第21話 幼女JKって定番だよな

――――乾瑠奈 視点――――


 とある放課後の図書館で私は隣に座る友達と話していた。

 その子は中学の頃から本の虫で同じ高校に入った今でも図書委員になって本と関わり、こうした静かな時間帯で読書をするのが好きな女の子。


 今も隣に座る私の横で机に山積みになった本を目の前にしながらも気にすることはなく、足をルンルンに揺らしながら読書をしてる雪に話しかける。


「雪は相変わらず読むのが好きだね。今はどんなのを読んでるの?」


「え、えっと、病気の女の子と出会った男の子が過去に渡れる力を手にして救いに行くってお話」


「なにそれ、面白そう!」


「確か、前にドラマにも......なった......はず」


 だんだんと声が尻すぼみになっていく。もともと引っ込み思案でさらに大人しいという性格も相まってかか細そうに話す今でも精いっぱい頑張ってる。


 ただそれだけで事が済めばまだいいんだけど......


「雪、他に話せる友達できた?」


「......!」


 その質問に顔を横にぶんぶんと振っていく。やっぱりかぁ、自分に自信がないのがこの子の一番の欠点なんだよなぁ~。


 そのせいで色々な弊害が起きちゃってる。でも、それに関して原因は知ってるんだけど、私じゃ上手く解決できるか不安なのよね。


 それでもし雪を傷つけるようになっちゃったら、雪はもう誰とも心を開いて話すようにならないと思うの。


 おどおどした感じとか、上手く話せない感じが周りから良く思われなかった......いや、特定の一部の女子から良く思われなかった。


 それでいて、雪は143センチという小学生並みの身長もあってか強く出ることもできなかったのよね。


 だから、雪のことをちゃんと救ってやれなかった自分としては罪悪感があって、今度こそ雪に楽しい学園生活を送ってもらいたい。


 でも、そのためにはまず雪が“まともに”会話できる相手を探さないといけないのよね......私以外の。特に男子で。


 こういう時の相談相手と言ったらやっぱ光輝君になっちゃうよね。う~む、でもまずは結弦ちゃんに相談してみよ。


*****


――――主人公 視点――――


 突然だが、ここで俺の“普通”の高校生じゃない部分を紹介しよう。


「影山く~ん! 今日もいいかな?」


「うちもうちも!」


「いや、そんな週一で来たって新しい情報なんて更新されないぞ?」


「それはわかってるけどさ」


「どうせあるんでしょ?」


「まあ、な」


 俺は少しだけ鬱陶しくせわしない恋するモブ女AとBに対して接客していく。

 今やってることは先生にも知られてはいけない秘密のことだ。といっても、俺が持っている情報を“売ってる”だけだがな。


 えーっと、手帳......手帳......あ、あったあった。そして、俺はそのモブ女どもにそいつらが恋する男子のNEW情報を提供していく。


 これが俺のラブコメ支配人マネージャー(←今名付けた)のもう一つの顔である情報の「提供屋」である。


 もちろん、情報のレベルは五段階で分けていて、そのレベルが高いほど売り渡す情報の値段は高くなる。


 これは中学の名残だ。中学の頃から光輝をどうやって不幸なき道を歩ませるかと考えた所、一番重要なのは情報だと理解した。


 それから、俺は様々な連中と時間の合間を縫ってコンタクトを取り、その中から情報を収集、欲しい人がいれば提供している。


 最初は仲の良い友達だけだったが、その友達がさらに友達を呼び、さらに男子だけではなく女子にもその噂が広がっていって、やがて俺は「提供屋」と呼ばれるようになった。


 もっとももう一つの顔提供屋のことは基本教師には絶対に秘匿である。それは情報を提供する相手にも念を押して言ってある。


 とはいえ、事故は起こるもの。ふいにうっかり言ってしまう子や俺を良く思わない人は俺のやっていることを教師に密告するのだ。


 けど、実際起こった数は数件程度。それに俺が教師から説教されたことは一度もない。

