美樹とシンとの交流~②

 彼は目で美樹の了解を得てから、その書き込みの箇所まで画面をスクロールしてくれた。確かにそう考えると辻褄が合う内容を発見した。頭の中が混乱し、ぼんやり眺めていると彼はさらに続けた。

「これだけじゃない。話がまだ続いていたから、時間を見て昼食後のHRは終わっていないと分かった。つまり今この瞬間に学校でこのやり取りをしていると考えた俺は、駒亭に行く予定だった一年達がいる教室へ向かった。自分のスマホに切り替えてサイトに繋げたまま走ったんだ。この書き込みをしている奴を確認するために、な」

「確認できましたか」

 思わず画面から目を離し、彼の顔を凝視する。彼はにやりと笑った。

「みつけた。結論から言うと、参加していたのは和多津の部屋に行こうとしていた奴ら全員だ。あいつらHRが終わった後の教室の隅に集まって、それぞれのスマホを握りしめてまだやってやがった。まさしく書き込んでいる奴らが目の前にいるし、書き込まれた内容が同じタイミングで俺のスマホでも見えたからすぐに判ったよ」

「全員ですか」

 ショックを受けた。予想はしていたが、もし何かを企んでいたとしても一部の子で、他の子達は利用されていたというならほんの慰め程度だが少しは救われる。

「でも中心は南だな。書き込み回数も多いし、先方とのやり取りもあいつが窓口になっている。書き込みしている所を直接見ていたからまさしく一目瞭然だった」

「どうして彼女が他校の子と悪巧みしていたのでしょうか。それと私とがどう関係する、」

 そこまで話して気づいた。

「もしかして井畑高校の子達ですか」

 彼はゆっくりと頷いた。

「おそらくそうだろう。イバタって言葉が、さっき見せた画面のもっと前に出てくる。それを見て思ったよ。あそこは公立の中高一貫校で君も知っている通り、陸上部は中学も高校も強い。しかも今度春の県大会があって、井畑の陸上部がM市へ来る。うちは地区予選すら勝ち抜けない子達が多いから、県大会に出られる奴なんてまずいない。それでも時々中学時代に活躍していた生徒が入ってきて、種目によっては出場できる時がある」

「でも今の一年生に、中学で活躍していた子っていませんよね」

「それが南だ。あいつの出身中学は陸上部が強い。南自身はレギュラーじゃないが、県大会へは先輩達の世話をする為に顔を出していたのだろう。そこで井畑中学の陸上部と交流があったと俺は推測している。やり取りを見る限り、命令や指示しているのは南ではなく井畑高校の陸上部の誰かだ。つまり主犯は向こうサイドにいるってことさ」

 美樹は息苦しくなり胸元を掴んでいた。この話が事実ならば、井畑高校側の生徒はアキラと同じクラスだった陸上部の子達に違いない。今は高二で南達より一つ上だ。県大会への出場は常連だった子達である。

 年上に加え陸上では格上の先輩達による指示を受けた南としては、逆らえなかったのだろう。おそらく別の高校に入った中学時代の先輩を通し、彼女達はこの裏サイトで交流するようになったと思われる。

 美樹がこの学園にいることを知っているあの子達は、南達を使ったのだろう。下宿見学などと理由をつけ、美樹の部屋への侵入を試みたことになる。となると彼女達は今後どうするつもりなのか。その疑問を口にしてみた。

「彼女達の目的は何でしょう。下宿や私の部屋で何をしようとしていたと思いますか」

 すると彼は再びノートPCの画面をスクロールさせた。見ると先程の書き込みから、さらに新たなものが更新されている。二人でコメントを目で追って読んだ。

 読み終えた彼は、ふうっ、と息を吐いて質問に答えた。

「あいつら今の昼休憩の時間を使って、このやりとりをしていたようだな。これを見る限り狙いはあくまで和多津さんの部屋にあるみたいだ」

 確かにその後は工事なんて待っていられない。新しい下宿先を借りたのなら適当な理由をつけてなんとしてでも部屋へ行け、という指示が井畑高校側から飛んでけしかけている。南達はどういう理由がいいかと困惑している様子だ。美樹が見学自体を中止にすると言ったことで、困難だと消極的になっている。

