第4話 最強にして最古の六王と魔王幹部たちとの死闘。
王の中で唯一の最高ランク【十三星】──《最上魔神級》の《幻王》。
最古の王にして六王最強の王だ。
その姿は人型の巨人。全身が岩のように見える皮膚だが、体はこの世界の最硬『
特性でもある【滅】は“消滅”、“全滅”、“絶滅”など類する滅びの光を放ち。さらに相反するチカラである“不滅”の特性も持っており、彼を不死身に近い不滅の存在へと変えていた。
【……】
暴れる姿から『魔人』と呼ばれた《幻王》。
《魔王》の指示で帝都内に侵入した者を仕留めようと動き出そうとしている。ジークたちが動き出すまでは、帝都に配置されていた神殿の中に身を潜めていた。
「見つけた」
が、神殿を出ようとしたところで視界が暗転。
気付けば知らない建物があったようだが、既に更地となった人一人もいない場所に《幻王》は立っていた。
一体どこなのか場所は分からないが、間違いなく北の大陸ではないと察した。
【……】
移動させられた。
知性もある《幻王》はすぐに理解してさっきの声の主を探そうとした。
「なぁ《無双》、君ってさランクどこまでのヤツとやったことある? ちなみにオレは【十二星】。果ての谷で《鳥王》とやりあった時だ」
「【十二星】《獣王》だな。あの暴獣が我が国の領内付近で暴れたことがあった。追い払いはしたが、倒せなかった」
「オレは翼を斬るだけで精一杯だったよ。そのあと丸焼けにされかけたが」
対するように待ち構えていた最強戦力の二人。
《
《無双》アヤメ・サクラ。
それぞれ翼と剣を構えて身の丈の十倍以上はある巨人を見上げた。
「同じ六王でもこんなに違うのか……」
「呑まれたそこで終わりだ。油断するな」
二人の超越者が最強の魔人に対峙する。
王の中でも最強の魔人を抑えるには、ジークを除けば人類の中でも最強レベルの二人でなければならない。ここに移動させた分身体のジークが参戦できないのには理由があるが、《幻王》を弱らせればいつでも正気に戻す準備をして霊体状態で控えていた。
【……!】
「来るぞ!」
「分かっている!」
そして《幻王》が動く。
【滅】のチカラが込められた光が手のひらに集まる。ギルドレットとアヤメ、そして隠れているジークの気配も感じ取って、すべてを滅ぼすチカラを解き放つ。
ギルドレットもアヤメも己の役割を果たすため、最強の魔人に挑み掛かった。
◇◇◇
廃墟となった数多くの建物の中で二人の剣士は戦う。
「シィッ!」
「早いね!」
お互いに光速の剣技が披露されている。
トオルとシルベルトの剣が止まることなく振るわれ、相手を斬り裂こうと迫っていた。
剣を振るうトオルの刃を逸らしてシルベルトの刃が滑るように迫り。
シルベルトの刃を躱したトオルの刃が鋭く伸びて喉を斬り裂こうとする。
ガキンッと剣撃を打ち合う。
火花が散りそれが連続して噴き起こると再び光速の剣戟戦が始まる。
「すばっこい!」
「それはこっちのセリフだよ!」
しかし、二人の剣技の速度ではほぼ同じ領域にいた。
鋭く斬ることに特化剣技を扱うトオル。
流動的な柔の剣技を扱うシルベルト。
両者の技量もほぼ互角。
勝敗を分けるのは力量と駆け引きだった。
「せっ!」
『三式・
「はっ!」
滑らせるように太刀を受け流されても、そこから片方の剣で『五式・
「っ……!」
連続の剣技に左右の剣を器用に振るい『
「『
飛ばされた体勢を戻したシルベルトが剣舞の属性付与の魔法を発動。
左右の剣で白の聖剣に光を、黒の魔剣には闇属性を付与させてトオルめがけて駆け出す。
「今度はこっちの番だよ!」
身体強化も上げたか、一気に間合いに入ると二属性の混合・融合剣技の構えを取った。
『
《天魔》のシルベルトが編み出した魔法剣技がトオルを襲う。
「ッ!?」
思わぬ現象を目にしたことで息を呑むトオルの前で、彼が振るうと二刀から残像のように刃が分裂する。
白と黒の二本を光速で縦横無尽に振るうことで、一瞬にして百、否……千に届く程の刃が増えてトオルへと迫った。
「はぁぁああああーー!!」
迎え撃つようにトオルは妖気を解放して『裏三式・
そして無数の斬撃同士が直撃する
激しい斬撃音と土煙が立ち込めて二人の姿を隠すが、互いの斬撃は止まらず敵の放つ斬撃を直感で感じ取っていた
「「──ッ!!」」
突っ込んだのもほぼ同時。
土煙で見えない中、剣のみがぶつかり合う。
風属性と妖気を纏ったトオルの刃を逸らすと、黒の魔剣で突きを繰り出すシルベルト。咄嗟にトオルは後方に退がろうとしたが、突きが飛んで刃が分裂し五枚の刃となって彼を突き刺そうとした。
「アハハハ!」
「この野郎ォォ!」
土属性と妖気を纏ったトオルの刃の腹でシルベルトの飛ぶ突きの刃を防ぐ。そこから横薙ぎで斬圧を振るうが、白の聖剣から無数の刃が円を描き盾のようにして剣撃を防いだ。
(ムカつくくらい反応がいいなオイ!?)
