『5分で読める』パーティー追放ベタ物語
佐藤康大
ベタな世界の物語
「お前は今日限りでクビだ」
そう言われて俺は勇者パーティーを追放された。身の丈に合っていないと常々思ってはいたので、それは致し方ない。だが、『今までの迷惑料』と称して有り金どころか家宝の武器さえ没収されたのには参ってしまった。
早く次の働き口を探さなくては……俺は、冒険者ギルドへ行くことにした。
「いらっしゃいませ」
ギルドの受付嬢がにこやかに挨拶をする。
「ギルドに入りたいんだが」
「かしこまりました。最初はFランクからのスタートになります。あちらの掲示板から依頼を選んでください」
掲示板を漁ってみたが、どれもこれも[冒険]とは無縁の雑用ばかり。まあ、武器を没収されてしまった今の俺にとってはむしろありがたい。俺は手始めに、薬草採取の仕事をすることにした。
森の中へ入り、順調に薬草を採取していく。そこで黄金に輝く果実を見つけた。食べた者の能力を覚醒されると噂される超レアアイテムだ。俺は迷わずそれを食べた。体中から力が溢れてくるのを感じる。それから俺は、尋常じゃないスピードで薬草を採取していった。
依頼分の薬草を取り終え、ギルドへ戻ろうとした所、妙な馬車が目に入った。『妙な馬車』というか、馬車がこんな森の中に入っていることが妙なのだ。この手の
「なんだこれは!」
「誰だ!そこで何をしていやがる!」
俺が不用意に声を上げてしまったものだから、見張りの男たちに気づかれてしまった。だが、不用意に声を上げてしまうのも無理あるまい。何せ、荷台の檻の中には獣人の女の子が縛り付けられていたのだから。
「『何をしていやがる』だと!?それはこちらのセリフだ!奴隷の売買は禁止されているはずだぞ!」
「うるせぇ!バレなきゃいいんだよ!」
「俺にバレてしまったわけだが?」
「別に構わねぇさ……これから死ぬ奴にバレるくらいな!いくぜ野郎ども!」
いかつい男たち4人が、剣を手に取り一斉に俺に向かってくる。その光景を見て……俺は思わずため息を吐いた。
「遅い」
黄金の果実のおかげで、俺は凄く強くなっている。奴らの動きなんてスローモーションのように感じる。俺は男たちに向かって次々とジャブを繰り出した。
「「「「ぐわあぁーーーー!!!」」」」
男たちはそのまま地面に倒れこんだ。こいつらはあとで、馬車ごとギルドへ連行していくとして……
俺は檻をこじ開け、獣人の女の子を無事救出した。
「大丈夫か?」
「素敵!抱いて!」
「ん?今何か言ったか?」
「べ、別に!何にも言ってないし!」
やれやれ。どうやら、この子が何を言っていたか聞いていなかったせいで機嫌を損ねてしまったようだ。
もう自由になったのだから、家に帰ってもいいといったのだが、俺と一緒にいたいいう。仕方ないので、とりあえず一緒にギルドへ向かうことにした。
「ただいま」
「おかえりなさい……あら?そちらの方は?」
受付嬢がジト目で質問してくる。何故だろう?
