秋の風に吹かれて

月環 時雨

月野

 秋。

 季節の変わり目。暑い夏を寒い冬につなぐ季節。

 夏にあったことをそのまま洗い流してくれる。

 そして私にとっては、どうしても「彼」を意識してしまう季節でもある。


 秋月七瀬。

 私の好きな人の名前だ。

 秋の月。満月を連想させる名字。

 秋月君と私は仲が良く、去年の満月の日は一緒にお月見をした。

 でも、今年は違う。

 衣替えをし、制服が夏服から冬服になったころ、秋月君の隣には可愛い女子が並ぶようになった。

 彼女、だそうだ。春宮さんというらしい。

 秋月君に好きな人がいるのは知っていた。

 本人から聞いていた。相談もされていた。

 秋月君の恋が実るように応援したのは私。

 だけど、秋月君から告白が成功したと聞いたとき、私は素直に喜べなかった。

 よかったね。

 口ではそう言ったけれど、あの時うまく笑えていたかは分からない。

 秋月君と春宮さんは美男美女カップルで、付き合いだしたことはあっという間に知れ渡った。

 秋と春って、凄し安季節同士でお似合いだよね。

 そう言われた2人はまんざらでもない様子だった。

 名字で言うなら、私だってお似合いなのに。

 そんなこと、思っても言えるわけがなかった。

 付き合いだしてから、私と秋月君はあまり話さなくなった。

 そりゃそうだ、彼女がいるんだから。

 自分で応援したのに、それなのに、どうしても夜になると泣けてくる。

 どうして。どうして私じゃダメなのと。

 ずっと悲しいままは嫌だ。

 そんなとき、友達から言われた。

「秋は夏にあったことを洗い流してくれる季節なの。だからもういっそ告白して、夏まであった秋月君への気持ちを洗い流しちゃえば?」


「大丈夫、秋は、全部洗い流してくれる」

 小さな声で呟いて、秋月君を待つ。

 告白、することにした。

 たとえ叶わない恋だと分かっていても。

 本当に秋が洗い流してくれるなら。

「月野!」

 ずっと、ずっと聞いてきた、秋月君の声。

 ゆっくりと声のする方へ振り返る。

 秋の涼やかな風が、私の髪をなびかせた。

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