*
「辻が大学デビュー!?うわぁ。ちょっと想像できない!」
電話の向こうの七海の声が、ひとまわり大きくなる。
「樹里、久々の再会に舞い上がって脚色してない?」
「してない、してない。あくまでも見た目の話だよ。服とか髪型とか、中学の頃の面影が無かったの!垢抜けたというか…。」
たしかに七海の言う通り美味しい焼酎をちょっと飲みすぎたせいで無意識に脚色してしまっているのかもしれない。実際辻と話してみれば、そう中学の頃と変わらず昨夜は昔話でひたすら盛り上がった。
だけど時々見せる、ふとした仕草に心を揺さぶられて仕方がなかった。辻と別れてからずっと心を靄が取り巻いてどうしようもないのだ。それがどうしても一人で抱えきれなくて思わず七海に電話をかけた。
実際、辻の印象を口にしてみた所で七海に対する照れもあってか稚拙な表現しかできず私は一層モヤモヤしていた。たしかに七海の言う通り、昨夜の素敵な辻はお酒が見せてくれた幻想だったのかもしれない。
「まぁ都会で大学生やってるんだもの、ガリ勉の辻でも多少は垢抜けるよね。彼女とかいるのかなぁ?」
七海が言った。私は昨夜の急に歯切れの悪くなった辻の様子を思い出した。
「彼女ね!1年くらい前までは居たみたいだよ。同じ大学の子だって言ってた。もっと論文書く時間が欲しいからって、振られちゃったんだって。」
「えー、そんな振られ方があるのか。すごいね。」
辻がすぐに話題を変えたせいで彼女の事はそれしか聞けなかった。だからこそ一体どんな付き合いをしていたのだろうかと余計に想像を掻き立てていた。
「ねぇ、どんな子と付き合ってたのか興味ない?」
私は勇気を出し、直球を投げる。
「興味ないけどさぁ。」
七海が、ククク、とからかうように笑った。
「デートするより論文書く時間の方が大事なんだから、真面目なガリ勉女子じゃない?リケジョとか?」
「そう、リケジョ。私もそんな気がするんだぁ。もう昨日から妄想が止まらなくて…。」
「あそこの大学、二浪三浪当たり前じゃん?年上かもねぇ。」
七海の具体的で的を得たイメージに、私の頬は熱くなった。年上彼女と寄り添う辻の姿は容易に想像できる。辻に大人の雰囲気を植えつけた元彼女は経験豊富な年上だったのかもしれない。
「樹里の新しいバイト先、辻の大学のすぐ近くなんでしょ?これからいつでも誘えるじゃん。」
ふふふ、と七海が笑う。
「まあね。論文書くのに忙しいって断られなきゃいいけどね。」
私も笑った。
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