理想の茶碗

OZさん

第1話

 むかし、あるところに吾平という陶工がおりました。吾平は腕がよかったので、作るものはみなよく売れました。なかでも茶わんは特に評判が高く、吾平も好んで茶わんばかりを作るようになりました。

 やがて、吾平は茶わんを作らせたら天下に右に出るものはいないと言われるようになり、吾平の作る茶わんは、軽きこと羽のごとく、その形に一点のゆがみなく、その色に一片の濁りなく、指ではじけば妙なる楽の音がすると、その評判は遠く都にまで響き渡りました。

 吾平の家には、茶わんを求めに都の金持ちたちが列をなしました。

 吾平は、さぞ金持ちになったでしょうって?

ところが、そうではなかったのです。吾平は、せっかく作った茶わんでも、少しでも気に入らなければ、惜しげもなくたたき割ってしまうのです。それはもう、吾平にしかわからないような些細なことでもみな割ってしまうので、売れる茶わんなどありません。

 ごくたまには、吾平は渋々ながら茶わんを割らずに残すこともありました。でもそんな茶わんを売っても、そのお金はみんな茶わんを作るためにつぎ込んでしまいます。

 ですから、吾平は相変わらずあばら屋で貧乏暮らしをしていました。

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