 それに対し先方は、間借り自体も珍しいのだからどんな家なのかなどいくらでも理由はあるだろ、と有無を言わさぬ書き込みをしていた。その途中で南達は部活の準備があるので、と一時中断して話は終わっていた。

「和多津さんの部屋か。南達に盗聴器か何かを事前に渡しているのかもしれない。今は簡単に取り付けられる物があるし。後は何かを探し出す、聞きだすというところか」

「何かって、」

 アキラのことを探ろうとしているのだろうか。南達は井畑の子達からどこまで聞いているのか。目的は盗聴器の設置なのか。美樹が困ることは何だろう。ただの嫌がらせなのか。

「和多津さんの弱み、または嫌がるものは何かを掴もうと近づいていることは確かだな。部活の時には昔の井畑の話なんか聞かれて無いだろ」

 彼は美樹の考えていることを読み取ったかのように喋り出す。

「井畑の話は、ここに来てから誰とも話したことはありません」

 そう言って俯いていると、彼は意外なことを提案してきた。

「こうなると陸上部から距離を置いた方がいい。声をかけた俺が言うのも何だが、申し訳ない。得意の陸上に触れることが、昔の元気な姿を取り戻すリハビリになればと思っていたが逆効果だった。こんなことになるとは、俺も上も想像していなかった」

「陸上部を辞めるってことですか」

「構わないだろ。元々俺が無理に引っ張ったんだ。やはり大変で辞めたことにすればいい。午後の部活も出てこなくていいぞ。部員達には俺から言っておく。後から何故って聞かれたら、体を痛めたとでも言っておけばいい」

「それでいいですか」

「いいさ。辞めれば接点も少なくなる。近づき難くなるし、和多津さんもガードし易いだろう。今後距離を置いたって問題はないし、逆に仲良くする方が変だ。向こう側は目立っちゃ困るはずだ。自然に近づいて悪さを企む。それがやり口のようだからね」

 確かにそうだ。裏サイトへの内容を見ても、さりげなく近づくよう指示されている。またあの話題は一切口にしないようにという一文を見つけた時、瞬間的にアキラの事だと悟った。

 あの件を蒸し返されて困るのは、未だ井畑に居続けるあの子達も同じまたはそれ以上だ。それが許せないのだろう。美樹一人が被害者面して抜け出し、あの子達は加害者のレッテルを張られたまま、閉鎖された空間で暮らし続けているのだから。

「判りました。そうします。ご迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」

 席を立って頭を下げると、彼はいやいやと手を振った。

「止めてくれ。悪いのは陸上部と接点を作ってしまった俺と、それを認めた上の責任だ。この件は後で上に報告する。何度か上に呼び出されて聞き取り調査を受けるだろうが、それは覚悟してくれ。でもこの件ではあくまで被害者だから。未遂で終わっているけど」

「何もかもすみません」

 本当に有難くてもう一度頭を下げた。彼がこの動きを察知していなければ、さらに厄介な事に発展していたかもしれない。それを事前に食い止め、学園へと逃亡して安心していた美樹に、今後南達を注意するよう教えてくれた。

 さらに今後も井畑にいる彼女達の動向には注意せねばならない。彼女達なら今回失敗したとしても南達とは別の、美樹に繋がる人達を探るだろう。そう警戒できるだけでも十分だ。ネットというのは恐ろしい。距離なんて関係なく、世界の人々と繋がることができる。つまりあらゆる人に近づき、その動向を知ることができるのだ。

