エピローグ。

「長い夢の後のようだった。あの後はホントによく眠った」


長話を終えてジークはひと息吐く。

側のテーブルの上に置いてあったおいしい茶を呷り、満足したかもう一度息を吐いた。


「話すとあっという間だが、実際はもっと長い。不思議なもんだよ」


一人用のソファに座り直して、思い返すように目を閉じる。


「はぁ……胸の奥にあるものを全部吐き出した気分だ。言ってみて良かった。やっぱり溜め込むより、こうして他人に話してみるのはいいな」


同じようにソファに座る相手に向けて呟く。

非常に良い聞き手ある。特に割り込むことなく黙って聞いててくれたのだ。


「いや〜君がそんなに聞き上手だったなんて知らなかったわ。これもらしさなのかな?」


ちょっとした出会いから最近親しくなったばかりの相手だが、どこか通じるものを感じて、休暇の日にこうして茶をしつつ話をしに来ていた。


「それにしてもあの後もホント大変でな。いざ魔王にダンジョンの最下層を任せることにしたけど反対意見が半端なくてさぁ。ダンジョンの入り口がある村は、師匠を説得してなんとかなったけど、アイリスを筆頭に女性陣が猛反対。最初は全然聞く耳を持てくれなくて、王族の姫さんまで反対側に回った時はさすがに参ったぁ」


当時のことを思い出し苦笑する。最初は入り口も一つしかなかった為、それから二〜三年はダンジョンを挑む猛者たちが村に集まって来て、ちょっとしたお祭り騒ぎになったほどだ。……面倒だったが、管理を手抜きすれば周囲から何を言われるか分かったものではないから、数年はジークも真剣に仕事したのだ。


「懐かしく感じるよ。村の人口も増加してあの頃は毎日が新鮮だった」


血生臭いことも増えて多少迷惑をかけてしまったが、村も大きくなり、やがて聖国でも有名な街の一つとなっていた。……嵌められて危うく領主にされそうになったが、それももう懐かしい思い出に数えても良いと感じた。


「最終的に国王陛下が認めて入り口も増やしたから安定したが、入り口が一つであのままお祭り騒ぎが続いたら、さすがに維持するのも難しかった。魔王の奴も最下層に近いいくつかのフロアを勝手に魔改造したから、しばらくして女性陣にバレて問題が大きくなっ────て……あれ?」


そこまで言ったところで、ふと相手の方を見る。

なんだか途中から反応に違和感もあったが、視線を向けたのは無意識だった。


「…………」

「……は?」


そしてふと思い返す。

長話だったと言ったが、それも二時間以上。ジークは話すことで夢中で時間を忘れてしまっていたが、普通に考えれば長過ぎる。飽きられてもおかしくないし、途中で休憩を挟むかと言われてもおかしくなかった。


だからおかしいのだ。

既に何時間も経過しているにも関わらず、聞き手の彼は無言のまま一言も問いかけてこなかったから。


その理由がになっている彼を見れば、考える必要もないくらい一目瞭然だった。


「……」


───ゾクッ


「──ンンッ!? ふぇッ!? ケホケホッ!? な、なななんだなんだ!? え、え? ……ジークさん?」


「ん? どうかしたか? そんなに慌てて?」

「…………なんで、そんな殺気飛ばしてるんですか?」

「……自分の胸に聞いてみなさい────


思わず剣呑な声音を漏らしてしまったが、手の方が出なかっただけマシだったと感謝してほしい。現に拳に魔力が込められたが、ビクッと反応されたことで引っ込めていた。……反応がなかった場合は…………ノーコメントとしよう。