駆けたトオルが距離を詰めようとするが、シルベルトは魔剣を軽く振るって四枚の刃を扇状に広げる。
「ちっ!」
そして出現した四枚の刃を四方へ放つ。
見えない中でも刃の気配を感じるトオルだが、駆けるその足を止めることはない。刃が瓦礫などで軌道が代わりそのすべてが彼を狙うように迫っているも把握していたが、彼は止まろうとしない。
「甘いわっ!」
ガキッ、ガキッ、ガキッ、ガキッ!
駆けたまま放っている妖気のみですべての刃を弾くと、二刀を振るってシルベルトに一気に接近。土煙が晴れると再び至近距離で睨み合う。
──斬、斬、斬!!
そこから何度も剣戟が繰り広げられる。
相手の剣を断とうと魔力と妖気が込めて豪剣同士が、鼓膜も破れんばかりの剣激音と共に激突。
「ハハハッ! 面白い! 面白いよ《剣導》君! こんなにも均衡し合った戦いは久しぶりだよ!」
「オレは面白くないがなっ! この曲芸剣士が!」
聖剣と魔剣の柄同士を合わせてはめ込む。シルベルトが持つ二本の剣が繋がった双刃の長物へとなった。
「こっちはチンタラしてる暇はないんだ! ここからは全力でいくぞ!!」
重い鎧を脱ぐようにトオルは上を脱いで刺青が剥き出しになる。妖気を放出させると姿を型取り武者の幻影を見せていた。
二人の剣士は攻防はまだまだ続く。
既に離れているが、遠目から登り立つ火柱と氷の柱が見る限り、そちらの戦いもまだまだ加速しているようだった。
◇◇◇
「……」
氷結魔法がガーデニアンを封じる。容赦なく氷漬けにして閉じ込めた。
帝都の学園かトオルと離れて、サナは杖を構えて巨大な運動場に居る。側に学び舎らしき廃墟が見える中、氷の柱に閉じ込めた元教師を見つめると……。
(来る……!)
急激に跳ね上がった魔力を察知して、サナは見つめる目に警戒の色が強まる。
すると氷柱を破壊して火柱が噴き出す。
天高く昇って滝のようにサナ目がけて落ちてくる。だが、彼女は回避しようとせず杖を前に出して魔力を流した。
(火柱……けど、何か魔力が)
降ってくる炎の滝をサナは魔力操作で横に逸らす。……が、何か疑問を感じたか川のように流れていく炎を一瞥。破壊されて噴き出した火柱から出てきたガーデニアンに意識を向けた。
「うむ、なかなかの魔力操作だ。噂では《魔女》の下で付いたと耳にしたが、その成果かのぉ? 氷結魔法も昔と比較にならん腕前になった」
「お褒めにあずかり光栄です先生」
「……まだわしのことを先生と呼ぶのか? 重罪犯じゃよ?」
「関係ありません。私にとって先生は先生ですか──ら!」
疑問はあるが、それも戦いの中で見極めればいい。
言うと持つ杖の真下に突き刺す。
と、無数の氷の柱がガーデニアンを囲うように地面から出現。
あっという間に取り囲んでしまうと柱一つ一つから砲弾が撃ち出された。
「なるほど遠隔撃てる魔法の球か」
ガーデニアンも持っている大きい木の杖で地面を突く。
軽くトントンと叩くと地面に魔法陣が展開される。土系統の褐色に輝いてサナが放った砲弾を包む。
「“落ちろ”」
砲弾が方陣の空間内に入った瞬間、一斉に地面へ落ちる。
土系統の特性である加重効果だろう。さらに円が広がって囲っている氷の柱を崩してみせた。
(土系統の魔法を魔道具の杖に仕込んである魔法陣を利用して短縮展開。最小限の魔力で私の魔法を防いだ)
観察の目で何をしたか見極めるサナ。
最初に感じた妙な魔力は感じなかったが、少量の魔力で攻撃魔法を防いでみせる。その技量と手際の良さにはやはり尊敬の目で見てしまう。
「“縛れ”」
包囲網を完全に破る。と、魔法陣が解いたガーデニアンが杖の先をサナに向けて一言。『詠み唄』での詠唱を唱えた。
「……っ」
サナの真下の地中から蔓が出てくる。
最初のとは違う、感じたことのない属性魔力からサナは派生属性だと理解。足首を縛った蔓を氷結魔法で氷漬けにしたが……。
「甘いのぉ……“溶かせ”」
『詠み唄』の詠唱でまた感じたことのない属性魔力が漏れる。
ブワッ湯気が吹き上がると蔓を凍らした氷から異様な程の高熱が出る。時間も掛からず湯気となって一瞬で溶けてしまった。
「氷が……」