 井畑から距離を置いたが、その認識が甘かったことを今回で身に染みた。やはりこの苦しみから簡単に逃れることはできず、まだこれからも続く覚悟はしなければならないのだ。

「今後の為に、井畑高校側の特定はしたほうがいいだろう。心当たりはあるかな」

 持っていた手帳に数名の名前を書き、そのページを破って彼に渡した。

「おそらくこの子達だと思います。これ以上詳細な情報が必要なら、後ほどお伝えすることもできますが、狭い地域ですからおそらく名前だけで調べていただければ分かるかと。報告書を書かれるとおっしゃっていましたから、参考までにお渡ししておきます」

 そのメモを確認し、PCを入れていたカバンの内ポケットにしまいながら彼は言った。

「助かる。おそらく井畑で起こった事件の関係者だろ。今は高校二年生か。高校生ならアクセス方法は南達と同じように自分のスマホか、せいぜい持ち運べるタブレットくらいだ。複雑な方法をとっていない限り、書き込みに関わった生徒のIPアドレスの特定は簡単だろう。それが判明すれば、あとは本職の監視チームの仕事だ。俺らの手からは離れる」

「管理会社に委託して、あの子達を監視するのですか」

「そうなるだろう。君が陸上部を辞めて今回の計画が失敗したとしたら、相手が次にどんな動きをするか判らない。だから用心しておくのさ。ただ南達とは距離さえ置けば大丈夫だろう。そうなれば完全に俺の仕事じゃない。他校の生徒まで範囲を広げるなら、それは監視のプロがやる。それに問題の根はここの生徒じゃなく、向こうの生徒だ。まあ、今後どうするかは上の判断によるけど」

「何もかも、お世話になります」

 三度頭を下げる。美樹にとって彼は、文字通り頭が上がらない存在になった。

「また何かあればいつでも相談してくれ。でも今回の件で別の展開があれば、次の相談窓口は俺じゃなくなるだろう。例えばIT部顧問の定岡さだおか主任辺りかな。彼は教師側のネット監視における総取締役だから。プロ側と意見交換する時も、必ず学園長や部長達のアドバイザーとして呼ばれているようだし」

「定岡主任ですか?」

 確か六年制の学年主任にそう言う教師がいたかも、という程度の記憶しかない。美樹とはほぼ接点がないため、どんな顔をしている人だったか良く覚えていなかった。

「学園に来たばかりだから知らない事が多いかもしれないけど、この際IT部の補佐とかやってみたらどう?」

「IT部ですか?」

「ああ。IT部も補佐してくれる人材は欲しいはずだ。定岡主任も取りまとめの仕事で忙しいから。それにIT部自体は六年制の中高校生や三年制の生徒が在籍しているけど、和多津さんに接近してくるような人物がいるとは考えにくい。だって相手は体育会系だろ?」

「でもネット上だと余り関係ないと思いますけど。それにIT部ならネットをよく使う子達ですよね。在籍している生徒とネットで繋がる可能性が高いことにはならないですか」

「理屈上ではそうだけど、ネット監視を顧問が行っていることは部員全員が知っているはずだ。その上で変な輩の誘いに乗るバカはいないだろう。万が一接近して来たとしても、向こうの動きが判って逆にいいかもしれない。部にはその手の動きに攻撃も防御も得意なメンバーが揃っているし。報告書を上げれば必ず定岡主任の目を通るから、今後の対策として提案しておけばいい。後は彼や上の考え次第だけど。和多津さんはどう?」

「突然どうと言われても私自身IT系は詳しくないので、お手伝いどころか足手まといになりますよ」

「その点はなんとかなるさ。俺みたいな時代遅れでおじさんの体育会系野郎でも手伝いができるくらいだ。ずっと若い和多津さんなら大丈夫だと思うけどな」

「そうですか?」

「そんなに深く考えなくていいよ。IT部に所属するかは定岡受任や上の判断もあるし、俺が勝手に決める訳にはいかないから。でも考えておくのも手だろ。陸上部を辞めますだけだとなんだしな。別の所属先も考えておいた方がいいかと思ってさ」