「う、うう……」


目覚めたばかりでまぶたをパチパチさせている───いずみれいにジークは、浮かべていた笑みが消えて、次第にジトーとした目で彼を睨んでいた。


ジークと同じ奇妙な運命を背負った苦労人。

ちょっとした出会いから対決したこともある別世界の異能使いだった。



◇◇◇



そして場所は別次元の世界へ。

ちょっとした縁から知り合いとなった零の下に訪れたジークだったが……。


「で? いつから寝てたのかな?」

「うっ、あ、あ〜え……と?」

「と、じゃないよね? え、なにマジで? いったいどこから寝てた? マジでどこまで覚えてる? 怒らないから正直に言ってごらん?」



「ん、んー…………学園で良く寝てる?」



「ほとんど最初じゃねぇーか! え、嘘でしょう!? ガチで何年も掛かったのに全話すっ飛ばされた!? つまらないにしてもそれはっ…………しょうがないのか?」

「途中からあんたの本音か、アレの本音か分からなくなったな。いや、ホントごめん」


なんとも言えない苦笑顔で零は改めて謝罪する。

話が長過ぎてうっかり寝てしまったが、それでも一旦止めたり質問して、眠気を紛らわすなりすればよかった。


「いや、長々と話していた俺も悪いとは思うけど、眠いなら言ってくれよぉー」

「せっかく来てくれたし頑張って聞こうとしたんだけど……やっぱラブコメ系の妹、義妹、シスコン、従妹とかなら喜んで聞くんだが……」




「ジャンルぽく言っているけど全部妹だよな? スッゴい真剣な顔で何言ってんの?」

「妹持ちの兄は全員妹が好きなんですよ。妹ラブ! 妹フィーバー! 妹フォーエバー!! なんですッ!」




「……そんなもんか」


今度は呆れた顔で零を見つめるジーク。

生憎兄弟がいないため分からない思考だと、そんなものかと済ませたが、他の兄弟持ちが聞けば絶対におかしいのは零だと異議を申し立てただろう。


……残念ながらこの場には彼ら以外誰もいないので、ボケも虚しく流されてしまったが。


「にしても平気なんですか? 貴方ほどの人がこっち来て。世界に与える影響がデカ過ぎて危険じゃありませんでしたけ?」

「ああ、大丈夫大丈夫。分身の魂を通して肉体化してるから。本体だと流石に神の魔力が影響して危険だけど、こうして分身を通せばある程度は問題ない。……って言ったけ? そのこと?」


制限はあるが、と付け加えようとしたが、そこで説明したかとふと首を傾げる。

分身を通して零とは何度か会っていたが、記憶が正しければ神の魔力の影響について、あまり話した覚えがなかった。

専門分野が全然違うと思って説明もほぼ省略していたが、どこかで口にしたかと記憶を探っていたが……そうではなかった。


「いや、じんから聞きましたよ? 前に彼の世界で暴走して大怪獣レベルになって」

「あー……ああ、か。そういえば会ったんだったなぁ」

「騒ぎの最中だったんで、会話自体は少なかったですけどね」


零の言葉に納得顔で頷くと、そういえばそういう報告があったなと思い返す。


「助太刀は感謝するよ。あの時はこっちも出せる人員が限られてて、どうしようかと困ってたからな」

「いや、こっちも事故みたいなもんだし。返って引っ掻き回さずに済んで良かったです」


仮でもなんでもない。ジークの正式な弟子の彼だ。

彼の世界で暴れていた次元を歪ませる魔物との対峙。それが影響して別々の世界が一時的に繋がり彼らは出会った。


「変わった子だと思いましたが、ジークさんの弟子だと知って納得しました」

「一体何を見て納得したか訊きたいところだが……そうか」


結果的に騒動も解決して世界の繋がりも無事に閉じたが、今の弟子であればまた次元を超えて会うことも可能だろうとジークは頷いた。


「でも凄い驚きましたよ。ジークさんの弟子がいる世界に迷い込むことになるとは思わなかったんで」

「君と同じ、ちょっとした縁があってな。最近まで俺が用意したダンジョンで修業しててな。魔王も喜んでたわ。最高オモシロイの逸材が来たって」


ニヤリ顔の魔王を見た際、少々やってしまったかと思うところもあったが、結果として彼から見ても面白い成長を遂げた弟子が誕生したのだ。


「やり過ぎた感は否めないけどな」


魔法の才能がない所為で家族や幼馴染、友人たちから距離を置かれ何も信じられなくなっていた少年。


「けど、後悔はしてない。俺もアイツも」

「それは、なんとなく分かります」


そんな彼をジークは否定せず、彼のまま彼を受け入れた。

そして、彼は彼の世界で少々目立ってしまっているようだが、ノゾキ眼神の特権でジークは今後も弟子の勇姿を見ていきたいと考えている。……女性陣にバレたらえらい目に遭わされそうだが……。


「その内また面白いことになるさ。なにせ俺の弟子だからな」

「へぇ、それは興味がありますね。俺も共闘して挑みましたが、彼ってホント普通じゃないですよね? たぶん普通の魔法使いと比べても」

「それも含めて俺の弟子だよ。魔法使いにとって茨の道でもアイツはそれを選んだのさ」


そう言って今度は弟子の話へと移り出す。

すっかり眠気も晴れた零も拒否せず聞き手に回っていた。



「せっかくだから教えてやるよ。アイツ────ジンのことを」



寧ろ興味深そうにして語られるジークの弟子────龍崎りゅうざきじんの物語に耳を傾けていた。




【オリジナルマスター】────本編(完)

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