不思議なことに絡まれている足首に火傷などがない。熱も一瞬で冷めて蔓だけが残っている状態。最初の感じた魔力と同じだった。
「“吸い取れ”、“咲け”」
一時的に操作を切っていた蔓へ詠唱。サナの魔力が縛られている蔓を通して吸い取れていく。逃れようと剥ぎ取ろうとしたが、さらに伸びた蔓が腕に絡み花が咲いた。
「っ、氷よ!」
サナも負けじと属性魔力の氷で一気に凍らせようとするが、そこまでまた湯気が発生。
凍りつこうとした端から湯気となって消失してしまう。
(また蒸発した。でも火系統じゃない先生から火属性の魔力を感じない。私も知らない属性が流れているだけ)
魔力を吸う蔓に魔力が流れる花。
それに氷を溶かしてしまう謎の属性魔力。特にこれは一番の疑問である。氷結系を極めているサナにとって一番の不可思議な現象だった。
(最初の火柱からも火属性の魔力を感じなかった。氷を蒸発させたのと同じ魔力。知っている属性魔力を感じたのは土系統の魔法陣の時だけ。それに学園で先生が扱っていた属性は無属性に闇属性……もしかして)
あまりに不可思議なことの数々にサナは眉をひそめ……ある結論が脳裏に浮かぶが……。
「植物を操る【木】と物質を変化させる【転】。……派生属性が二つもですか?」
「二つだけじゃないのぉ」
信じ難いといった様子のサナの気持ちを裏切るようにガーデニアンは属性魔力を引き出す。
「“破壊”」
それもこれまでとは違う。
属性魔力が放出されると周囲の地面が地割れを起こして巨大な亀裂を生み出す。
それを目にしたサナは彼が言っている意味を理解した。
「土の派生である【木】と【地】、闇の派生である【転】。全部で三つ」
「いや、七つじゃ。知られていると思うとたが知らんのか? ワシは七つの派生属性を扱う元最強の魔導師じゃった《賢者》じゃぞ?」
不敵に笑みで髭を揺らし、サングラスをクイと動かして杖を掲げる。
すると【木】の魔力、【地】の魔力、【転】の魔力。さらに光属性の派生【聖】、無属性の派生【虚無】、雷属性の派生【磁】、火属性の派生【業】、水属性の派生【結晶】の四つ。計七つの派生属性がサナの前で同時に解放されていた。
(最悪としか言葉が見つからない。老いたと言ってもまだ怪物ね)
対するサナが所持する派生属性は【氷】の一つのみ。技量のそれも恐らく老師が上だ。
圧倒的な手数の差の中、彼女は一人で元最強の《賢者》に挑まねばならない。
七つ派生属性使いの《賢者》と氷姫の称号を持つ《魔女》。
ジークと《魔王》の対決を除けばこの組み合わせがある意味、最悪の対決であった。
◇◇◇
尋常ではない事態に対しミーアの焦りは募るばかり。
探知機の魔道具も破壊されて最早確認もできないが、間違いなくジークが何かをしている。
街では職人と依頼者という関係だったが、彼の人となりは知っている。
常識外れな異常者の彼が動くのなら絶対ロクでもないことが起きている筈だと、ミーアは確信しつつそう確信してしまう自分に嫌気がさした。
『クハハハハ! 次ダ次! もっと赤ダルマを持って来ィ!』
「フハハハハ! 逃げろ逃げろ酔っ払い! 簡単に
「ちょっ、マジやめっ──ブハッ!? アバババババババ!?」
だが、それよりも対応しなくてはならない事案が目の前で起きている。
まったく頼りならない酔っ払いは《魔女》が放つ数百の魔法弾に滅多撃ちにされてしまう。
ならと呼び出した数十体のゴーレム《
だから蹂躙するシャリアを抑えるのも難しくないと……最初は考えていた。
『フンッ! オラァー!』
バキバキッ! グシャッ!
(こんなのッ……どうすればいいんですか!?)
次々と粉砕していく熊に内心涙目なミーア。
ガシッとハグするようにして熊がゴーレムをハグの要領で大破。右にいたゴーレムに拳を打ち頭部を飛ばす。ゴーレムの表面は物理攻撃はもちろんSランク魔法にも耐え切れる筈だが、その耐久値も虚しく打ち破り紙屑のように熊が破壊していくほど。
完全に防戦一方な戦いだ。
シャリアだけでも厄介だったが、規格外な熊の存在がミーアの立てていた策略を大きく覆してしまっていた。
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