「うん。まぁ、とりあえずこれが依頼分の薬草ね。そして、この人は……ちょっとギルドの外まで来てもらっていいかな?」
「はぁ……」
俺はギルドの外に置いておいた馬車と、檻に閉じ込めた野郎どもを指さす。
「森の中でこいつらを見かけてね。ご覧の通りと言って伝わるかどうかは分からないが、奴隷商だ。そして、この子が捕まっていたというわけさ」
「しょ、少々お待ちください!」
受付嬢が慌ててギルドの中へ戻っていく。しばらくして、俺はギルドの面会室へと通された。
「どうも、初めまして。僕はここのギルドマスターだ」
「はぁ……そんな方がどうして俺に?」
「君が捕らえてくれた奴隷商はかなりの悪者でね?本来であれば、こいつらの討伐はBランク級の依頼なんだよ」
「はぁ」
「というわけで、君を特別にBランクへ昇進させることにする!」
「ありがとうございます」
異例の昇進に喜びを噛みしめながら、俺たちは宿屋へと向かった。だが、運の悪いことに空き部屋は1つしかないという。俺は野宿でも構わないと言ったのだが、獣人娘が一緒の部屋でも構わないというのでそうすることにした。
「じゃあ俺は床で寝るから君はベッドで寝てくれ」
「そんな、悪いよ……そうだ!一緒に寝よ!」
「まあ、君がいいならいいけど」
言われた通り、一緒のベッドで寝ることにした。俺はそのまま眠りにつくことにしたのだが、彼女が不機嫌そうに「なんで何もしてこないの?」と呟くのが聞こえた。何かしてほしかったのだろうか?やれやれ。年頃の女の子が考えることはよくわからん。
翌日。ギルドへ向かう途中、何度も通行人に声をかけられた。俺が奴隷商を捕まえたことがもう町中で噂になっているらしい。少し照れくさいがこういうのも悪くない。そう思っていた矢先……
「随分と言いご身分だな」
声の方へ振り返ってみると、そこには勇者がいた。勇者は獣人娘を一瞥すると、また俺に対して悪態をついてきた。
「なんだ?もうパーティーを組んだのか?こっちはお前が辞めてから大変な目にあったというのに」
「大変な目?」
というか、俺が辞めたんじゃなくてお前が辞めさせたんだろ。
「お前が辞めてから、なんやかんやで僕たちのパーティーは解散する羽目になったんだぞ!」
「いや、知らん」
「き、貴様ぁーーーー!!勇者であるこの僕に楯突くつもりかぁーーーー!!」
俺は溜息混じりに勇者が振りかざした剣を右手で掴む。
「へ?」
勇者が間抜けな声を出す。勇者パーティーを追放されたことに関してはもう何も気にしてないのだが、こんなことされたら反撃するしかあるまい。俺は、左手で軽くジャブを打ち込む。軽く打ち込んだだけだというのに、勇者は数メートル先まで吹っ飛んでしまった。
「軽くジャブを打っただけで
「よ、よくもやってくれたな!殺してやる!殺してやる!いつか必ず、貴様を!」
派手に暴れすぎたせいか、気づけば周りに野次馬が集まっていた。
「え?アレ何?勇者様?」
「勇者様が一般人を襲って返り討ちにあったぞ」
「何それ?超ダサくない?」
「ダサいどころか、『殺す』って……正気の沙汰じゃねぇだろ」
「こわ!そんな人が勇者やってて大丈夫なの?」
野次馬に煽られた勇者は『クソッ』と吐き捨て一目散に町の外へと出て行った。
あれから数日。ギルドの仕事にも慣れてきた矢先、さらなる事件が起きた。
「ねぇ!早く起きて!」
「なんだ?こんな夜中に……」
「いいから!早く外見て!」
獣人娘に言われるがまま窓を覗き込むと、今までの眠気が一気に吹き飛んだ。町が燃え盛り、人々がパニックを起こしながら逃げまどっている。俺たちはすぐに身支度を済ませ、外へと繰り出した。
一体何が起きているのか?その疑問は空から聞こえてくる高笑いですぐに分かった。
「あれは……魔族!?」
魔族……なんやかんや人間と似ているところがあるが、なんやかんやよく分からん理由で人間を襲う。そんな奴らだ。
「で、でもなんだってこの町の人を襲ってるの!?」
「理由を考えるのは後回しだ!お前は町の人の救助に当たってくれ!俺はその間、奴を食い止める!」
「わ、わかった!」
俺は浮遊魔法を使い、魔族の前に立ち塞がった。
「そんなに暴れたいんなら、俺が相手をしてやるよ!」
「へぇ~アンタがアタシの相手を?アハハハハ!面白い!もしアタシに勝つことが出来たら、褒美に何でも言う事を聞いてやるさ!……勝つことができたらの話だけどね!」
……なんてことはない。勝負は一瞬でついた。馬鹿正直に突っ込んできた女魔族を叩いたら、そのまま地面に突っ伏した。それだけのこと。
