十二人のお姫さま

@chased_dogs

十二人のお姫さま

 むかしむかし、あるところに十二人じゅうににんのおひめさまがいました。


 いち番目ばんめのお姫さまは、おじいさんと結婚けっこんし、おばあさんになりました。おじいさんとおばあさんは、二人ふたり仲良なかよしあわせにらしました。


 番目のお姫さまは、お金持かねもちのおうさまと結婚し、お金持ちになりました。


 さん番目のお姫さまは、ほんくのがきだったので、作家さっかになりました。とてもおおくの印税いんぜいもらったので、お金持ちになりました。


 よん番目のお姫さまは、インクのにおいが好きだったので、製本屋せいほんやさんになりました。三番目のお姫さまの本をたくさん印刷いんさつしたので、お金持ちになりました。


 番目のお姫さまは、本をむのが好きだったので、出版社しゅっぱんしゃこしました。三番目のお姫さまの本の版権はんけんったので、お金持ちになりました。


 ろく番目のお姫さまは、ごはんべるのがだい好きでしたので、世界中せかいじゅうのご飯を食べにきました。世界中をたびするうちに、ご飯を食べるのが大好きな王子おうじさまに出逢であい、二人は結婚しました。

 二人のおもに、世界中の料理りょうり紹介しょうかいした本を書いたところ、世界中の人がその本を読んで、美味おいしい料理をつくるようになりました。


 なな番目のお姫さまは、とても幸運こううんでしたので、何事なにごともなくしあわせにごしました。

 あるとき、隣国りんごくからとても幸運な王子さまがやってくると、二人は結婚しました。二人はいつまでも幸福こうふくでした。


 はち番目のお姫さまは、うみものが好きだったので、いつもふねって海をながめていました。

 あるとき、海のなかからたこの王子さまがやってくると、八番目のお姫さまに結婚をもうみました。お姫さまは海と海の生き物が大好きでしたので、ふた返事へんじで蛸の王子さまと結婚することにしました。

 八番目のお姫さまは、今では海の中で、蛸の王子さまと仲良くらしています。


 きゅう番目のお姫さまは、はたけたがやすのが好きで、特に胡瓜きゅうりそだてるのが大好きでした。

 あるとき、カッパの王さまたちがやってくると、九番目のお姫さまが作った胡瓜を食べました。カッパたちはその胡瓜の美味しいことにびっくりしました。それで、カッパの王さまはだれが胡瓜を作ったのかたずねました。九番目のお姫さまが「わたしが作りました」と言うと、カッパの王さまは「こんなに美味しい胡瓜は食べたことがない。僕も一緒いっしょにあなたと胡瓜を作りたい」と言いました。九番目のお姫さまはにっこりして「いいですとも。でも、胡瓜以外いがいもおねがいしますよ」と言いました。カッパの王さまはがってよろこびました。「勿論もちろんです」。

 それから、九番目のお姫さまとカッパの王さまは結婚し、今では二人で畑を作っています。ときどきカッパたちが手伝てつだいにるので、畑は以前いぜんよりずっと大きく、胡瓜もずっといっぱいれるようになりました。


 じゅう番目のお姫さまは、何でもよくできました。何でもできるので、十番目のお姫さまはきて国を出ていってしまいました。ほかのお姫さまたちは、十番目のお姫さまのことをさがしましたが、けっして見つかりませんでした。十番目のお姫さまは、いまでもどこかを彷徨さまよっています。


 十一番目のお姫さまと十二番目のお姫さまは、双子ふたごのお姫さまでした。何をするにも二人一緒で、ご飯を食べるのも、本を読むのも、お風呂ふろに入るのも、ベッドの上でねむるのも、ずっと一緒でした。目をませば二人そろってあくびをしました。

 二人ちがうところもありました。好きな髪型かみがた服装ふくそうは違っていましたし、読んでいる本も、十一番目のお姫さまは、魔女まじょおに妖精ようせいの出てくる、かなしいお話が好きでしたが、十二番目のお姫さまは、おとこおんな、王子さまやお姫さまの出てくる、楽しいお話が好きでした(お姫さまもお姫さまのお話を読むのです!)。


 あるとき、十一番目のお姫さまに一目惚ひとめぼれしたとおい国の王子さまが、十一番目のお姫さまに結婚を申し込みました。異国いこくの王子さまに、その宝石ほうせきのようなひとみ熱心ねっしんに見つめられると、十一番目のお姫さまも素敵すてき気持きもちになりました。そしてほどなく、二人は結婚しました。


 それから、十一番目のお姫さまと十二番目のお姫さまは、まったく別々のことをして暮らすようになりました。ずっと一緒だった妹と離れ離れになり、幸せだった十一番目のお姫さまは、しかし段々と不安になってしまいました。

 十一番目のお姫さまは夫の王子さまに相談します。王子さまはこころよ里帰さとがえりを了承りょうしょうしてくれました。それからすぐに旅支度たびじたく意気揚々いきようようと十一番目のお姫さまと異国の王子さまは、お姫さまの実家に向かいました。


 実家では、行方知れずの十番目のお姫さまを除いて、姉妹全員が出迎えてくれました。十一番目のお姫さまは、十二番目のお姫さまが元気そうなことに安心しました。

 その晩、久々に二人同じベッドに眠った十一番目と十二番目のお姫さまは、お互いのいない間の出来事を語り合いました。そして十二番目のお姫さまが提案しました。「今まで二人同じことをしてきたのだから、今度は二人入れ替わってみたらどうかな」

 十一番目のお姫さまは、とても楽しそうだと思いました。それから二人は大急ぎでお互いのことをノートに書き留めました。そして翌朝には、お互い格好を真似して出掛けました。

 十一番目のお姫さまになった十二番目のお姫さまは、十一番目のお姫さまの夫の異国の王子さまと帰っていきました。十二番目のお姫さまになった十一番目のお姫さまは、実家にいて一人で過ごしました。二人のお姫さまは、頻繁にお手紙を送り合いました。


 十二番目のお姫さまは、夫となった異国の王子さまと一緒に、色々なところへ出掛けました。見たことないほど大きな滝の滝壺のところまで船に乗ったり、信じられないほど大きな波の上をカヌーに乗って滑ったり、とても楽しい日々が続きました。けれども王子さまは、一緒にいるのが十一番目のお姫さまではなく、本当は十二番目のお姫さまであることに、まったく気がつきませんでした。


 十一番目のお姫さまは、ずっと過ごしやすい実家で、平穏に暮らしていましたが、平穏に暮らし過ぎたと思うようになりました。妹が楽しんでいることを手紙で読むことは、とても嬉しいことでしたが、夫が何も気づかないことが段々と不安になってきたのです。

 それから十一番目のお姫さまは、夫のことをときどき思い出すようになりましたが、思い出は段々とぼやけていき、思い出せる出来事も数えられるほどになってしまいました。お姫さまは溜め息をつきました。それと同時に、夫への情熱が風に乗って、口から出ていってしまいました。

 今では十一番目のお姫さまは十二番目のお姫さまとして、十二番目のお姫さまは十一番目のお姫さまとして、それぞれ暮らしています。誰も本当のことを思い出すことはないので、本当に十一番目のお姫さまは十二番目のお姫さまに、十二番目のお姫さまは十一番目のお姫さまになったのでした。


 おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る