一人の生徒
笠井菊哉
第1話
最近、一人の生徒が気にかかる。
オカダアキヒロ君という一年生は、入学式後にすぐオンライン授業になった事が影響したのか、登校しても友達が出来なくて一人でいる。
出身中学の報告書を読むと、オカダ君は人見知りが激しくて、中々皆に打ち解けられない子と書かれてあった。
「オカダ君」
放課後、図書室で勉強をしている彼に声をかけた。
「学校、楽しい?」
彼の悩みを聞き出したくての質問だったが、意外にも彼はコクンと頷いた。
「進学校だから授業のレベルが高いし、図書室の蔵書も豊富なので入学して良かったです」
そうじゃないのに、と頭を抱えてしまった。
「それに、サトウ先生もいるし・・・」
オカダ君の頬が赤く染まった。
僕の勤めている学校には、サトウ姓の女性教諭が三人いる。
どのサトウ先生だろう。
三人とも若く、綺麗で人気のある先生だ。
オカダ君から恋愛相談を受けていると思うと、嬉しくなってきた。
出来る限りオカダ君の力になってあげたい。
「サトウマミコ先生でもサトウヒサメ先生でもサトウエツコ先生でもなくて」
オカダ君は、真っ直ぐに僕の目を見て言った。
「今、目の前にいるサトウヨシヒサ先生が好きです」
えっ?僕?
呆然としていると、オカダ君が机の上の教科書やノートをリュックに詰めた。
「中学まで、地理は苦手だったんです。でも、ヨシヒサ先生に褒めてほしくて地理の勉強に力を入れて、成績が上がったんです」
確かに入学時の実力テストの成績と比較すると、彼の地理の成績は伸びている。
言葉が出ないままの僕に一礼して、オカダ君は図書室から出ていった。
それから三ヶ月後、オカダ君は
「学年一の美人」
と名高いヤナギハラさんという女の子と肩を並べて歩くようになった。
同僚教諭によると、手紙と一緒に人気洋菓子店の限定チョコレートをオカダ君の誕生日に贈ったのがキッカケらしい。
酷い、浮気者という感情はない。
寧ろ、高校一年生の男の子として自然な事だと思った。
ある日、その事でからかうと、
「違います!!確かにヤナギハラさんから手紙とプレゼントはもらったけど!付き合ってるとかではなくて、友達です!趣味が同じなんです!!趣味友達です!一緒にBリーグを観戦したり、カフェに行ったり、お菓子の食べ歩きに行くだけで!」
オカダ君は真っ赤になって否定した。
だが、オカダ君の様子から察するに、二人がいい仲になるのは時間の問題だと思われる。
長身で男前のオカダ君と、優しく美人のヤナギハラさんは、これ以上ないベストカップルだ。
早くその日が来たらいいのにと祈りながら、僕は顧問を務め日本鉄道研究部の部室に向かった。
一人の生徒 笠井菊哉 @kasai-kikuya715
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