 彼の言う通りだ。例えば膝を痛めたからと陸上部は辞め、代わりにIT部所属となったという言い訳なら通用するだろう。北上のおかげで南達と井畑の子達の動きが判った。今後身を守る為にも対策は必要だ。攻撃する時が来るなら、武器は持っていた方が良い。それがネットなら、苦手だと弱音を吐き避けている場合ではなかった。アキラの為にも前へ進んで生きる為にここへ来たのだ。

「判りました。考えておきます」

「じゃあ俺は部活に顔を出す。君は早めに帰りなさい。部活が終わる頃にはいない方がいい。顔を合わすと厄介だ。引っ越ししたばかりだから、何かとやることもあるだろう」

「はい。そうします」

 二人とも食べ終わった弁当を片付け、美樹は席を立った。もう一度礼をしてから会議室を後にし、校庭から見えないよう廊下を歩いて職員室へと向かう。今回の件で関わりのありそうな方々を訪ね、話を通しておくためだ。

 まずは美樹のクラスの正担任である早坂、他にも休日出勤していた瀬川学年主任、三年制の学年主任を取りまとめる真壁まかべ部長を訪ね、それぞれに口頭で説明した。詳細は北上が報告書を上げると言っていた事を伝えると、

「判りました。高等部長や代理、学園長達には私から報告します。報告書が上がり次第協議し、その結果次第で和多津さんをお呼びすることもあるでしょう。それまでしばらく静観して下さい。それこそまだ引っ越ししたばかりで大変だから、今日も早くお帰りなさい」

 真壁部長から北上と同じ言葉を頂く。また定岡主任には詳細が決まってから挨拶すればいいというので、その日は早めに学園を後にした。

 それから一週間の間に、様々な教師達からの呼び出しを受けた。まずは学園長や学園長代理、高等部長に部長代理だ。そこまでは簡単な経緯説明と北上の書いた報告書を見ながらの簡単な質問事項に応えて、大変だったねと慰めとも面倒な問題を持ち込みやがってという皮肉とも取れるお言葉を頂いただけで済んだ。

 後は真壁と瀬川、早坂に定岡が加わり、今後について具体的な協議を行った。その場に北上の姿は無く、彼の言葉通りこの件から手が離れたようだ。

 あの日の午後、彼は美樹が陸上部を辞めたと部員達に伝えた。ほとんどの生徒はたいした関心を持たなかったようだが、南達だけは違ったという。急にどうして、何故とやたら疑問や質問をぶつけてきたようだ。

 それに対し彼は一身上の都合と告げ、部の上級生達が別に騒ぐような話じゃないと南達を叱った為、その場はすぐに治まったらしい。しかし裏サイト上ではそう簡単にはいかなかったようだ。

 案の定、南達はサイトで美樹が部活からいなくなったと書き込み、この件の首謀者達はまた逃げたと怒りをぶつけ、彼女達を再び動かそうとした。

 だが現実社会で接点がほぼ無くなり、校内で会っても美樹が南達を避けていた為、報告を受けた首謀者は気付かれたと悟ったらしい。途中から彼女達とのやりとりを諦めたようだ。使えないと知って切ったのだろう。よって表向きこの件は一旦収束したのである。

 しかし詳細は聞かないで欲しいと念を押されたが、首謀者達に対する監視は続いているようだ。何故なのか定岡主任に尋ねると、これまた個人情報保護の問題やら色々あるのでと言葉を濁らせた。

 ただ北上の言った通りプロ集団は首謀者達のIPを特定し、美樹が北上に伝えた人物達と一致したという報告だけは受けた。それもどうやったかは教えられず、問題があるから口外しないようにと強く言い聞かされた。

 また美樹は当初の提案通り、定岡の元でIT部の補佐をすることも決まった。ただし今回の被害者かつ関係者だからかネット監視には関わらず、主任の指示により部活動を円滑にする、いわば雑務担当となった。

 監視に携わらないで済むことには正直安心した。井畑の事件以来、ネットからは極力遠ざかっている。あの頃も限定されたSNS等に満ち溢れた悪意の塊を見たせいで、精神を病み学校へ行けなくなった。今はそこから抜け出したばかりなのだ。

