第5話 おかしな国へようこそ4

 放浪騎士レンバーと水エルフナイアドのニミュはグレーテの案内で街の外れへと行く。

 そこは城壁が崩れたままになっていて、外へと簡単に出られそうであった。


「確かにここなら外に出られそうだな。しかし、誰もいないのか? 本当におかしな国だな……」


 レンバーは崩れた城壁を見て言う。

 城壁は魔物から国を守る要である。

 もちろん壊れる事もある。

 そんな時は補修が終わるまで、多くの兵士でその崩れた個所を守るのが普通だ。

 しかし、その崩れた城壁の近くには誰もいない。

 まるで、魔物から守るつもりがないみたいである。

 それに城壁も作り直すつもりはないのか、補修しているようにも見えなかった。

 レンバーは崩れた城壁から顔を出す。

 生い茂った木々で暗く様子がわからない。


「ねえ、この先を進んで本当に大丈夫かい?」


 レンバーは振り返りグレーテに聞く。


「えっ? あ、あの……。ごめんなさい。わからないです。城門以外から出る事が出来る場所と聞かれたので……」


 グレーテは申し訳なさそうに言う。


「レンバー。結界が張られているわ。この結界のせいで私の魔法が阻害されていたみたい」

 

 ニミュは崩れた城壁を見て言う。

 現在ニミュの感知能力は阻害されている。

 周辺なら問題ないが、少し離れると何もわからなくなるらしかった。

 

「魔法の結界か……。出ても大丈夫だろうか?」


 魔力が弱いレンバーには結界が張られているのかどうかわからない。

 しかし、魔術についてはある程度学んでいる。

 魔法の結界の種類によっては危険なものもある。

 超えると命を落とすものもあるのだ。


「それについては大丈夫みたい。これは感覚を鈍らせるだけのエルフの魔法。そして、私を狙ったものよ。おそらく闇エルフランパスがこの国にいるんだわ。そうでしょ?」

「え、あの、その……」


 ニミュが振り返って言うと、女の子は言葉を詰まらせる。

 否定をする様子はない。

 真実のようであった。


「ランパスというとダークエルフの事か? 確か神々を裏切り魔王の配下となったエルフの末裔だったかな……」

「そうよ、レンバー。それがこの国にいる……。誰!? 出てきなさい!?」


 ニミュは突然物影を睨んで言う。

 するとそこから3つの影が出てくる。


「貴方は……。ダンザ殿」


 レンバーは影を見て言う。

 夜ではあるが、月が出ているので明るい。

 見間違えるわけがない昼の食堂で出会ったダンザという男であった。


「さすが、エルフだ。いや、ここまで近づくまで気付かないのはエルフにしちゃあ鈍いのかな」


 ダンザは笑って言う。

 もちろん、ニミュは鈍くはない。

 結界が張られていなければすぐに気付いただろう。

 鈍いと言われニミュは眉を顰める。


「ダンザ殿。どうしてここに? それに後ろの方々は?」


 レンバーは疑問に思った事を口にする。

 

「後ろにいるのは俺の仲間のゴウズとモンズ。どちらも腕の良い狩人だ。たまたま見かけて、何をしているのか気になってな、すまないが後を付けさせてもらった」 

「夜にたまたま、見かけてですか……」


 レンバーは怪しむ。

 大陸の東側では夜は基本的に出歩かないのが普通だ。

 ただ、美しい女性がいる店に酒を飲みに行くのなら話は別だ。

 しかし、ダンザ達の姿はそんな場所に行く装いではない。

 武装して、いつでも戦えそうな様子だ。


「ああ、そうさ。ところで何をしているんだ? 教えてくれないか?」


 ダンザはレンバーに問う。

 顔は笑っているが、目は笑ってはいない。


「この国から出るのです。危険ですから」

「危険? 確かにそうだろうな。近くに魔の森もある。しかし、それはわかっていた事だろう? 急にどうした?」

「この子がこのままここにいては危険だと教えてくれました。そして、闇エルフがニミュを狙っているようなのです」

「なるほどな、闇エルフは他のエルフを嫌っているらしいからな。しかし、どうしてそれがわかったんだ、嬢ちゃん」


 ダンザはグレーテを見て言う。

 確かにそれはレンバーも知りたかった。

 グレーテは誰かからこうするように言われたらしい。

 その人物を聞くべきかもしれなかった。


「レンバー! 大変よ! 上を見て!」


 ニミュが突然大声を上げる。

 レンバーが上を見るとすぐ近く建物の上に誰かが立っている。

 それも1人ではない。

 月明かりに落ちる影は3つ。

 近くの建物の上に取り囲むように立っている。


闇エルフランパス……」


 ニミュは呟く。

 レンバーの目では月に背を向けて立っているので良くわからない。

 しかし、目の良いニミュはわかるだろう。

 立っている者達は闇エルフランパスのようであった。


「人間。私達を裏切るの? 所詮は下賤な生き物という事かしら?」


 闇エルフランパスの1名が冷たい声で言う。

 その声を聞いたグレーテは震えだす。

 

