第19話 裏の処置#2

「こんなもんでいいだろ」


 俺はじいちゃん先生が園芸用に使っているスコップを拝借して小さな穴を掘っていた。

 すると、後ろから「お待たせ」と姫島が声をかけてくる。


「どうだった?」


「結果的に言えば成功ね。しっかりと映像にも記録してあるけど見る?」


「お前も盗み撮りが上手いな」


「修行の成果ね」


「いつ修行したんだよ。つーか、なんのために」


「ツッコミに覇気がないわよ」


 わかってるわ。ともあれ、そうか成功したのか......そりゃよかった。んじゃ、この脅迫用証拠保険も必要ないわけだな。


「写真、リュックに入れてたのね」


「ああ、俺も賭けてみたくなった」


 俺はリュックにしまっていた写真を取り出し、さらにリュックに入れていたライターでその写真を燃やしていく。その写真に写っているのは光輝と結弦がケンカした時のものだ。


 まあ、俺が当初予定していた作戦ではこの保険を使おうとしたわけで、その作戦の内容も今より随分と酷かった。


 ここで俺達のやった博打作戦の全容を教えようじゃないか。

 まず最初に、俺と姫島は役割を作った。それは俺が結弦を奮え立たせて、そのフォローを姫島がするというもの。


 その役割に対して、姫島は俺が結弦から嫌われることを考慮して一度拒否したが、俺が頭を下げてそれに同意してもらった。


 そして、俺は結弦と会ったらまず最初に結弦に敵意をぶつけさせる。それは結弦が誰に対して怒っているかをハッキリさせるため。


 結弦は嫉妬心に駆られてはいたが、その怒りは乾さんという恋人がいるのに自分に優しくする光輝じゃなくて、嫉妬を抱いている自分自身であった。


 あのまま自己嫌悪で壊れてしまっては困る。だから、その標的を俺にすり替えた。まあ、結弦が爆発したその発端は俺であるし、当然の報いであるが。


 そして、俺は結弦の本音を俺にぶつけさせてその上でその気持ちを光輝にぶつけさせようと考えた。

 しかし、それで障害になるのは光輝と乾さんが付き合っているという事実。


 その事実の本当のところは当人以外では俺と姫島だけだ。しかし、それを俺の口から言うわけにはいかなかった。


 言ってしまえば知ってる上でわざと光輝と結弦を拗れさせたと考えられてもおかしくないからだ。

 だから、こればっかりは俺の今後の活動のためにもあくまで結弦に「光輝には恋人がいる」という感じで言って欲しかったのだ。


 そうなれば、結弦の認識は光輝に恋人がいるからどうにもできないという認識になる。後は察するような言葉を伝えるだけ心は変化する。

 もっとも俺もだいぶスレスレな言い方をしていたが。


 こればっかりは賭けだった。なぜなら結弦に期待を持たせている状態なのだから。そして、後は姫島に託すだけ。


 まあ、そもそも結弦が光輝と乾さんがいる教室に向かうかも賭けの対象であったが、それには案外自信があった。あいつは存外メンタル強いからな。光輝の次に近くで見てきたからわかる。


「にしても、お前何したんだ? 上手くいくのは主人公次第だが、同時にお前もそれに少しは関わってたし」


「何もしてないわよ。ただを装って1階から上がってくる途中で3階から降りてくる結弦ちゃんに声をかけただけよ。

 それに私が特に何も話すこともなくあの子はすでに覚悟を決めていた」


「そうなのか......それで、お前はどうやって結弦にそれとなく光輝と乾さんが偽恋人関係だって教えたんだ?」


 俺は気になったことを聞いた。それもそのはず、俺が一番の博打と思っていたのは光輝と乾さんがたまたま偽恋人関係の話しをしているところを結弦に廊下から聞いてもらうことだったからだ。


 その作戦は本来俺がやるはずだったのだが、その実行について姫島が立候補したのだ。妙な自信を持っていたので不安だったが......こうも上手くやってくれるとは。


 姫路は俺が写真を燃やして掘った穴に捨てていく様を腕を組んで見ながら告げる。


「まあ、あの瞬間だけはすごく緊張したわ。なにせタイミングが大事だもの。

 一応、あなたから結弦が動いたということは聞いていたけど、それもいつのタイミングで乾さんにレイソを送って、それを乾さんが気づいてくれて、さらに言葉に出して自分達が『偽恋人関係だ』なんて言ってくれるだなんて......今思えばとんでもなくバカな作戦ね」