「今後は何か動きがあれば定岡主任の元へ管理会社から連絡が入ります。彼もこの件の監視に関わっているので、和多津さんは通常通りの学園生活を送ってください。安心して下さいとまで断言するのは余りにも無責任でしょうが、今はひとまず安全な場所に避難した、と思って下さい。では定岡主任、後はお願いしますよ」

 真壁は最後にそう締めくくり、何度か行われた打ち合わせは一旦終わった。南達と井畑の子達との繋がりがネット上で絶たれたことは、現実世界において肌でも感じるようになった。

 陸上部を辞めたばかりの頃は校内で彼女達の視線を感じたが、それも徐々に無くなったからだ。しばらくすると完全に関心を失ったように思えた。その行動はネット上の流れと一致している。だからといってまだ油断はできない。

 なぜならプロによる井畑側の監視は引き続き行われている。つまり何らかの動きがあるか、動く可能性があることを意味していた。といって美樹にできることは何もない。それにいつまでも怯えて暮らす生活はまっぴらだった。それこそあの子達の思う壺である。

 あの町から逃げたのは確かだけど、息苦しい生活から唯一抜け出す方法だったのだから仕方がない。新たな世界で再出発するしか無かったのだ。それが井畑における悪意に負けない手段だった。

 しかしあの子達は閉ざされた環境から抜け出すことができない。だからこそ美樹が憎く、新生活の邪魔をしようと思ったのだろう。そうはいかない。彼女達に負けないため、アキラの為にもこの学園で踏ん張るしかないのだ。

 プロ達の監視のおかげか、しばらくは順調だった。IT部に顔を出して定岡主任の指導の元で雑務に追われる日々だったが、その忙しさが考える暇を与えず余計な事を忘れさせてくれたからでもある。それにIT部の生徒達がとても良い子ばかりだった事も影響した。

 中一から高三まで、男子が四十二人に女子が八名の総勢五十人という大所帯だ。意外だったのは、各個人でパソコンの画面に向かい黙々とキーボードを叩いているイメージを持っていたが、そうでは無かった。

 せいぜい集まっても二、三人で共同作業をやる程度かと思っていたが、実態は上の学年の子達が下の学年の子達の面倒を見たり、十数人で画面を見て騒いだりしていた。時には上下関係なく真面目に討論していることもあった。

 その姿は田舎にいた幼い頃の風景を思い出させた。男も女も年上も年下も兄弟、姉妹がいる子もいない子も一緒になって野原を駆け回る。帰りは年上の子達がより幼い子達の手を繋いで歩き、それぞれの家路につく。そんな情景と同じ匂いを感じたのだ。

 見た目や行っている作業は全く違う。緑と空の青、時には夕焼けの赤色が背景に見える姿はない。白い壁が薄汚れている教室でパソコン画面から出る青白い光の中、集まっているのは基本的に地味な私服を着た中学生や高校生だ。決して幼くはないし手を繋いで歩くこともない。

 それでも同じような光景が浮かんだのは、集団が生み出す空気感からだろう。生徒達の雰囲気が、田舎の原風景の幻覚を見させたのだ。さらに想定外だったことは、その中にあの来音心がいたことだった。

 今まで駒亭の食堂でしか見かけることはまず無く、学園でも彼がどんな学生生活を送っているのか全く知らなかった。その為見た目の印象からは、美樹と同じく外部と必要以上に関わりを持たない男子だと思っていた。なんとなく透明な膜を張っているように感じられたのだ。

 しかし部で見せる彼の顔は、それまでのイメージを打ち消した。といって極端に明るく活発な姿を見せていた訳では無い。一人で黙々と画面に向かいキーボードを叩く姿は、他人を寄せ付けないオーラを放っている。

 ただそれは単に集中しているだけで、先輩でも後輩でも声をかけられれば、分け隔てなく気さくに受け答えをし、時には中心になって場を盛り上げ笑いも取ったりしていた。

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