ビョウキとコウモリの国

 草木もはえないミチの上を、とんがり帽子の三兄弟はあるいています。

 あっちを見ても、こっちを見ても、灰色のミチと、にごった川しか見えません。

 お日さまがのぼって、またおちてくるまであるいても、同じものしかみえません。


 一番大きなお兄さんはつまらなそうにあるいています。

 真ん中のお兄さんはひぃひぃ言いながらあるいています。

 末っ子はコホンコホンとセキをしながらふらふらしています。


 とんがり帽子の三兄弟はずっとあるいています。

 一番大きなお兄さんが、真ん中のお兄さんのてをにぎって、末っ子をおんぶして、ずっとずっとあるいています。


 お日さまがおちて空がくろくなるころ、ようやく休める国につきました。

 けれども、そこにいる人たちはみんなビョウキにかかっていました。

 ずっとセキをしている人、ミチの上でねている人、赤いチがでている人、みんなとってもくるしそうでした。


 一番大きなお兄さんは末っ子がゲンキになるように、おいしいゴハンをもってきました。

 真ん中のお兄さんは末っ子にゲンキになってほしくてじぶんの分のゴハンも末っ子にあげました。

 おいしいものをたくさん食べた末っ子は、つぎのあさにはとってもゲンキになっていました。


 とんがり帽子の三兄弟はお父さんをさがすために、国からでていきます。

 だけど国の出口にいたおじいさんが言いました。


「ここはビョウキのカミサマがいる国、だれもこの国からでられないんじゃ」


 そう言って、おじいさんは大きなおうちの上にいる、大きなコウモリをゆびさしました。

 とんがり帽子の三兄弟はよくわからないまま国をでていきます。


 一番大きなお兄さんはいつものようにあるきます。

 末っ子はミチのヨコにある川をながめながらあるきます。

 けれども真ん中のお兄さんはたおれてしまいました。


 しんぱいした二人は真ん中のお兄さんにさわると、カゼをひいていることに気づきました。

 ふたりはいそいでビョウキの国にもどって、おクスリをもらって、真ん中のお兄さんにのませました。


 しばらく休んで、またつぎのひになりました。

 真ん中のお兄さんのカゼはすっかりよくなりましたが、こんどは一番大きなお兄さんがビョウキになってしまいました。

 なにを食べても口からもどしてしまい、ゴハンをたべられません。


 頭のいい真ん中のお兄さんはかんがえました。

 ここはビョウキのカミサマがいる国、ここにいるかぎりずっとビョウキになってしまうんだと。


 真ん中のお兄さんはおクスリをもらわずに、たくさんの木をあつめることにしました。

 末っ子といっしょにたくさんの木と、ロープをあつめてきました。

 ふたりがいっしょうけんめいに木をまとめてロープでしばると、そこには小さなイカダがありました。


 真ん中のお兄さんと末っ子は、イカダと一番大きなお兄さんを川まではこびました。

 とんがり帽子の三兄弟はイカダにのって、ゆっくりゆっくり川をくだっていきます。


 しばらくながれていると、末っ子がたおれてしまいました。

 一番大きなお兄さんがもどろうといいますが、真ん中のお兄さんはそれでも川をくだっていきます。


 げぇげぇと、一番大きなお兄さんが口からなにかをもどしています。

 ぜぇぜぇと、末っ子はカゼにかかってしまいます。

 ふらふらと、真ん中のお兄さんもたおれてしまいそうです。

 それでもイカダは川をずっとながれつづけています。


 バッサバッサと大きな音がきこえてきました。

 空を見ると、そこにはビョウキの国にいた大きなコウモリと、たくさんの小さなコウモリが追ってきていました。

 どうやらビョウキの国につれもどそうとしているようです。


 一番大きくて一番つよいお兄さんはまだ立てません。

 一番小さくて一番むじゃきな末っ子もにげられません。

 一番おくびょうだけど、一番頭のいい真ん中のお兄さんはかんがえました。


 真ん中のお兄さんは末っ子からクビからぶらさげているオカリナをかりました。

 つぎにイカダのロープを少しつかって、じぶんのタテとオカリナをあわせました。

 さいごに、イカダのロープをはんぶんつかって、タテをロープをつなげました。


 真ん中のお兄さんがロープをふりまわすと、それといっしょにタテもぐるぐるとまわりました。

 するとどうでしょう、タテといっしょになっているオカリナからフシギな音がしてきました。


 コウモリたちは目がよくないので、音をきいてとんでいます。

 だけどタテとオカリナをふりまわしているせいで音がわからなくなってしまいました。


 ビョウキの国のカミサマである大きなコウモリはオカリナをこわそうとします。

 だけどタテがあるせいでオカリナをこわすことができません。


 そのままイカダで川をくだっていると、川のちかくに草や木を見かけるようになりました。

 どうやらもうすぐでビョウキの国から出られそうです。


 大きなコウモリはオカリナをこわせないので、真ん中のお兄さんをおそうことにしました。

 いまタテをふりまわすのをやめてしまったら、兄弟はつれさられてしまいます。

 真ん中のお兄さんはユウキをだして、イタイのをがまんしようと目をつぶります。


 ジャキン、ジャキン。


 兄弟をまもるように、一番大きくて、一番つよいお兄さんが大きなコウモリにたちふさがり、大きなハサミをならします。

 ビョウキの国からはなれたおかげで、ゲンキいっぱいです。


 つよそうなお兄さんを見て、大きなコウモリと小さなコウモリはビョウキの国へとにげていきました。

 もしも羽をきられてしまったら、もうとぶことができなくなるからです。


 ビョウキの国からにげることができた一番大きなお兄さんと、真ん中のお兄さんはようやくひとやすみできました。

 末っ子だけは、ずっとぐっすりねています。


 とんがり帽子の三兄弟は、川のながれにゆられながら、イカダの上でねむることにしました。

 とんがり帽子の三兄弟は、お父さんをさがすために、今日も川をくだります。

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