「バ、バカな!このアタシが……人間如きに!」
「さて。約束だ。俺の言うことを何でも聞いてくれるんだろ?」
「クッ!」
「この町を襲った理由はなんだ!?」
「逆に聞くが……どうして襲われたのがこの町だけだと思っているのさ?」
「まさか、同時多発的に!?なんだってそんなことを!?」
「目的なんてものはないさ。ただ、暴れたいから暴れただけ。皆、舞い上がっているのさ……魔王様の誕生に」
「魔王の……誕生?ってか魔王ってなんだ!?」
「疑問に思ったことはないか?何故魔族が人間の言葉を話すのか?何故魔族が人間と似たような姿をしているのか?それは……魔族の始祖が、人間だからさ。高い魔力を持った人間が、人間を恨みながら暴走して変異した者……それが魔族のルーツ。それが魔王さ」
「人間が魔族になるだなんて、そんなの聞いたことも見たこともないぞ!」
「いっただろ?高い魔力を持った人間じゃないと無理さ。そんな奴はそうそう生まれやしないさ……そして、そういう特別な才能を持った奴のことをアンタら人間はこう呼ぶんだろ?……『勇者』と」
女魔族が話している最中、上空から凄まじい殺気を感じ思わずその方を振り向く。そこには、俺の見知った男が……今しがた話題に上がったばかりの男の姿があった。
「!?……下がれっ!!」
女魔族に向かって叫ぶと同時に、俺は防御魔法を展開する。だが、奴の放った火球はそれを
「ガハッ!!」
「オイオイ!なんだそのザマは!軽くジャブを撃っただけなのに情けねぇ!」
俺を心配して、女魔族が駆け寄ってくる。だが……
「来るな!これは俺とあいつとの問題だ!俺一人で決着をつけなきゃ意味がねぇんだ!」
「な、なんだってアタイのことを庇うのさ……」
「助けるのに理由がいるのかよ!いいから、さっさと行け!」
俺の意志を尊重してくれたのか、それとも俺の気迫に圧倒されたのか、女魔族は言う通りその場を後にした。
俺は跳躍し、勇者……いや、魔王めがけて剣を振るう……が、奴は右手で剣を掴むと空いた左手で思い切り俺に
それからというもの、必死の抵抗
「さて、そろそろ仕上げといこうか。意識のない状態で殺しちまってもつまんねぇしな……やっぱとどめはこれがいいかな?」
そう言うと奴は『今までの迷惑料』と称してパーティー追放の際、俺から奪い取った剣を手に取った。
「死ね」
……いや、まだだ!まだここで俺が死ぬわけにはいかない!あいつらを残して死ぬわけにはいかないんだ!
魔王が俺に剣を振りかざそうとした瞬間、剣から眩い光が放たれた。不意を突かれた魔王は思わず、剣を手放した……いや、違う。剣が魔王からひとりでに離れていったのだ。そして、宙を漂いながら俺の方へとやってきた。
「き、貴様!一体何をした!」
「俺は何もしちゃいないさ……お前が俺から奪ったこの剣は[勇気の剣]。人間の勇気に呼応して力を発揮する聖剣だ。勇者様なら問題なく使いこなせたんだろうが、どうやら魔王には使いこなせない代物だったようだな」
「くっ!だが、それがどうした!?その剣が貴様に渡ったところで、どうってことないんだよ!貴様なんか簡単に殺せるんだからな!」
「それはどうかな?」
「何?」
辺りには、数多くの冒険者が集まっていた。いや、冒険者だけではない。この町に住む人々がここに駆けつけている。
「はっ!今更雑魚どもが何の用だ!人数さえ集まれば僕に勝てるとでも思っているのか!」
「あぁ、勝てるとも。言ったろ?この剣は、人間の勇気に呼応して力を発揮するのだと!」
「うおーーー!!」
「いけーーー!!」
「そんな奴ぶっ飛ばしちゃえ!」
「死ねーーー!!」
「この町を守ってー!」
「元勇者をブチ殺せーーー!!」
皆の声に呼応し、勇気の剣が光り輝く。そして俺自身、力が湧いてくるのを感じる。
「終わりだ、魔王!」
「ちょ、ちょっと待て!一旦落ち着け!」
「言ったはずだ。次絡んできたら容赦しない、と」
「ぐわぁぁぁーーーー!!」
渾身の一撃が決まり、魔王は完全に消滅した。
魔王が討伐されたことで、魔族の中に凝り固まっていた「人間を恨む」という意識は薄れていった。女魔族の協力もあり魔族と人間との間に和平が結ばれることとなった。
魔族と人間の仲は良くなった……だというのに、どうやら魔族と獣人の仲は悪くなっているようだ。俺は、俺の両脇で何ごとかを揉めている女魔族と獣人娘を見てそう思うのだった。
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