしを何度も振り下ろしていく。
数回振り下ろしたところで、転がってくる石がぴたりと止まった。
「あ、品切れですよぅ」
「はぁっ!?。見た所何も変わってないけど、品切れってなんでぇ?」
自称女神がキョトンとした顔で「そんなものなんですよぅ?」と当然といった感じに言うので、職人はため息をつく。
「んじゃ、他はどこで採れるんだ?」
「んー、しばらくしたら復活するですよぅ?。でも時間がかかるので、この先に行くのをお勧めするですよぅ」
職人が「そんなにすぐに復活するのか!?」と驚くが、自称女神は「そんなものなんですよぅ?」と不思議そうな顔をするだけだった。
しばらく歩くと、目の前に中型犬くらいの大きさの、見た感じネズミが2人の前に現れる。
「あ、ラットなんですよぅ。動きが早いので気を─────」
───────────────ターン
職人はガチョンと薬莢を排出すると、銃を構えたまま倒れたラットに近づく。
眉間を撃ち抜かれたラットは動く様子はない…絶命である。
「大ネズミかぁ…ちなみに、こいつも食えるのか?」
「結構みんな食べるですよぅ。そんなに強くもないので、よく食卓に並ぶんですよぅ」
職人は自称女神の言葉を聞くと、腰から鉈を取り出し血抜きをすると、手近な岩の上に置く。
それからすぐに、また水晶がむき出しになった様な壁が見えてきたので、職人はそこでつるはしを振る。
順調にコロコロと出てくる中に、ひとつ違う色の鉱石が混ざってる事に職人が気付く。
「んー?。なんか色が違うが、これは鉄か?」
「おー、良く分かったですよぅ。これは鉄鉱石なんですよぅ。4つでアイアンインゴットになるですよぅ」
職人は自称女神の言う言葉に、どこか聞き覚えがあるなと頭を捻る。
そしてすぐに、さっき見せてもらったアイアンソードの材料だった事を思い出す。
その後に数度振るとまた品切れになったので、職人は出てきた鉱石をリュックへと入れていく。
あまり気にしていなかったが、転がってる銅鉱の中にそこそこ鉄鉱石が混ざっている事に気付く。
奥に来ると鉄鋼石が取れやすいのかも?、職人はその程度に理解をする。
背負った鉱石がそれなりの重さになったので、今日は戻る事を自称女神に伝える。
戻る途中、仕留めて岩の上に置いていたラットはいつの間にかなくなっていた。
自称女神が言うには、他のモンスターが餌として持って行ったんだろうとの事だった。
代わりとばかりに帰りに出会ったボアを仕留め、今日の獲物とするのだった。
2人が村に戻る頃には陽は沈みかけて、オレンジ色に染まっていた。
今日も台を持って来てボアの解体をしつつ、鍋の用意を進めていく。
そんな雰囲気を感じたのか、近くで遊んでいた子供達が寄ってきた。
少し離れて見る子供をちらちらと見る職人の顔は、とても楽しそうだった。
煮込み始めると職人は子供達に「鍋食いたいヤツは来いって呼んで来てもらえるか?」と頼む。
子供達は目をキラキラさせて大きく頷くと、散り散りに民家へと向って行く。
その間に職人は、使い捨ての椀とスプーンを用意して待つ。
暫くすると子供達が大人を連れてきたので、職人は椀に掬いどんどん振舞っていく。
ちなみに、大人を呼びに行った子供達には、おやつとして買っておいた飴を数個ずつ渡してやる。
飴が分からない子供がいきなり噛もうとしていたので、職人は慌てて止め、「こうやって口の中で転がすように舐めるんだぜ?」と教えてやる。
言われた通り口の中で転がすと一気に広がってきた甘さに、子供達が目を見開いて、鍋そっちのけではしゃぐ。
大人はまた食べれた美味しい鍋に、わいわいと談笑している。
そんな風に喜ぶ村人達を、職人は楽しそうに見ながら、自分に用意したぬる燗をクイッとやるのだった。
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