~短編冒険集~ とんがり帽子の三兄弟

@gulu

神さまにすてられた島

 大きいけれど、そこまで大きくない島。

 木やどうぶつたちがいっぱいの島に、ぶかっこうな船がやってきました。

 船からハシゴがかけられて、たくさんのこわそうな大人が島に入ってきました。


「さあ、今日こそ願いを叶える魔法を手に入れるのだ!」


 こわそうな大人の中でいちばんえらそうな人が大声をあげると、みんないっせいに島の奥へと向かいました。


 そして船からさいごに三人の兄弟がおりてきました。

 一番大きなお兄さんはお父さんが置いていった大きなハサミをかついでいます。

 二番目の大きなお兄さんはお父さんが忘れていった大きな盾をもっています。

 末っ子はお父さんがくれたオカリナをくびからぶら下げています。


「お前たちも早く向かえ!」


 いちばんえらそうな人に言われて、一番目のお兄さんと二番目お兄さんは進もうとします。

 だけど末っ子はトテトテとちがう道を歩きます。

 どうしたのかと思ってお兄さんたちはそのあとをおいました。

 そこにはたくさんのケガをしたこわそうな大人たちがいました。

 末っ子はケガをした大人たちがいたくないよう、ひとりずつなでていきました。

 うしろでえらそうな人が何か叫んでいましたが、三兄弟は気にせずそのまま歩きました。


 道がみえないくらい森の中をすすむと、ユーレイたちが出てきました。

 一番つよいお兄さんはハサミをかまえます。

 一番あたまのいいお兄さんは盾で末っ子を守ろうとします。

 だけど末っ子はてくてくとユーレイの前まであるいて、祈りました。

 それを見た大きなお兄さんと中くらいのお兄さんも、末っ子と同じように祈ります。


「や、やめろ…おれたちは祈られるようなものじゃない…!」


 じぶんたちがやったワルイことを思い出したのか、ユーレイたちはくるしそうな声をあげます。

 それでもとんがり帽子の三兄弟は祈ることをやめませんでした。


「すまない…すまない……おれたちのために、ここまでしてくれて…」


 ユーレイたちはあやまりながら、空へときえていきました。

 三兄弟はさらにさらに歩いていきます。


 そして末っ子は大きなトビラがついたどうくつを見つけました。

 トビラを開けると道にいっぱいの大きくてこわいトカゲと、小さなタマゴがたくさんありました。

 三兄弟が道をすすもうとすると、タマゴをまもっているトカゲたちがこわい声でおどろかそうとしてきました。

 このままじゃすすめないと三兄弟はいちど外に出ました。


 とおくには三兄弟がのってきた船が見えました。

 どうやらおいていかれたようです。

 だけど一番大きなお兄さんも、真ん中のお兄さんも、末っ子も、それを気にしていませんでした。

 だってみんな願いを叶えるためにここまできたのだから。


 くらくなった外で、三兄弟はたき火をかこんでいました。

 そして末っ子はお父さんがくれたオカリナと、お母さんがおしえてくれた曲をふきました。

 なつかしい曲を一番大きなお兄さんと真ん中のお兄さんがたのしんでいると、ウサギやタヌキのような森の動物たちもやってきました。

 その中には、大きくてこわいトカゲもいました。

 それもそうでしょう、この島では今まで音を楽しむなんてことなかったのですから。


 末っ子はオカリナを吹きながら歩きだし、一番上のお兄さんと真ん中のお兄さんもいっしょに歩きます。

 そしてさっき見つけたトビラを開き、道をすすみます。

 森の動物たちも、トカゲたちも、だれも三兄弟をジャマしませんでした。


 そのまますすんでいくと、三兄弟は大きなかいだんを見つけました。

 一番大きなお兄さんはノッシノッシとのぼっていきます。

 真ん中のお兄さんはスタスタとのぼっていきます。

 末っ子はお兄さんたちと一緒に手をつないで、後ろからついてきたウサギといっしょに、ヨイショヨイショとのぼっていきました。


 しばらくすると、大きな庭のようなところにつきました。

 そこには大きなテーブルについて、手招きしている三兄弟のお父さんがいました。

 とんがり帽子の三兄弟は、これでまた家族みんなでくらせると喜びました。

