第18話 裏の処置#1
考えれば姫島と出会ってから軽く二週間が経っていて、もう既に五月も後半である。
なんとも早いものだ。そして、あの情緒イカレポンコツ変態女も慣れれば操作しやすい。ああ、慣れって恐ろしい。
ともあれ、それは俺が光輝と結弦に仕掛けてからの一週間も含めてである。つまりは何の進展もない。
光輝は結弦に対して何度も話す機会を持ちかけようとした。しかし、その全てを結弦は拒絶した。
ハッキリした感じじゃない。ただ光輝が近づくと露骨に距離を取ろうとしているのだ。
それ故に、結弦が光輝に対して意識をなくしたわけではない。しかし、一週間という時が経ってしまった以上、二人の精神的にも限界が見え始めてるだろう。
故に、
時は放課後、俺は無人の空き教室で茜色の日差しが差し込む教室で一人待っていた。
話す相手は決まっている。遠回りしかできないチキンな
そしてやることも決まっている。まあ、考えればこれも十分に「悪」であるな。
――――ガラガラ
教室のドアが開く。窓から運動部の部活を見ていた視線をドアの方へ向けるとそこにはヒロインの一人である――――相葉結弦がいた。
「悪いな、時間取らせちまって。それに来てくれて助かった」
「そりゃあ、
俺のモブ扱いは十分に効果を発揮してくれてるようだな。
今となれば都合良いが、少なからず中学三年間は光輝と一緒につるんでたから少しはメンタルに来る言い方だな。
まあ、別にいいか。恐らく俺とお前が関わるのは最悪今日で最後になるかもしれないからな。
「俺は回りくどいことが嫌いじゃないが......自分の言いたいことはハッキリ言うタイプでな。そのせいでついつい一言余計に言ってしまうことが多いんだが、今回は遠慮なく言わせてもらう」
「何が言いたいの?」
「お前......率直にバカだろ?」
「え......?」
結弦は俺のストレートな言葉に動揺する。そりゃそうだ、俺はお前に対して本気で「バカ」なんて言ったことないからな。
もちろん、冗談で言ったりすることもあった。だが、そんなの中学含めたって数少ないし、それに結弦の動揺の大半を含めているのは俺の態度でもあるだろう。
ポケットに手を突っ込み、上から目線で圧をかけるような言い方。まさに悪役。
陰キャ感を醸し出すおふざけキャラだと思っているだろうが、こう見えて色々考えて動いてんだぜ?
それに俺は確実に獲物を狩れるときに銃の引き金を引く。
「お前、写真部だったよな? 確か前に掲示板で表彰された新聞部の新聞記事に写真が載ってたけど......あれ、お前の写真だろ?」
「......っ!」
「ああ、言わなくてもわかる。あの写真に写ってる人物は光輝で、お前は光輝に無許可で撮影してさらに記事に載せた。
その意味合いは『私の気持ちに気付いて、もしくはあなたを見ている』ってところか?
まあ、あいにく光輝には気づかれないようだったから、俺が手助けしてやった」
「手助け......?」
「ああ、“手助け”だ。乾さんと恋仲になった光輝に対して、ロクに内に秘めた気持ちを吐き出すことも出来ずにいたんだろ?