 なぜそれだけだって? それは俺が情報を提供する者と同時に収集する者だからだ。要するに上手く隠蔽して笑顔で切り捨ててるだけ。


 ということで、今は俺が今後さらに動きやすくなるように根伸ばし作業中。それにこれは良い小遣い稼ぎになるのだ。


「じゃあね~」


「また来週も来るよ~」


 モブ女どもは廊下をばびゅーんという効果音でも付きそうな勢いで走っていく。早速与えた情報で好きな男子と話がしたいのだろう。


「まいどあり。ただし、あるかどうかはわかんねぇし、お前ら金足りんのかよー!」


 一応こういうことも先ほどのお得意様二人に限らずちゃんと言っている。

 俺はただ金稼ぎのために知ったような口ぶりをして嘘を流したり、金づるを作ろうと情報を小出しにするなんてことはしない。そこはフェアでいくのが俺スタイル。


 ......とはいえ、500円二枚か。相変わらずの太っ腹な買い物してくな。それにレベル5の情報を即答で欲しがるとはよっぽどこっちに対して信用があるようで何よりだ。


「学君、何か話してたの?」


「......っ!」


 そういえば、話してないことがあったな。俺の提供屋こっちの顔は実のところ知らない存在が身近にいる。


 それが今まさに俺に声をかけてきた結弦とその隣に立つ乾さんだ。それからここにはいないが光輝も。

 どうして知らないのかは言わずもがなだろう。俺の行動原理は光輝のラブコメ。それに関わる人物に知られてはならない。


 それじゃあ、姫島は? ってなるだろうけど、そいつは正直グレーゾーンだ。

 俺が話しかけられるまであいつと関わりなかったからどこかで噂を聞いてるかもしれないし、まだ入学して約二か月ほどだからまだそこまで噂が広がっておらず知らない可能性もある。


 どっちつかずは気持ち悪いので知りたいのだが、俺から尋ねることはできん。身バレの可能性が跳ね上がる。あくまであいつから聞いてくるまではグレーだ。

 っと、話が逸れたな。んで、こいつらは俺に何の用だ?


「こっちのことだ。それで二人して何の用だ? 光輝の誕生日ならまだだけど」


「そうじゃなくて、学君に頼みたいことがって。頼んでくれるよね?」


 顔の圧が凄い。これ、前回のこと根に持ってるな。土日に死ぬほど奢ったのに。いやまあ、根に持たない方がおかしいけどさ。もうこれ俺に拒否権ないじゃん!


「まだ何か聞いてないけど......乾さんの用事?」


「そう......ともいうけど、厳密には違うわよ。私というより私の友達」


「友達?」


 いや、結弦と乾さん以外他に女子生徒いないけど。でも、こんなしょうもないドッキリするような二人じゃないしな。


「どこ見てるの? 下、下」


「下......」


 二人に下を指さされてその方向を見てみるとまるで恥ずかしがり屋の子供が母親の背に隠れて様子を窺うように、乾さんの背後からひょっこり覗いている小さな女の子の姿が。


 ちっせぇ......妹とも思ったけど、がっつり制服着てるし、何だこの異様な小動物感。つぶらな瞳でめっちゃこっち見てくる。


「そちらさんは?」


「この子は......せっかくだから自己紹介しましょうか」


 そう言って、乾さんは後ろにいるその幼zy......ゲフンゲフン、女子生徒を自身の前に立たせた。

 うわぁ、もしこれで私服来てたら若ママとその娘とワンチャン思うかもしれねぇ。


 にしても、なんでこいつはスケッチブックなんか手に持ってんだ? ん、なんかそれに書いてる。


『私の名前は【音無 雪】です。よろしくお願いいたします』


「ああ、こちらこそよろしく.......」


 え、なんで俺、女子紹介されてんの? それにこいつこのちんまいしたフォルムに栗色の髪......どこかで見た記憶が.......。


「それじゃあ、今から学君にやって欲しいことを言うね」


「は?」


 そう言って、まるで「これで本当にチャラにしてあげるから」と言わんばかりの恐怖の笑顔で説明し始め、俺に逃げ場などなかった。

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