「もっと言えばその言葉を結弦が聞いてくれるかも全ては運次第。むしろ、ここまで上手くいったのは奇跡に等しいな」


 全ての写真を燃やし終えるとスコップを手に取って埋めていく。これにて証拠隠滅。良い子はマネしちゃダメよ......っと、他にもあったな。


「もしかしたら本当にいるかもね」


「なにが?」


「ラブコメの神様よ。こんな奇跡がたまたまで起こると思う?」


「......確かに」


 俺はリュックからスマホを取り出すと電源を入れアルバムアプリをタップしていく。その中にある光輝と結弦の動画を開き、ごみ箱マークタップした。


「これにて消去っと」


「本当に消すのね」


「当たり前だろ、お前のじゃあるまいし。後お前も消しとけよ」


「あたしの盗撮動画だったら消さないの?」


「ああ、お前を強請ゆすれるかもしれないし」


「そんなこと言っても差し出すのは体ぐらいしか......」


「最初で差し出すのが最終ボーダーライン突破されたやつじゃねぇか。はあ、マジか......今のでもお前は個性じぶんを譲らないのか」


「当たり前よ。ガツガツいくのがヲタクを落とすにはいいんでしょ? それに、こんなバカな作戦に付き合えるのって私ぐらいじゃない?」


「......まあ、な」


 俺はスマホをジャケットのポケットに入れるとリュックを背負いズボンのポケットに手を突っ込み装備完了。あ、スコップ忘れてた。


 そして、俺は花壇のあるところにそれとなくスコップを返していくと校門の方へと歩いていく。

 もちのろんで、その時にもwith BならぬHがそばにいるけれど。こいつが変態なのってイニシャルHだからか?


 時間はかかったが、これで恐らく後は勝手に光輝と結弦は仲直りすることだろう。想像するには結弦がいつの間にか機嫌良くなってうやむやになる感じ。


 最初こそ光輝も戸惑うだろうけど、あの鈍いが取り柄の主人公様ならきっと「まあいっか」で済ませてくれるはず。問題は――――


「『問題は俺が結弦との関係が最悪だってことだな』ってところかしら」


「当たり前のように心読まないでくれる?」


「あなたのことを考えればこのぐらい当然よ。むしろ、あなたももっと私に目を向けてくれないかしら」


「そうだな、少しは努力してみるわ」


「.......」


 そんなことを言ってみると姫島が俺を見て目をパチクリ。ん?


「どうした? 鳩が鉄砲で撃たれたみたいな顔をして」


「それだと私死んでるじゃない......ってそうじゃなくて、随分と素直だと思ったから」


 ああ、それか。それはまあ、今回の成功はお前がいないとできなかったかもしれなかったからだ。


 お前がいない場合の俺の作戦は魔王みたいになって、自分の自己犠牲で結弦と光輝を無理やりでも繋がりを保たせようとしていた。共通の敵作戦ってな。

 だから......っとレイソ? 誰からだ?


『3階の教室を見ろバーカ』


 レイソの相手はまさかまさかの結弦からであった。これには俺もびっくり。嫌われてるはずでこんなことされると思ってもいなかったから。


 そして、校門前の通りから校舎の3階を見てみると丁度校門から真っ直ぐある2年の教室の窓から結弦が身を乗り出して、俺に向かって思いっきり舌を出してべ~~~っとしている。


『今度休みの日、私が良いというまで奢れ! それでチャラにしてやろう!』


 ......はは、このヒロイン、メンタル強すぎかよ。伊達に幼馴染やって鈍い主人公に振り回されてないってか。


 とりあえず、結弦に向かってお詫びも兼ねて手を合わせて頭を下げよう。あくまで俺は結弦と敵対する意思はないとアピールする。


 あ、姫島のことはどう説明しよう。今ここには姫島もいてこうも俺と一緒にいる場面を見られたなら今回の作戦もモロバレじゃん。恥っず!


 ともあれ、今日が週の最終日であることが何よりだな。まあ、結弦が光輝とゆっくり会える時間を作るために考慮したのもあるが。


「まあ、今日はもう帰るか。一先ず大きなイベントでフラグ折れを回避できたしな」


「そうかしら? 折った方がいいフラグもあるんじゃない?」


「は?」


 そんなのねぇよ。まあ、主人公が厄介な男ども連中に絡まれるフラグは出来る限り抑えたいが。

 そんなことを思っている一方で、姫島は妙に殺気立っている。さっきの俺と話しているだけでお花畑浮かばせてるみたいな雰囲気どうしたんだよ?


 すると、姫島は俺の右手に持つスマホを俺にかざして、さらに文章の一つに指さす。


「まだ結弦ちゃんとのデートフラグが折れてないんですけど!?」


 え、まさか俺と結弦が休みに会うだけでそれ認定!? 束縛系かコイツ!


「これだけ頑張ったから私にもご褒美デートが欲しい!」


「は? まあ、いいけど......」


「ならばよし......って、え?」


「初めからそうするつもりだったし」


「そ、そう......」


 そういうと姫島は頬を赤らめて体をクネクネさせる。なんか動きが気持ち悪いな。

 とはいえ、今回の作戦はコイツがいてくれたおかげ。だから、こいつに報いるのは当然だろう。


 だから、お前がいてくれたことは結構本気で感謝してる。言葉にするとつけあがるから言わねぇが。


「今、デレたわよね?」


「デレてねぇ」


「いや、絶対にデレた!」


「なしにするぞ」


「はい、デレてません!」

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