 末っ子はお父さんにだっこしてもらい、お兄さんたちはそれを笑顔でながめていました。

 幸せそうな家族を見て、後ろからついてきたウサギもうれしそうでした。


 ぐぅ~。


 お父さんは張り切りすぎたのか、お腹が空いたようです。

 三兄弟はアハハと笑い、お父さんはてれながら笑いました。

 お兄さんたちは外から食べ物をもってこようとします。


 ぱくぱく、もぐもぐ。


 なんてことでしょう、お腹が空いたお父さんはウサギを食べてしまいました。

 怖くなった三人はいっしょうけんめいに走りました。


 どたどた、ぱたぱた。


 うしろからお父さんの呼び声がきこえるけど、ふりかえらずにどんどん走ります。


 むしゃむしゃ、どすどす。


 トカゲのとおりみち、三兄弟を追いかけながら、お父さんはトカゲとタマゴを食べています。

 あれは本当にお父さんなのでしょうか?


 走って、走って、走りつづけて、三兄弟はガケの上まできてしまいました。

 もうにげられません。

 いちばん上のお兄さんは、弟たちを守るために前に出ます。

 にばんめのお兄さんは、末っ子を守るようにだきかかえています。


 お父さんはどうしてにげたのかとおこっています。

 そのカオは、とてもとてもおそろしいものでした。


 だけど、末っ子はそのカオを見てもおどろいていませんでした。

 そのかわりに、ひとつだけお父さんにきいてみたいことがありました。


「おとうさん、おとうさん。ぼくのナマエは、なんですか?」


 お父さんは、そんなことすぐにこたえられると言いました。

 けれども、どれだけ考えても末っ子のナマエが出てきませんでした。

 それもそうです、末っ子にはナマエがありませんでした。

 ナマエをつけてもらう前に、お父さんがいなくなったからです。


 どれだけ考えてもナマエが分からないお父さんは言いました。


「もしかして、わたしはお父さんじゃないのかもしれない」


 そうしてこわいカオのお父さんはきえていってしまいました。

 じぶんが三兄弟のお父さんではないことをみとめてしまったからです。

 三兄弟のネガイからうまれたお父さんは、三人がしってることしかしりません。

 だれも末っ子のナマエをしらないから、だれにもこたえられないのです。


 末っ子はおちこみました。

 これでまたじぶんのナマエがわからなくなってしまったからです。

 ふたりのお兄さんは末っ子をなぐさめてあげます。


 そのとき、大きなじしんがおきました。

 地面がぐらぐらゆれて、みんないっしょに海へとおちてしまいました。

 海にプカプカうかんでいると、島がドンドンと大きくなっていきました。


「おぉ…小さきものたちよ、おまえたちがワシのずつうのタネをとってくれたのか?」


 なんと、大きな島はとっても大きな石のヒトでした。


 大きな石のヒトは大きなカオをちかづけて、島からおちてきた木につかまっている三人におれいをいいます。


「ありがとう、これでまた歩けるよ。おれいにこれをあげよう」


 そう言って大きな石のヒトは小さなタネを末っ子にあげました。

 大きな石のヒトは海をおよぎ、三兄弟はそのまま大きな石のヒトがみえなくなるまで見つめていました。

 末っ子はそのすがたをずっと見ていたせいで、うっかり小さなタネを海におとしてしまいました。


 末っ子はタネをおとしてかなしい気もちになりました。

 けれども、海におちた小さなタネはグングン大きくなり、とっても大きなハシになったのです。

 お兄さんたちはビックリしてしまいましたが、末っ子は両手をあげてよろこびました。


 それから三兄弟ははしの上を歩いています。

 一番大きなお兄さんは弟たちを見るために一番後ろを歩いています。

 真ん中のお兄さんは末っ子が海におちないように見ながら歩いています。

 そして末っ子はお父さんがのこしたオカリナを吹いて、一番前を歩いています。


 とんがり帽子の三兄弟は、お父さんをさがすために、今日もどこかを歩いています。

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