「ルマンド。貴方が聞くから悪いのよ。おかげで取り逃がすところだったじゃない」

「そうよ、ルーベラの言う通りだわ。薄汚い水エルフナイアドが私達の領域に入るなんてねえ。どうしようかしら?」

「悪かったわよ、ルーベラ、リエール。でも間に合ったわ。さて、どう痛ぶってあげようかしら」


 ルマンドと呼ばれた闇エルフランパスは冷たく笑う。

 その笑いには殺気が込められていた


「旦那! 俺達も不味いぜ! どうする!」


 モンズが慌てた声を出す。

 レンバー達と一緒にいた事で、彼らも巻き込まれたのだ。

 

「どうするもこうするもねえ! この国から逃げるしかねえ! 行くぞ、お前ら!」

「わかったぜ!」


 ダンザ達は急いで城壁から外に出る。


「ニミュ。どうする?」

「1匹ならともかく3匹はちょっと難しいわね。逃げるわよ、レンバー!」

「わかった! 君も来るんだ!」


 レンバーはグレーテの手を引いて城壁の外に出る。

 森の中は暗く、ニミュの力だけが頼りである。

 しかし、進むしかなかった。


「馬鹿ね。逃がすわけないじゃない。貴方達の運命は決まっているわ」


 背中から闇エルフランパスの笑い声が聞こえるのだった。



 

「馬鹿ね。逃がすわけないじゃない。貴方達の運命は決まっているわ」


 ルマンドはそう言って笑う。

 逃がすつもりはない。

 ルマンド達闇エルフは他のエルフと敵対している。

 自分達の領域に入ってきたら逃すつもりはない。

 

「ねえ、ルマンド。どうする? この国外とお城の敷地外は私達が手を出すことを閣下は禁じられているわよ」


 側に来たルーベラが不安そうに聞く。

 

「そうねえ、ルーベラ。閣下は出かけられているから、バレないだろうけど……。どうしようかしら」


 ルマンド達は仕える主により敷地外での活動に色々と制限をかけられている。

 それに抵触しないように水エルフにちょっかいをかけようと思っていたが、気付かれてしまった。

 そして、敷地外の森で戦う事は原則禁止であった。

 水エルフにそれを伝えた人間の雌に怒りを覚える。

 夜に様子を見に行ったらおらず。

 あわてて、ルーベラとリエールを呼んだのである。


「それなら、敷地内に追い立てるのはどう? それなら、手を出しても問題ないでしょ」


 ルーベラと同じように側に来たリエールが言う。


「なるほど、さすが、リエール。敷地に許可なく入ったのなら、何をしても問題ないわ。御菓子の城に招待してあげましょう」

「そうそう」

「最近、人間が攻めて来なくて退屈だったもの。楽しみましょ」


 ルマンド達は楽しそうに笑う。

 

「なかなか楽しそうだね、君達」


 突然ルマンド達は声をかけられ横を見る。

 すぐ近くに道化の面を被った物が立っているではないか。


「嘘!? いつの間に!?」


 ルマンドは驚く。

 他のエルフ同様、闇エルフも感知能力は高い。

 しかし、道化は気付かれる事なくルマンド達のすぐ側に近付いて来たのだ。

 驚くのも当然であった。 


「相変わらず不気味な奴」

「本当。なんなのよ、あんた?」


 ルーベラとリエールは道化から離れながら聞く。

 同じ主に仕える者ではあるが、道化は得体の知れない存在であった。

 まるで存在感というものがなく、いつの間にか現れて、知らないうちに姿を消すのだ。

 そして、その力は闇エルフを超える不気味な存在であった。

 ただの人形らしいが、とてもそうは見えない。


「僕はただの可愛い人形さ。白銀の奥方様のね。ふふふふ」


 道化は笑う。


「奥方様に言いつけるつもり?」


 ルマンドが聞くと道化は首を振る。


「言わないよ。少なくとも僕からはね~。ふふ、楽しそうな事が始まりそうで嬉しいよ。それじゃあね~」


 そう言うと道化は影のように消えていく。

 最初からそこに誰もいないかのように。

 ルマンド達はその様子を眺めるのだった。

 


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


 短いです。 ごめんなさい。


 実は10章に向けて新表紙を作ろうとしていました。

 そのため、執筆時間が減りました。

 その過程で自分なりにレーナを描いてみたのですが……。

 画力が低い……。 色塗りができてない。

 ツイッターに絵を載せたら、アドバイスをもらえるだろうか?

 

 

 次回からは御菓子の城の解説と構成員を書く事になると思います。


※闇エルフの名前の法則に気付いた人は御菓子好き

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