だから、俺がお前ら二人を合わせる機会を作ってやった。まあ、感謝しろとは言わねぇさ。大事な友達だからな」
「......せいだ」
「ん?」
「学君のせいだ!」
結弦は俺に近づいて来ると目元に涙を浮かべ、鬼神のごとき怒りの表情で俺の胸倉を両手で掴む。
正面から怒気が伝わってくる。力強く握ってるせいか体が少しのけ反らされるな。
そして、結弦は俺を睨みつけながら叫ぶ。
「学君が余計なことをしなければ! 変なおせっかいをしなければ! こんなことにはならなかった! こんな苦しい思いをしなくて済んだ! こんな思いをしたのも全部学君のせいなんだよ!」
胸倉を掴んだ手から微弱な振動を感じる。そして、表情を見てみれば泣きながら怒っていた。もっとも怒りの方が割合が勝ってるように見える。
これ以上は結弦の感情を逆なでせずに言い負かすべきか? いや、怒りの標的を光輝でも
「だが、これ以上なく言いたいことを言えただろう?」
「わかったような口を聞かないでよ! 学君がこんな人だと思わなかった!」
「俺もお前がこんな臆病だとは思ってなかったよ。それにな」
俺は結弦の手首を掴むと強引に押し返す。そして、睨み返すように見つめ返した。その行動で結弦に若干の怯えが見える。
「責任転嫁はしないで欲しいな」
「......は?」
「俺は確かにお前らに本音を言わせるように煽った。だが、最後にその発言をしたのはお前自身。お前に積もりに積もった光輝への想いがお前をそうさせたんだ」
「私の気持ちを知らないで知った口聞かないでよ!」
「ああ、知らねぇな」
ほんと姫島に加え、お前に関しても女心なんててんでわかりゃしない。つーわけで、俺は「互いのペースで〜」とか言うのは嫌いだ。
だからという訳でもないが、少なからず俺に正面突破で言ってきた姫島の方が今のお前より数十倍マシだったな。
「お前はいつまで幼馴染という繋がりに縛られてるつもりだ? 幼馴染だったら互いのペースに合わせた方がいいとかよく聞くが、そんなもん信じてんじゃねぇだろうな?
そうやってお前らは互いの気持ちをいつまですれ違いさせるつもりだ! 傍から見ればすぐにわかるようなものがどうしてお前らはわからない! ただ互いの本音を確かめ合えばそれで済むことじゃねぇか!」
「それが出来たら苦労しないよ! だって、壊れちゃうかもしれないから......どうしても勇気が出来なくて」
ああ、じれってぇな。だが、これ以上の言葉は勢い任せに言っていいセリフじゃない。よし、俺の思考はまだクールに働いてる。
ここは絶対にしくじるな。あくまで俺がやるべきことはチャンスを作ることだ。そして、結弦をもう一度立たせることだ。
「お前の光輝に対する気持ちはその程度か? 少なからず中学の時のお前の方が積極的だったと思うけどな」
言わせろ。あくまで俺の口からじゃなく、結弦の口から言わせるんだ。
「俺は何の後悔もする気はねぇぞ、お前らにしたことは。どうせ付き合うだなんて行動はお前らの幼馴染という関係を壊すことと同じだしな」
食いつけ。俺の言葉を正確に理解しろ。
結弦は俺の言葉に打ちのめされたのか腰が抜けたようにその場に弱々しくしゃがみ込んでいく。
俺も思わず強めに握ってしまっていた結弦の手首から手を放した。思ったより熱が籠ったみてぇだな。悪い、結弦。
「もう......」
「......」
「もう......無理だよぉ......だって、だって.......光輝には
来た! ここを逃す手は絶対にない!
「付き合ってる? ほんとか?」
「......え?」
「だって、あいつら行動がいろいろおかしいだろ? 突然焦ったようにいちゃつき始めたり、かといってやたらめったらケンカ多かったり。
俺はあいつらの恋人関係の方がよっぽど疑わしいと思うけどね」
「でも、二人の前では付き合ってるって学君も認めてたよ......?」
「そりゃあ、なんか必死そうだったし、空気を合わせてただけだ。
だがもしかしたら、なんらかの事情があってそのせいのカップルなんじゃないか? まあ、それは定かじゃねぇけど、確かめるなら確かめてこいよ」
「どうやって?」
「光輝と乾さん、恐らく教室にいる。まあ、どうするかはお前次第だけどな」
俺は結弦の横を通り過ぎながらポケットに手を突っ込む。やるべきことは大体終わった。後は
「あ、もし俺の言ったことが本当だったら、あいつらからお前に言える日を待ってやれば? 二人ともお前を蔑ろにするようなタイプじゃない」
そして、教室を出てすぐにある階段の角で身を潜めた。それは結弦の行動を観察するためだ。
ちなみに、俺と結弦が話したのは3階にある空き教室で、俺達の教室は2階なのでちゃんと不確定要素を排除してある。
俺は壁に背をつけて疲れたようにしゃがみ込む。しばらくして、閉めたドアがガラガラと開く。結弦が出てきたのだ。
そのタイミングで俺は姫島に合図を送る。あとは結果を待つのみ。
「よっこらせっと」
そして、俺は立ち上がると待ち合わせの校舎裏へと向かった。
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